作品タイトル不明
09-44 更に上
戦場には、ゴーレムが溶けた金属と、ゴーレムに使われていた 魔結晶(マギクリスタル) とがそこかしこに点在している。
そんな中、地上を観察していた仁が、あることに気が付いた。
「ん? エルラドライトの数が少ない気がする」
制御核(コントロールコア) や 魔力炉(マナドライバー) 、 魔力貯蔵庫(マナタンク) に使われていた 魔結晶(マギクリスタル) はそこら中に見受けられるが、エルラドライトは数十個くらいしか発見できなかった。
「そうか、稀少な 魔結晶(マギクリスタル) だから、全部のゴーレムに装備することはさすがに 統一党(ユニファイラー) でも無理だったか」
そう独りごちた仁は、 魔結晶(マギクリスタル) の回収をランド91から100に命じたのだった。
* * *
電磁誘導放射器(インダクションラジエータ) の効果で、旧型戦闘用ゴーレムは文字通り全滅。
頼みの綱の万能ゴーレムも、礼子の働きで数を減らしていた上、ランド隊が再び参戦したため、その運命は最早風前の灯火であった。
「なんでなんでなんで! いったい何が悪かったというの!」
最早エレナの叫びは悲痛を通り越し、パニックを起こしていた。
「エレナ、落ち着け。まだ『あれ』が残っているじゃないか」
ドナルドは部下に対する優しさをもって、真の主人であるエレナを宥めた。
「そう、そうね。今こそ『あれ』を出す時だわ。ドナルド、許可するわ、出しなさい!」
「はいっ」
ドナルドは残っている数体のゴーレムに命じ、『あれ』と呼ばれた過去の兵器を搬出させた。
* * *
「ごしゅじんさま、また何か出てきます」
戦場を注視していた仁に、周辺の警戒をしていたアンが言った。
岩壁に大きな口が開き、そこから何かが出てきている。
「ん? 何だ? あれ」
それは巨大な弓、にも見える。
左右に張りだした弧を描く梁。中心にはレールらしき部材が通っている。
「あれは…… 射出器(バリスタ) ですね」
「なるほど、あの巨大な弓で砲弾を射出するのか」
見ていると、数体のゴーレム達が弩を引き絞り、岩砲弾を飛ばそうとしていた。
ゴーレムの大きさから推定すると、弓部分の長さは約10メートル、飛ばそうとしている岩は直径50センチ。
石の比重を3くらいとすると、およそ200キロの石である。
「あそこから届くのか? とにかく、注意させよう。……ランド隊、タイタン、注意せよ! 岩砲弾が放たれようとしている!」
仁の勧告とほぼ同時に岩砲弾が発射された。
放物線を描き、200メートルほどを飛んだそれは、混戦模様の戦場に落下した。
仁の注意勧告によりランド隊には被害は出なかったが、岩砲弾は生き残っていた万能ゴーレムの1体に向かって飛んでおり、その運の悪い万能ゴーレムはダメージを受けていたらしく、回避できず、直撃。
味方の砲弾に胴体を潰され、大破した。
更に2発、岩砲弾が飛んで来るが、ランド隊は全て回避。敵万能ゴーレムも、動作不良を起こしていないものは回避できた。
そこでエレナは指示を変更、 射出器(バリスタ) をより戦場に近づけさせ、今度は的の大きいタイタンを狙った。
が、秒速10メートル程度の岩砲弾は脅威にはならない。タイタンは簡単に回避した。
「だがぶつかったらそれなりにダメージは受けそうだな。……礼子、まだ弾は残っているか?」
魔力砲(マギカノン) を持つ礼子に対処させようと、仁は連絡を取った。
「はい、お父さま。アダマンタイト砲弾はもうありませんが、鋼鉄製砲弾でしたら残弾5発です」
「よし、それでいい。5パーセントくらいで敵 射出器(バリスタ) に向けて発射だ」
「わかりました」
そこで礼子は戦場から高速で離脱。500メートルほどの距離を取った。
そして 魔力砲(マギカノン) を構える。狙うは敵 射出器(バリスタ) 。砲身はほぼ水平。
「出力5パーセント、発射!」
アダマンタイトよりも軟らかい鋼鉄製砲弾は、マギ・アダマンタイト製の砲身内で削られ、その速度を若干減じつつ発射された。
それでも初速はマッハ2を超え、500メートルならほぼ直線で狙える。
* * *
「もっとよく狙いなさい!」
なかなか当たらない岩砲弾に苛立ちを隠せないエレナ。
元々 射出器(バリスタ) は動きの鈍い巨大魔獣や魔族の砦攻撃用に開発された兵器である。
タイタン1の動きを捉えられるはずもなく、ましてやランド隊は無理。
「なんて役立たずなの!」
そう叫んだ瞬間のこと。
射出器(バリスタ) がいきなり半壊した。
「な、何? 何なの?」
またしても訳がわからないうちに自軍の兵器が破壊されたことにエレナは慌てる。
魔導投影窓(マジックスクリーン) には、更に破壊される 射出器(バリスタ) の様子が映し出されていた。
「ああもう! いったい何が起きているの?」
「エレナ、あれを!」
別の 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見ていたドナルドが叫んだ。
その 魔導投影窓(マジックスクリーン) には、何やら細長い筒状のものを構える小さな影が映っていた。
「あれは? 小さくて良くわからないわね?」
彼等の 魔導投影窓(マジックスクリーン) ではこれ以上の拡大はできないのであった。
「よくわからんが、さっきのあいつらしいぞ?」
「あの黒髪の化け物ね? くう、どこまで私たちの邪魔をしてくれるというのかしら!」
射出器(バリスタ) の脅威が無くなった今、ランド隊は残る 統一党(ユニファイラー) のゴーレムを片付けていく。
そしてついに、動ける 統一党(ユニファイラー) のゴーレムは皆無となったのである。
* * *
「ごしゅじんさま、敵ゴーレム沈黙。攻撃も 射出器(バリスタ) 以降、止んでいます」
アンが戦場を見渡してそう言った。仁も同じ印象を受けていたので、
「いよいよ打ち止めかな?」
アンに同意する。が、慎重を期するため、しばらく時間を掛けて戦場の確認を陸と空から行った。
「うん、やっと終わりみたいだな」
統一党(ユニファイラー) の抵抗も潰えたと判断した仁は、敵本部内への侵攻を指示することにした。
「ランド1から40はその場に留まり、後背援護だ。41から60は 射出器(バリスタ) を運び出した扉から突入。61から80は正面の出入り口から。81から100は西側岩壁の出入り口から突入せよ」
「お父さま、私はどうしますか?」
地上にいる礼子が問い合わせてきた。仁はそれに答える。
「礼子はもう少し待て。3箇所のうち、手強そうな抵抗があった場所へ応援をかねて突入を頼む」
「わかりました」
だが、5分経ち、10分経っても、各突入部隊はさしたる抵抗に遭っていないらしい。それで仁は、ペガサス1を降下させ、身代わり人形を降ろした。
礼子がそこへ駆け寄ってくる。
「礼子、それじゃあ身代わり人形と一緒に正面から突入を頼む」
「はい、わかりました。それで、申し訳ないのですが」
礼子は桃花を差し出し、
「お父さま、桃花が傷みかかっています」
と言った。仁はそれを受け取ると、刀身を確認。確かに、アダマンタイト製の刀身には若干の歪みが出、強度も低下していた。
「わかった。研究所に帰ったら、マギ・アダマンタイト製にバージョンアップしてやる。それはそうとして……狭い場所なので、 魔力砲(マギカノン) の出番は無いだろう。置いていけ。代わりにこれを持っていくといい」
そう言って、 超高速振動剣(バイブレーションソード) を差し出した。ランド用ではなく、予備に積んできた 隠密機動部隊(SP) の少女型用のサイズである。
「わかりました。今回はこれをお借りします」
次いで、仁はアンにも指示を出す。
「それからアンも付いていけ。魔導大戦時の砦だったら、構造にも詳しいだろう」
「はい、ごしゅじんさま」
「アンはこれを持っていくといい」
麻痺銃(パラライザー) と 守護指輪(ガードリング) を仁は手渡した。
「はい、ありがとうございます」
「よし、俺は上空で待機する。くれぐれも無理はするなよ」
「はい!」
仁はペガサス1で再び空へ。礼子とアン、身代わり人形は 統一党(ユニファイラー) 本部へ。
ここに、対 統一党(ユニファイラー) 戦の最終局面が幕を開けた。