軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-11 エルザ、また失踪

老君と礼子の相談はまだ続いている。

『では、私たちだけでは 御主人様(マイロード) を説得できないというのですね?』

「そうです。所詮私たちはお父さまの被造物、残念ですがそこまでの影響力はないと認めざるを得ません」

双方の意見は一致したようだ。

『では、どうすると?』

老君から礼子への質問。

「不本意ですが、エルザさんにお願いしてみましょう」

礼子はそう答えた。かなり顔を顰めているところを見ると、礼子としても苦渋の決断らしい。

『では礼子さん、崑崙島からエルザさんを連れてきてください』

「わかりました。その間のお父さまをよろしく」

『承りました』

そう言う会話が交わされ、礼子は 転移門(ワープゲート) で1人崑崙島へ跳んだ。

「こんにちは」

声を掛けてエルザたちのいる客室棟へと入る。元々は仁の持ち物だから遠慮する必要は無いかもしれないが、礼儀というものだ。

「はい。……あら、レーコさん?」

ミーネが出てきてちょっと驚いた顔をした。

「こんにちは。実はお父さまのことでエルザさんにお願いがありまして」

「私に? なに?」

ミーネの後ろからエルザも顔を出した。

礼子は、2人に今の仁の様子を説明していく。エルザとミーネは黙って聞いていた。

統一党(ユニファイラー) に対抗しようとしていること。戦争を意識していること。何が出来るか悩んでいること……

「以前ほど楽しそうに見えないのです。私はそれが心配なのです」

最後にそう言って締めくくる。

2人はしばらく黙っていたが、まずミーネが口を開く。

「ジン様は、エルザの事、そしてラインハルト様の事があったので 統一党(ユニファイラー) を目の仇にしてらっしゃるのですね」

「私のため、というのは素直にうれしい。でも、ジン兄には無理して欲しくない」

エルザも意見を述べた。更にミーネが続ける。

「きっと、ジン様はいろいろな事をいっぺんに追いすぎて余裕が無くなってしまっているのではないでしょうか」

その意見にエルザも同意する。

「私もそう思う。あれもこれも、と欲張りすぎている気がする」

礼子は少し考えてみて、2人の言っていることが多分当たっている、と感じたようだ。

「では、どうしたらいいでしょう?」

それこそが一番礼子が知りたいことである。

「気分転換、でしょうね」

それに答えたのはミーネだった。

「気分転換、ですか……」

オウム返しに呟いた礼子であったが、それがよい方法ではあると思ったようだ。

「では、どうしたらお父さまを気分転換させて差し上げられるでしょうか?」

礼子には思いつけそうもなかった。

今度それに答えたのはエルザだった。

「楽しいことをすればいい、と思う」

「楽しいこと、ですか……」

またしてもオウム返しに呟くしかできない礼子。心なしか少し寂しそうだ。自分でそういう事を思いつけないのが残念なのだろうか。

「でしたらエルザさん、お父さまを誘って差し上げてくださいませんか?」

「私が?」

「はい。私よりもエルザさんにお誘いいただいたほうがお父さまも気分転換になるでしょうし」

若干寂しそうな礼子の雰囲気を察したエルザは首を縦に振った。

「うん。私でいいなら。少し待っていて」

そう言って、服を整えに館へ入っていった。残ったミーネは礼子に、

「レーコさん、ジン様にとって安らげる場所へ、というのもいいと思いますよ」

と自分の意見を述べたのである。

「安らげる場所、ですか」

それを聞いた礼子は、仁が安らげるような場所とはどこだろう、と考える。だがその考えがまとまる前にエルザがやって来た。

「お待たせ」

エルザのいでたちは紺色のロングスカートと白いブラウスに水色のスカーフ、それに仁から貰ったブローチ。

一応今のエルザにとってのよそいきである。

「母さま、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

簡単にそう言い交わし、エルザは礼子と共に 転移門(ワープゲート) で転移した。

1階の 転移門(ワープゲート) 部屋に出た後、礼子の先導で工房へ向かう。

こちらの工房は初めてのエルザは見る物全て珍しく、きょろきょろしていた。

工房に戻ると仁は老君相手に指示を出していた。部屋に入ってきたのが礼子だけでなくエルザも一緒だと知り、びっくりした顔である。

「……ということだ、老君、準備を頼めるか?」

『はい、承りました』

老君への指示を切り上げた仁は慌ててエルザに向き直り、

「エルザ、どうしたんだ?」

と尋ねる。エルザはもう答えを考えていたらしく、すぐに返事を返した。

「私にも魔法技術、教えて。あ、ジン兄は 魔法工作(マギクラフト) 、って言うんだっけ?」

「エルザが? 魔法工作(マギクラフト) を?」

「そう。やってみたい。ダメ?」

ちょっと俯き、上目遣いにそう尋ねるエルザ。仁は身内からの頼まれごとには弱い。

少しだけ躊躇ったが、すぐに肯いて、

「いいよ、教えてやろう」

と答えた。

「楽しみ」

とエルザも嬉しそう。

それを端で見ていた礼子は、

(そういえば、少し前にお父さま、そんなことを呟いておられましたね……)

と思うのであった。

* * *

「そう。それが基本の魔力の使い方だ」

さっそく仁のコーチが始まった。最初は工学魔法の使い方。

普通の魔法は外に向かって働くものが多いが、工学魔法は物質内部へ向けて働くものが多い。

つまり目で見るのではなく、魔力を感じ取る必要がある。

その違いを理解させるところから始めた仁。

「うう、難しい」

「頑張れ。これが出来ればあとは楽になるから」

「ん」

それは正に兄が妹に勉強を教えている光景。微笑ましくもある。

今、仁の頭の中からは新兵器や軍備の悩みごとは消え去っていた。

* * *

結局夕方まで2時間ほど、仁はエルザに工学魔法をコーチし続けた。

その甲斐あって、エルザも何とか魔力の扱い方を覚え、初歩の工学魔法である『 軟化(ソフトニング) 』と『 変形(フォーミング) 』を憶えたのである。

特に 変形(フォーミング) は奥が深く、仁ならフィギュアも作る事が出来るが、エルザではカップのような物を作るのが精一杯。

「これ、おもしろい」

それでも、憶えたての 軟化(ソフトニング) と 変形(フォーミング) を使って、銅の塊を粘土のように捏ねて遊ぶエルザ。

そう言って笑うエルザを見て仁も思わず微笑んでいた。

それを見た礼子はほっとする。そして2人に近づき、時刻を告げた。

「お父さま、エルザさん、もう5時になります。そろそろ切り上げ時です」

「ああ、もうそんな時間か」

「楽しい時間は過ぎるのが早い、ね」

ということで、エルザは今日の所は崑崙島に帰ることになった。

「それじゃあ、また明日、お昼を食べたら一緒にここへ来て今日の続きをしようか」

「うん、ジン兄。楽しみにしてる、ね」

「お父さま、私はエルザさんを送ってきます」

「ああ、頼んだ」

それで礼子とエルザは連れ立って1階の 転移門(ワープゲート) 室へ向かう。

「エルザさん、今日はご苦労様でした」

と礼子が言えば、

「ううん、私も楽しかった。明日も楽しみ」

と返すエルザ。

すぐ 転移門(ワープゲート) 室に到着した。その時礼子は内蔵 魔素通信機(マナカム) で仁からの呼び出しを受けた。

『礼子、エルザに渡すものがあったのを忘れていた。ちょっと取りに来てくれ』

それで礼子は、

「エルザさん、お父さまから呼び出しがありまして、エルザさんに渡すものがあったそうなので私が急ぎ取りに行ってまいります。すぐ戻りますのでここでお待ちください」

「ん、わかった」

それで礼子は大急ぎで仁のところへ戻った。

「ああ礼子、悪いな、呼び戻したりして」

「いいえ、それで何でしょう?」

「ああ、これをエルザに渡そうと思っていたんだ。まあ明日の昼でもよかったんだが、せっかくだから早く渡したくて」

そう言って仁が差し出したのは腕輪。

「エルザの魔力過多症を防ぐ腕輪だ。過剰な 魔力素(マナ) を 自由魔力素(エーテル) に変換して溜め込む効果がある」

溜め込むより空気中に放出する方が遙かに簡単なのだが、それではもったいないと、余剰魔力を溜め込む腕輪にした仁。

忙しくてもエルザの病気のことは忘れていなかったのである。

「まあ、今はミーネが一緒だから必要無いと言えば無いんだけどな」

一番の心配はミーネが自虐的になってエルザから離れてしまうことだったが、最近の2人を見ていればもう大丈夫だと思える。

それで合間合間にゆっくり仕上げてはいたのだが、つい最近完成したのである。

「わかりました、お渡ししておきます」

本来なら仁が手渡ししてやった方がエルザが喜ぶと言うことに気がつかないところでやっぱり朴念仁である。

そして礼子は腕輪を持って再び1階の 転移門(ワープゲート) 室へ。

かと思ったらすぐに戻ってきて、慌てた声で報告。

「お父さま、エルザさんがいなくなりました」