軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-24 エルザの成長

ペンを作り終えた仁は、ゴムボールの作り方を伝授することにした。

昨日設置した樹液採集の容器はランドAが回収して来てくれている。

「いいか、これが生ゴムだ」

「生ゴム……」

容器に溜まった粘つく白い液体をエルザは不思議そうに見つめた。

「このままだと、暑い時はどろどろになるし、寒くなると固まるんだ。それを一定の硬さにする方法がある」

「…………」

真剣な顔で聞き入るエルザ。

「それは、硫黄を混ぜることだ。理由の説明はまた今度な。で、重さで15パーセントから20パーセントの硫黄を混ぜる」

「ん」

仁は、小さい容器に生ゴムを移し替え、硫黄の塊を差し出した。

「まずやってみせる」

そう言って、仁は 分析(アナライズ) で生ゴムと硫黄の重さを調べた。

「生ゴムがおよそ250グラムだから、硫黄は38グラムってところだな」

硫黄を必要量用意するのは大きい塊に 分離(セパレーション) をかけることで行う。

「これを混ぜる。『 均質化(ホモゲナイズ) 』そして『 加熱(ヒート) 』」

均一に硫黄が分散したところで加熱すれば架橋という反応が起きて、生ゴムはゴムに変わり、熱を加えても融けなくなるのだ。

「最後に、『 変形(フォーミング) 』。で、この時、中に空気を入れなくてはならない。それには一度、一部分をものすごく薄くしてやるんだ」

ごく薄いゴムの膜には空気が通るくらいの穴が無数に空いている。そこから空気を中に取り込み、再度膜厚を増やせば空気が閉じ込められるというわけだ。

「そして『 表面処理(サフ・トリートメント) 』で膜を緻密にする。これでボールの出来上がり」

空気が漏れないような処理まで行い、ドッジボールが出来上がった。

エルザも子供たちがボールで遊んでいるのは見たことがあったので、そのボールがこうして出来上がるのか、と腑に落ちた気がした。

「さ、やってごらん?」

仁は、最初なので少量から始めさせようと、80グラムほどの生ゴムを差し出した。

まずは必要量の硫黄12グラムを準備するところからである。

「いいか、前にやった通り、1グラムの積み重ね、ということを思い出せ」

「ん」

エルザは懸命に1グラムを思い出し、それを脳内で12回足し合わせる。そのイメージが固まった瞬間に、

「『 分離(セパレーション) 』」

と、硫黄を必要量取り出した。それを見ていた仁は、

「うん、よくやった。ほとんど誤差がない。凄いぞ」

と褒めた。嬉しくなったエルザは続けて魔法を使っていく。

「『 均質化(ホモゲナイズ) 』。『 加熱(ヒート) 』」

「そうだ。熱しながら、ゴムの様子を観察することを忘れるな」

「ん」

そして慎重に加熱すること1分、見事にゴムが出来上がった。ここまで来れば、ボールを形作るのは朝飯前である。表面の処理も滞りなく行い、野球ボールが1個完成した。

「1発で成功か、エルザも上達したなあ」

「ジン兄のおかげ」

「これで子供たちがもっとボール欲しがったりしても大丈夫だな」

「ん、任せておいて」

力強く頷くエルザを見て、仁は立ち上がった。そろそろお昼である。

工房から出ると、ちょうどハンナが呼びに来たところ。仁とエルザは手を洗ってマーサ邸の食堂へ向かった。

「あ、ジン様」

食堂には椅子が増えており、バロウとベーレも来ていた。

「あ、あの、お昼はマーサ様が一緒に食べていい、って言って下さって」

まだ若干緊張気味なバロウである。仁は笑って答える。

「ああ、いいと思うぞ? そのうち慣れたら城で作ったりもしてみろよ?」

仁がそう言うと、ベーレが元気よく答える。

「はい! 今、マーサ様とミーネ様からお料理を教えていただいているところです!」

「私もセルロア王国風の料理を幾つか教えてもらいましたよ」

ミーネが笑って言った。その時、バロウがおずおずと発言する。

「あ、あの、ジン様、幾つか質問よろしいですか?」

パンを口に入れていた仁は頷くことで肯定してみせる。

「は、はい、あの、その、ここは……クライン王国なんですよね?」

「ん? そうだけど?」

パンを飲み込んだ仁は、今度はちゃんと答えた。

「で、では、あの、トスコシアからは何百キロも離れているクライン王国に、どうやって僕らを連れてきて下さった……んです……か……」

何となく聞きづらい内容だと直観的に感じたのか、尻切れとんぼのようにだんだん声が小さくなっていった。

「あー、そうか。まあ、疑問だよな。うーん、それについては、そういう手段があるから、とだけ答えておく。詳しく教えるかどうかは今後ということにしよう」

仁がそう言うと、今度口を開いたのはベーレだった。

「はい、 あたしたちが信用出来るかどうか、見極めてから、って事ですよね! 頑張ります! ……ほら、バロウも言いなさい!」

「あ、あの、……がんばり、ます……」

覇気のない言葉に、言い直し! とかもっと元気よく! とか突っ込まれているバロウ。完全にベーレの尻に敷かれているなあ、と仁は微笑ましく思った。

昼食後、バトラーBとCがやって来る。もう老君は対応したようだ。バロウとベーレはその2体と共にお城へと行った。

この分では5色ゴーレムメイドも来ていそうだ。バロウの驚く顔が目に浮かぶ。

「ベーレの方が順応性高いな……」

などと仁は思ってるが、順応というより常識をかなぐり捨てているだけということに気が付いてはいない。

「あ、ジンさん、ペンの方はいかがですか?」

そこに、ローランドとボーテがやって来たので、

「ああ、出来てますよ」

と言って、工房から箱に入れたペンを持ってきた。

「ありがとうございます、さすがジンさんですね」

とにこやかにそれを受け取るローランド、そしてその後ろで目を丸くしているボーテが対照的である。

「エルザに手伝って貰いましたしね」

と仁は改めてエルザを紹介する。先ほどは顔合わせしかしていなかったのだ。

「妹分のエルザ、です」

エルザも自己紹介。ローランドは『妹分』という所にちょっと引っかかったものの、商人らしくスルー。

「エルザさん、ですね、今後ともよろしくお願いいたします」

「こちらこそ」

エルザの紹介も済んだので、

「作成数量は落ちますが、エルザもペンやボールは作れますので、俺がもし不在でも大丈夫です」

と言えば、ローランドは喜ぶ。相当、ボールを欲しがるお客にせっつかれていたらしい。

「ペンの料金ですが、ペン先は1個200トール、一体型は1本500トールでいかがでしょうか」

先に値段の交渉をしないところがいかにも仁であるが、ローランドは良心的な値段を持ち出してきた。

また、あまり安くしても、従来品を駆逐してしまい、市場を独占したり、従来品に関係する人たちの不利益に繋がり……など、健全な経済発展に支障を来す可能性もある。

まあそこまでローランドが考えていたかは本人にしかわからないが。

「はい、それでいいですよ」

その一方で、簡単に諒承する仁。このあたり、バロウたちが使えるようになったらサポートさせるべきだろう、と、横にいたミーネは思った。

ボールの値段は以前と同じとし、代金を受け取る仁。

それを全額、仁はミーネに預けた。

「はい、確かにお預かりしました。ジン様、そうしましたら、私もお城で働かせて貰えませんか?」

詰めっきりというわけには行きませんが、とミーネは続けた。要はパートみたいなものである。

「うん、バロウ達もまだ慣れないだろうし、いいんじゃないかな」

それは願ってもない事なので仁は二つ返事で承知した。

「あの2人の教育も少しして貰えるとなおいいな。給料は月に金貨1枚でいいかな?」

10000トール、約10万円である。この村での一月分の食費が1000トールには届かない事から考えると十分な金額である。

ミーネは常勤でないのに多すぎる、と言ったが、仁は聞かなかった。

「いつも留守を任せているし、これからもまた留守がちになるからさ」

そう言って仁は、時刻が1時を回った事を知ると、

「さて、また行かなくちゃな」

と言って、シェルターではなく工房地下へ向かった。

ローランドたちはもういなくなっていたので、それを不審がる者はもういない。

「それじゃ、行ってきます」

「いってらっしゃい、おにーちゃん!」

「いってらっしゃい、ジン兄」

「気を付けるんだよ、ジン」

「行ってらっしゃいませ」

と、皆の見送りを受け、仁はラインハルトたちと合流すべく転移したのであった。