作品タイトル不明
10-18 予想外
「おにーちゃーん」
仁が廊下に出た物音を聞きつけたのか、ハンナも廊下に出て来た。見ると、また違うドレスを着ている。
今度のドレスは袖が無く、肩紐で吊すタイプ。胸元も広く開いているが、胸のないハンナが着ているのでまったく色気はない。
スカートはふわりと広がっており、ハンナが歩くたびにわしゃわしゃと音がしているのは下にパニエを穿いているからだろう。
「ジン、どうじゃ? 半分くらいは終わったのかの?」
悪戯っぽい目でそう尋ねてくるリースヒェン王女。仁はそんな王女に微笑みかけ、
「全部終わりましたよ」
と言葉短かに答えたのである。
さすがにその答えは予測していなかったのか、
「なんじゃと!?」
と王女は目を剥いた。
魔法工作士(マギクラフトマン) という者をよく知らない王女ではあったが、自分なりに見当を付けてはいた。だがそれは良い意味で完全に裏切られたのである。
「姫様、本当ですよ。ジン様はすばらしいお方です。私も完全に直していただけました」
そう口添えしたのはティアであった。
「テ、ティア! おまえ、歩けるようになったのか!」
「はい、おかげさまをもちまして、ジン様に直していただけました。元通り、いえ、元よりもいい身体にしていただけました。これでずっと姫様のおそばにお仕え出来ます」
「そうか、そうか……!」
王女はティアに飛び付いた。そんな王女をティアはしっかりと受け止める。今までのティアは、おそらく脚が不自由だったろうから、こんな事は初めて出来たことだろう。
「ほら、この通り」
ティアはそう言って王女を抱き上げた。これが正真正銘、お姫さま抱っこである。
「よかった、よかったのう……」
昨日、ティアが再起動したとき以上に喜ぶ王女を見て、仁もエルザも、そしてハンナも微笑みを浮かべていた。
* * *
「本当は父王に紹介したかったんじゃがのう……」
昼食をご馳走になったあと、仁たちはおいとましたい、と王女に告げた。
王女は少し渋ったものの、頷いてくれたのである。無理に引き止めても良い結果にはならない、と思ったのかも知れない。
その時、
「失礼致します」
との声と共に、近衛女性騎士隊隊長のジェシカ・ノートンと、同じく副隊長のグロリア・オールスタットが揃ってやって来た。
「おお、ジン殿もおられたか」
ジェシカが仁たちを見て良かった、という顔をした。
「昨日のゴーレム、あれらの解析結果が出たので、姫様に報告に来たのだ。諸君らも協力してくれた縁で聞く権利がある」
それで応接間に移動する。すっかり調子良くなった 自動人形(オートマタ) たちがきびきびと働いているのを見たジェシカは目を見張った。
「おお、昨日とは見違えるような動きだ。ジン殿、貴殿が?」
「そうじゃ。ジンは、ここにいる全ての 自動人形(オートマタ) を直してくれたのじゃ」
「おおお、やっぱり! 彼は超一流の 魔法工作士(マギクラフトマン) でしたね! 剣だけでなく 自動人形(オートマタ) にも詳しいとは……ああ、そういえば素晴らしい 自動人形(オートマタ) を側に置いていましたっけ。さすがエゲレア王国の 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) !」
暑苦しいセリフはもちろんグロリアである。彼女は、仁に作ってもらったショートソードを早速腰に提げていた。
自動人形(オートマタ) 、いや、ティアがお茶を持って現れた。
「ひ、姫様、こ、これは!?」
昨日は辛うじて動けるようになったティアが、今日は普通に動いているのを見てジェシカはまたもや目を丸くする。
「ふふ、驚いたか! ティアも今日、ジンが直してくれたのじゃ!」
お茶を一口飲み、王女は自慢げにそう言った。
「それよりも報告とやらを聞かせてくれぬか」
「は、はあ……」
額の汗を拭い、姿勢を正したジェシカは報告を開始。その姿からはさすが、近衛女性騎士隊隊長の威厳が感じられる。
それによれば、拿捕したゴーレム2体は 統一党(ユニファイラー) が荷馬車に積んで密かに運び入れたもの。
27日の昼頃に起動し、アルバンを混乱させるのが目的だったようだ。
それを聞いた仁は内心で想像する。
運び込んだ時点では、まだ 統一党(ユニファイラー) は世界征服に邁進していた時期であり、ジュールたちもここまで手が回らなかったのだろう、と。
「不審な3名はやはり 統一党(ユニファイラー) の工作員でした。ですが、先に通達されていた『 催眠(ヒュプノ) 』ですか? そういう操られていた形跡はありません」
幹部でない一般構成員は、洗脳せずとも世界征服に進んで協力する者が多いためである。このことは仁もジュールたちから老君経由で耳にしていた。
「 統一党(ユニファイラー) 、か。厄介な相手じゃのう……」
渋面を作る王女。そんな王女に、もう 統一党(ユニファイラー) は無害になりました、と告げてやりたい衝動を抑える仁であった。
「報告ご苦労。そうじゃ、これからジンたちを送って城門まで行こうと思うのじゃが、お前達も来てくれるか?」
「はっ、姫様の命とあれば」
「え、ジン殿、お帰りになるのですか?」
ジェシカはすぐに承知し、グロリアは一言残念そうに呟いた。
「またいつか、遊びに来ますよ」
仁はそう言って立ち上がった。エルザ、ハンナも続いて立ち上がる。礼子はほぼ空になったはずの袋を持っている。なぜか中身が詰まっているようだ。
王女の馬車で一行は南の城門を目指す。馬車に乗っているのはリースヒェン王女、ティア、仁、エルザ、ハンナ、礼子。ジェシカとグロリアは馬に乗り、馬車の前後を警護している。
ハンナは王女のドレスを着たまま。他にも何着か貰ったのである。実は礼子が持っている荷物には貰ったドレスが入っていたのだった。
「そうじゃ、これを渡しておく。昨日頼まれたものじゃ」
更に王女は、仁たちに入城許可証を差し出した。
銀色をしているそれは、王族が認める人物であることを証明するもの。いつの間に刻んだのか、仁、エルザ、ハンナの似顔も刻まれており、他の者が使えないようになっている。
「これがあれば、いつ何時でも城門を通れるのじゃ」
一般人は城門が開いている時間、すなわち午前7時から午後6時までしか通行できないが、この銀色の許可証を見せれば、戦争などの非常時を除いていつでも通行可だという。
「ありがとうございます」
仁は有り難く受け取る。似顔では髪の色などはわからないので、うっかり違う色の髪色で訪れても大丈夫だろう。
「それからこれは、 妾(わらわ) の気持ちじゃ」
そう言って王女は、ずっしりと重い袋を仁に手渡した。
「金貨で50枚、これが妥当かどうかはわからぬが、 妾(わらわ) に出来る精一杯のところじゃ。勘弁してくれい」
50万トール、約500万円である。仁はそれを受け取るのを拒否。
「殿下、これでは多すぎます」
「む、そ、そうか? じゃが、 妾(わらわ) としては……」
「いえ、そのお金も、元はといえば民からの税でしょう。無駄に使うことは良いことではありません」
仁がそう言って諭す。その金貨の0コンマ数パーセントくらいは、去年仁たちが運んだ麦の分かも知れない。
「むう、それではいくらなら受け取って貰えるのじゃ?」
逆にそう聞かれて仁は少し言葉に詰まった。
「そ、そうですね、金貨2枚くらいではないでしょうか」
適当にそう答えると、王女は袋から金貨を5枚出して仁に握らせた。
「お主のしてくれた事は 妾(わらわ) にとって金貨50枚でも足りないくらいだったのじゃ。それはわかってくれ。そしてな、気持ちはわかるがあまり謙遜するでない。それはお主のしたことの価値を下げることになるのじゃから」
そう言って仁の手をぎゅっと握り、
「お主たちと知り合えて楽しかった。もし良ければ、友人になって貰えるか?」
仁は、そしてエルザは王女の気持ちが良くわかったし、ハンナは、優しくしてくれた王女であるから、
「はい、喜んで」
「ありがたいことです」
「おうじょさま、おともだちになってくれるの? わーい!」
断るはずもなく。
「うむ、感謝する。では、以後、 妾(わらわ) の事はリースと呼んで欲しい」
「はい、リース様」
「リース様、でよろしいでしょうか?」
「リースおねえちゃん!」
「おう、それでよい。ああ、今日は良き日じゃ」
そうこうするうち馬車は城門外に出て止まった。ジェシカとグロリアは付近に怪しい者がいないか、確認するために馬を飛ばし、少し離れた森近くまで駆けていった。
仁は城門までで結構です、と言ったのだが、王女は名残惜しいらしく城門の外まで馬車を走らせてくれたのだ。
そして駐めた馬車の窓から外を眺め、
「外にお主たちの馬車があるのか?」
との王女の問いかけ。それには、まあそうです、と少し曖昧に答えておくしかない。
「まあいい。詮索するつもりはない。……それではの。またいつか、会いに来てくれ」
そう言いながらリース王女は仁たち1人1人の手を握った。
そして扉が開かれる。
踏み台が置かれる前に、真っ先に降りたのは、扉に近いところに座っていたハンナだった。
パニエの擦れる音をさせながら元気に飛び降りる。
その時、そのハンナを抱き留め、首筋に短剣を当てた者がいた。