作品タイトル不明
11-27 首都ロイザート
ラインハルトがベルチェの部屋から出てくると、廊下に仁の姿があった。
「ジン、どうしたんだ?」
「うん、ちょっと話があってな」
それで2人は仁の部屋へ行った。
「で、話って?」
椅子に座ったラインハルトが尋ねた。
「ああ、まずは礼子がちょっと大人げない事したことについてな」
そういうと仁は礼子を手招きした。
「あとでよくよく考えてみると、あれはベルチェさんとネオンの面子を潰したんじゃないかと思えてきてな……」
そういいながら仁は礼子の頭をぽんぽんと叩いた。
実は、礼子が老君に定期連絡をした際に、あのやり方は1つ間違えば相手の面子を潰し、不興を買う、と指摘されたのである。
「礼子に言わせれば、俺の名誉のため、だったそうなんだが、もう少し相手の事も考えてやるように注意したんだ」
礼子は少ししょげている。ラインハルトは笑ってそれを否定した。
「そんなことか。ベルチェは気にしていないよ。それよりも、『レーコちゃんにも何かお見せいただければ』なんて言ったベルチェにも責任はある」
ラインハルトは自分が仁を持ち上げていたからその実力を知りたかったのだろうと説明した。
「あいつは全然気にしていないよ。それにお友だちになりたい、とネオンも言っていたしな」
そう締めくくると、仁もほっとした顔になった。
「それなら、まあいいのかな。……あと、もう一つあるんだ。エルザの事さ」
今はカイナ村にいるエルザ。ラインハルトがどう報告するのか気になっていたのである。
「ああ、それについてはな」
ラインハルトは公的な立場での説明をした。
まず、国の許可は取り付けてあるとは言え、エルザが自分に同行したのは、公務とは別である事。
卑怯な言い方ではあるが、エルザが一度失踪したイカサナートで、彼女の実の兄であるフリッツから、はっきりとエルザの事はもうラインハルトの責任ではないと言われた事。
「だから報告の義務はないんだ。聞かれるまでは黙っているつもりさ」
「……でも、エルザはベルチェさんの事知っていたぞ? 彼女からエルザの事聞かれなかったのか?」
「ああ。僕とエルザが一緒に旅に出た事は知っているが、フリッツがエルザを迎えに行ったことも知っている筈だ。だからこの場にいないことに疑問を持たなかったんだろうな」
わざわざ今話すことでもないし、と少し寂しそうに笑うラインハルト。
「もう会えないわけでもないしな。帰国して、報告を終え、実家に帰ったらちゃんと説明しようと思っている」
「そう、か。……ラインハルト、その時はベルチェさんと2人、カイナ村へ招待するよ」
寂しげなラインハルトの顔を見た仁はそう言って笑いかけたのである。
「それは嬉しいな。いい思い出になりそうだ」
それを聞いて、今度はラインハルトも嬉しそうな笑みを浮かべたのであった。
ラインハルトが出ていったあと。
「礼子、すまなかったな」
仁が礼子に謝っていた。仁に謝られた礼子は面食らう。
「お、お父さま!?」
「お前にあまり女の子らしいことさせてこなかったものな。それは俺の責任だ」
「そんなことはないです。お父さまは……」
だが仁はそんな礼子を優しく抱きしめて、
「いいや、娘だ娘だと言いながら、いつの間にかお前に荒事を任せきっていた俺が悪い」
「お父さま……」
仁と礼子はその夜遅くまで語り合っていた。
* * *
5月13日。ショウロ皇国首都ロイザートに行く予定の日である。
仁は朝6時前に礼子の声で起こされた。仁は5時と言ってあったのだが、昨夜遅くまで起きていたからという礼子の配慮である。
「お父さま、お時間です。いいお天気ですよ」
「……うん、そうか」
昨夜遅くまで起きていた仁は、眠い顔をこすって起きると、顔を洗って着替え、宿の外へ。今日もいい天気である。
駐馬車場へ行くと、スチュワードが見張りをしていた。
「おはようございます、ご主人様」
「おはよう。見張りご苦労」
仁はそう言って馬車に乗り込む。礼子も続いた。
『おはようございます、 御主人様(マイロード) 』
蓬莱島ではいつも通り老君の声が出迎えてくれる。
「おはよう。村には何か変わった事はないか?」
『はい、特には。カイナ村の方へは新規に製造した5色ゴーレムメイドを送り込んでおきました。ナンバーは各101です』
バトラーB、Cと5色ゴーレムメイド、そしてバロウとベーレ。パートタイムでミーネ。これで、仁の城には十分な手が揃ったことになる。
「うん、それで安心だな。カイナ村の方はぼちぼちやっていこう、急激な改変は良くないだろうからな」
『わかりました。それから、リシアさんがクライン王国の使者、大使としてこちらへ向かっているという報告が入りました』
「リシアが?」
考えてみれば、徴税官として来たこともあり、仁とも面識がある。そう言う使者に命じられてもおかしくはない。
『本日はおそらくシャルル町泊になるかと思われます』
「馬か?」
『はい。それでもトカ村泊、そして昼過ぎカイナ村、の日程になるかと思われます』
使者が馬を飛ばしてやって来るというのは平時にはあまり例がないから老君の推測で間違いないだろう。
急ぐのは唯一、トカ村とカイナ村の間くらいである。宿泊地が休憩舎しか無いからだ。
「そうすると15日の昼か……帰れるものなら帰ってくるが、まだ不透明だなあ」
ショウロ皇国首都で何があるか、仁にもわからないから当然だ。
そういった報告のやりとりが30分くらい。
仁は、一番の目的、風呂へと向かった。
今まで泊まった町は、水不足のためか風呂が無く、せいぜいお湯で身体を拭く程度だったため、風呂好きの仁としては我慢できなかったのだ。
まして、今日は首都に到着する予定、そうなるとこっそり抜け出せない可能性もある。
「ふう、やっぱり風呂はいいなあ」
あまりのんびりは出来ないものの、お湯の中で手足を伸ばして仁は寛いでいた。隣には礼子。
「お父さま、今日はいよいよ首都到着ですね」
「ああ、ショウロ皇国の首都か、楽しみだな。確か近くに大きな湖があったよな?」
「はい。ラインハルトさんによると、トスモ湖とシゥジュ湖というそうです。そのおかげで首都近辺は他と違って水が豊富らしいですよ」
礼子は話を聞いたり、老君とやりとりしたりしているため、仁よりも事情通である。
あまり長湯も出来ないので、さっと頭と身体を洗って仁は風呂をあとにした。そして、
「それじゃあ行ってくる」
との言葉を残し、仁はリアレへ戻った。
* * *
「ラインハルト様、朝の空気は心地よいですわね」
仁が馬車から顔を出すと、ラインハルトとベルチェが腕を組み、仲睦まじく散歩しているのに出会った。
「おはよう、ラインハルト、ベルチェさん」
仁がそう声を掛けると2人も挨拶を返す。
「おはよう、ジン」
「おはようございますわ、ジン様」
ベルチェも仁の馬車に試乗させてやってくれ、と言うかと思ったが、そうはならず、挨拶だけして2人は腕を組んだまま歩いて行ってしまった。
「……仲いいな」
その言葉に何かを感じたのか、礼子が仁の服の袖をちょっとだけ摘んできた。
「……お父さま、私がおります」
「礼子?」
「……何があっても、私がおそばに」
仁は礼子に気遣われたのを感じ、黙って礼子の頭を撫でた。礼子は目を細め、仁にされるがまま。
そして仁は礼子の肩をぽん、と叩くと、宿へと向かったのである。
仁が宿へ戻った後、10分か15分してラインハルト達も戻ってきた。
そして朝食を済ませればいよいよ出発である。
「ジン、今日は、僕は自分の馬車で行く。君は最後尾から来てほしい」
ラインハルトがそう言った。公式な帰国であるから当然の行動だろう。もちろん一行ではないベルチェは一足先に戻ることになる。
「わかった。付いていくよ」
「済まんな。本当なら道中、いろいろ説明したいことがあるのだが」
「ジン殿、部下を2名付けます。何かお聞きになりたければその者にお尋ねください」
マテウスも今日はラインハルトの護衛としての務めをしっかりと果たさねばならない。
「うん、ありがとう」
「では、出発準備」
そして、30分後、一行はリアレの町を出発した。ハルド、ニアと街を過ぎ、ホレの街でやや遅い昼食。そこであらためて身支度を確認。
次はいよいよ首都である。
ここまでで仁が感心したのは、リアレから先、街道が簡単ながらも舗装されていたことだ。おそらく 硬化(ハードニング) の魔法と思われるが、このおかげで馬車の速度が3割増しになる。
ラインハルトがベルチェを試乗させてやってくれと言わなかったのも一つにはこれが理由だろう、と仁は思った。
ニアを出てからは民家が途切れることなく続いていた。水の便がいいというのはそれだけで人が集まる理由にはなるものだ。
そしてホレの街を過ぎると、更に密度が上がっていった。家も平屋建てから2階建てになり、3階建ての家も散見されるようになった。
ほとんどは石造りであるが、中には木造の3階建てもあるあたり、建築技術の高さが窺える。
仁は、建築は専門外だが、それでも見ていて飽きなかった。
そんな仁の目の前に広い堀が見えてきた。首都ロイザートは城壁が無い代わりに、広い堀割に囲まれているようだ。
いつか見たジロンの街に似ているが、堀の幅は3倍以上ある、おそらく深さも相当あるだろう。
その堀割には船が浮かんでおり、交通や運送の手段に使われているのが見て取れた。
堀割には、床板の一部が木造になっている長い石橋が架けられていて、ロイザートへの街道の一部をなしている。
木造の部分はいざという時に焼き落として敵の侵入を防ぐためだろう。
「しかし、堀だけで5、60メートルはあるな。橋脚の高さも10メートル以上ある。水の都、といった感じかな」
とは仁の第一印象である。
橋の幅も10メートル近くあり、馬車同士のすれ違いも楽々できるほど。
「このような橋は東西南北の4箇所にあるようです」
とは老君からの情報を聞いた礼子による説明であった。
先頭を行くマテウス。首都を守る兵達は短い確認後、左右に分かれて一行を通した。
いよいよ最後尾の仁。
ゴーレムの御者が操り、ゴーレムの馬が牽く奇妙な馬車。それだけでも十分怪しいと思うのだが、事前に連絡がなされていたのか、特に、何も問われることなく通過。マテウスとその配下が信用されている証拠だ。
仁はいよいよショウロ皇国首都ロイザートに馬車を進めたのである。