作品タイトル不明
09-02 超合金
昼食後、仁はラインハルトに付けた 隠密機動部隊(SP) に連絡を入れた。
目的は、あらためてマルチェロから情報を吸い出すためである。情報は必要だ。
まずはそのための下調べである。どこに収監されているのかを知りたかった。わかれば 隠密機動部隊(SP) が何とでも出来よう。
だが、驚くべき答えが返ってきた。
『チーフ、そのご要望にはお応えできません。 統一党(ユニファイラー) の捕虜達ですが、午前中に皆処刑されました』
「何だって!?」
『ショウロ皇国外交官誘拐の罪で全員死罪、でした』
「なんてこった……」
少し異常すぎる処刑の速さである。
仁はあらためて 統一党(ユニファイラー) とセルロア王国には裏で繋がりがあるのではないかと思う。情報が漏れるのを怖れたのではないだろうか。
しかし、今更どうしようもなかった。
統一党(ユニファイラー) の異常さを再認識し、今やるべき事をやろうと決める。
仁は礼子のレールガンを確認することにした。
「アダマンタイトの砲身を曲げるなんてどんな力だ……」
呆れる仁に礼子は済まなそうな顔をする。
「申し訳ございません。お父さまが殴り飛ばされたのを見て自制がきかなくなりました」
「ということはもしかして1000パーセント出したのか……」
アダマンタイトすら曲げる力。と、そこで仁はふと気が付いた。
「礼子、お前の骨格もアダマンタイトなんだが、何ともないのか?」
礼子の骨格より太い砲身が曲がっているのだ。仁は心配になった。
「はい、なんともないですが」
礼子はそう言うが、心配になった仁は一応チェックをすることにした。
魔力を止め、動作停止した礼子の身体をチェックする仁。
「やっぱりな……」
関節にガタが出、若干ではあるが腕の骨にも歪みが出ていたのである。仁に心配掛けさせたくないが故の嘘か、はたまた気が付いていないのか。
「アダマンタイトでも礼子の1000パーセントの出力には耐えられないのか……」
仁は考える。どうしたら強度を増すことが出来るかを。
「強度、っていうのは結局原子もしくは分子間の結合力が大きいよなあ」
原子もしくは分子間の結合が切れるというのはすなわち破壊である。
「この結合力を増すには、か」
金属に粘りを出すために、特殊金属の添加を行う事もあるということを思い出す仁。
「やってみるか……」
礼子が停止したままなので、ソレイユとルーナを呼ぶ。
「アダマンタイトとミスリル銀を用意してくれ」
「はい、お父さま」
2人は地下の倉庫からアダマンタイトとミスリル銀のインゴットを運んできて仁の前に置いた。
「ごくろうさん。……まずは、アダマンタイトだけ、と」
工学魔法でアダマンタイトのテストピースを作る仁。直径1ミリ、長さ20センチくらいの棒だ。
「次はミスリル銀を1パーセント混ぜる」
『 合金化(アロイング) 』を使い、アダマンタイトとミスリル銀の合金を作った。それで同じ大きさのテストピースを作る。
「これでよし。……ソレイユかルーナ、どちらでもいいが、このアダマンタイトの棒を曲げられるか?」
仁がそう聞いたが、あっさりと、
「無理です」
との答えが返ってきただけであった。
「まあ、そうだよな」
それで仕方なく、礼子を再起動する。
「お父さま?」
目を覚ました礼子は、難しい顔をした仁を見て怪訝そうな顔をする。
「礼子、やはりというか、お前の身体に若干だが不具合が出ている。それで強化してやりたいんだが、そのための実験もしなきゃならん。で、まだ直していないのだが起こしたんだ」
「はい、喜んでお手伝いします」
そこで仁はまずアダマンタイトのテストピースを曲げさせる。
大体今の礼子の25パーセントくらいの出力でテストピースは曲がり、折れた。
「よし、今度はこれだ」
ミスリル銀を混ぜたもの。これは20パーセントくらいで曲がった。
「お父さま、かえって弱くなっていますが」
見ていたルーナがそう言った。だが仁は、
「まあ待て。今度はこうしてからやってもらう」
と言って、もう1本のテストピースに自らの魔力を注ぎ込んだ。
基本的にアダマンタイトは魔力に関して不干渉であるが、ミスリル銀を添加したため、魔力を含むようになったのである。
「では曲げます。……?」
礼子がおかしいな、という顔をした。それもその筈、30パーセントの力を加えているのに曲がらないのである。
更に礼子は力を加えていく。その出力がどんどん上がって行くのを感じた仁は慌てて止める。
「礼子、もういい! 十分だ。思った通り、魔力が強度を上げるようだな」
「魔力だけで強度が上がるのですか? 強化魔法ではなく?」
との問いに仁は肯く。
「ああ説明不足だったか。『 硬化(ハードニング) 』や『 強化(リインフォース) 』の魔法があるだろう? あれも原理は同じだ。原子もしくは分子間の結合力を魔力で補うんだ」
金属の場合、金属の微細な結晶格子の結合が伸び、また戻るのが弾性変形、結合がずれてしまうのが塑性変形である。
この結合力を外から包み込むようにして強化するのが今までの 硬化(ハードニング) や 強化(リインフォース) である。
それを内部から行えるようにしたのが今回のミスリル銀の添加である。
ミスリル銀の微細な粒子がアダマンタイト中に拡散した状態で 硬化(ハードニング) を掛けることで、ミスリル銀粒子を基点とする、いわば魔力のネットワークが出来、それが強度を増すのだろうと仁は推測した。
ミスリル銀単体で同じ事をやればもちろん強度は上がるのだが、元の強度と硬度が低いので、アダマンタイトほど劇的な効果は上がらない。ゆえに今まで仁ですらも気が付かなかったのである。
そもそもグラムあたり7000〜10000トールもするアダマンタイトに、同じくグラムあたり4000〜5000トールするミスリル銀を混ぜようとする発想がなかったとも言える。
「後は配合比、か」
ミスリルの割合を変えて実験したところ。1.5パーセントの割合で添加したものが一番強化されることがわかった。
「よーし、この合金をマギ・アダマンタイトと名付けよう」
魔力を最大限に注ぎ込んで強化すると、そのままのアダマンタイトの約5倍の強度が得られることがわかった。
「よし礼子、もう一度寝てくれ。このマギ・アダマンタイトでお前の身体を強化してやるからな」
「はい、お父さま」
こうして礼子の骨格はマギ・アダマンタイトにグレードアップされたのである。
次に仁は曲がったレールガンを更に強力にした新型を作る事にした。
構想として、球形の砲丸ではなく、砲弾型にし、砲身内にライフリングを施す。
砲身をマギ・アダマンタイトとすることにより、アダマンタイト砲弾でも砲身が磨り減りにくい。
そして撃ち出す方式はスリングショット式からスプリング式に。
要するにパチンコから銀玉鉄砲になったと思えば良い。
スプリングには 海竜(シードラゴン) の革ではなく筋肉そのものを使う。解体後も切断されずに無事だった筋肉がいくつかあったのだ。多分翼の筋肉だろう。
翼の筋肉の特性として面白いのは、魔力を込めると伸びること。込める魔力によってその伸長率や伸長力は違う。
仁は全部がそうかと思っていたが、手足などの筋肉は魔力で縮む。人間の筋肉と反応は変わらなかった。
「翼を広げるのが魔力ということなのかな」
魔法生物については詳しくないのでとりあえずそう仮定しておく仁。それよりも利用法である。
「魔力を無くして筋肉を縮め、一気に魔力を込めて伸長させ、これで砲弾を発射する。うん、いけそうだ」
この時の伸長は速ければ速いほどいいので、手に入ったエルラドライトを1個使用し、発射時のブーストとする。
銃身は全てマギ・アダマンタイト。しかも口径は5センチにアップしている。
これなら礼子の1000パーセントの出力で殴っても耐えられそうだ。まあそんな事態がそうそうあっては困るのだが。
「よし、礼子、試射してみろ」
「はい、お父さま」
研究所前で礼子は東に向け、新しいレールガン、いや 魔力砲(マギカノン) を全力で発射した。
ドカンという発射音と同時に雲に穴があき、イオン化した大気の尾が見えた。エルラドライトによるブーストはものすごかった。
「あー、なんかものすごいな……今度こそ宇宙まで行ったとか?」
正確な測定は出来なかったが、実際に宇宙から見た者がいたら、惑星を周回する小さな飛行物体が観察されたことだろう。
その初速度はマッハ80。つまり秒速27キロ。発射後の空気抵抗による減速を考えても、この星の第1宇宙速度を超えていた。
「礼子、全力は俺が指示するまで出すなよ。いいな、出すなよ」
仁はそう釘を刺すのであった。
* * *
一方、ラインハルトはてんてこ舞いであった。
セルロア王国警備隊に、2人が 統一党(ユニファイラー) によって誘拐されたことをまず説明。
その証明として、ダリにあるステアリーナの別邸まで戻る羽目になってしまう。
そこに残されていたステアリーナのゴーレムとオートマタ、それに破壊されたゴーレムの惨状、そして遺体安置所にある護衛の亡骸の状態に、ようやくセルロア王国の警備官は納得したようだ。
それ以上に大変だったのが捕らえた 統一党(ユニファイラー) 党員達。
一応ラインハルトが仁と一緒にいるところは目撃されていないため、誰に助けられたかは知らぬ存ぜぬで押し通した。
まあ他国の外交官であるから、根掘り葉掘り聞かれなかったのでラインハルトとしても助かったのである。
だが、 統一党(ユニファイラー) 党員達がこぞって口にした仁のこと。
まあヘルメットを被っていたのでそれが仁であると特定は出来なかったし、ラインハルトも黙っていたので、仁かもしれないという疑問を残しつつ、『謎のゴーレム 使役者(マスター) 』という呼び名が付いてしまっていたのだが。
余談だが、 統一党(ユニファイラー) 党員達が処刑された事はラインハルトたちには知らされてはいない。
* * *
「それじゃあ、わたくしたちを助け出してくれたのはジン君なんですの?」
ラインハルトとステアリーナは、半壊したステアリーナ別邸で後片付けをし終え、 お茶(テエエ) を飲んでいるところである。
「残念ですわ、もう一度ジン君とはお話してみたかったのに」
「まあ、気を失っていたから仕方ないよ」
魔封じの首輪のせいか、ステアリーナは朝まで目覚めることがなかったのである。
仁に貰った回復薬を2回に分けて全部飲ませ、ようやく目覚めたのであった。
「なあステアリーナ、どこか身体悪いんじゃないのか?」
「え? なんでそんなことをおっしゃるの?」
「いや、 統一党(ユニファイラー) から助け出されてからというもの、かなり長い時間気を失いっぱなしというのが気になってさ」
初めは誤魔化そうとしていたが、ラインハルトの理詰めの問いにステアリーナも諦めた。
「実は、ずっと前から身体の調子が悪かったの。いつも身体が怠いし、ときどきさしこみがあったりして」
そう打ち明ける。
「治癒師に診て貰ったのか?」
「ええ。治癒を掛けて貰うとその時はいいんだけど、2、3日するとまた痛くなったりするんです」
「そうか……」
「でも、今はなんだかいつになく調子いいみたい。ラインハルト君がいてくれるおかげかしらね」
ステアリーナはそう言って笑った。仁の回復薬の効き目だと2人とも気付いていないし、当分気付くことはなさそうである。