軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09-01 研究開始

青い海に浮かぶ孤島、蓬莱島。ここは 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、仁の拠点である。

研究所に帰った仁は愕然としていた。

「粉々……! なんてこった!」

マルチェロから 知識転写(トランスインフォ) で吸い出したはずの 魔結晶(マギクリスタル) が砕けていたのである。

「あのゴーレムの一撃か……」

統一党(ユニファイラー) の万能ゴーレム、その一撃を受けた時、強化服を着ていた仁は無事であったが、外部ポケットに入れておいた 魔結晶(マギクリスタル) が衝撃を受けたらしい。

ポケットが硬いと物を入れられないのでそこだけ別材質にしておいたのが裏目に出た。

「今更もう一度、というわけにもいかないな……」

ラインハルトに丸投げした以上、今回は諦めるしかない。

「まあ、次回があったら今度こそ」

そして仁は頭を切り換え、敵ゴーレムの解析にとりかかった。

15体で出てきた戦闘ゴーレムには見るべきものが無かった。見なれた構造である。つまりゴンやゲンの原型となった旧式(仁にとって)ゴーレムだ。

だが、あとから出て来た戦闘用ゴーレムは違った。曲がりなりにもランド50と拮抗する力を出したのである。

「ふうん、内部構造からして違うな。一応骨格を持っているし」

硬化処理した鋼鉄の骨格が確認出来る。だが関節の構造は仁の作るものには及ばないし、 魔法筋肉(マジカルマッスル) の材質やその使われ方も比べものにならない。

「だが、こいつのせいか」

仁が取りだしたのは4つの宝石。太陽光の元では水色、人工光の元では緑色に光る。こんな宝石は知られる限りただ1種類だけ。

「エルラドライト、か」

四肢の要所に装着されたその宝石は魔力を増幅する効果を持つ。標準で20倍。

「これを使ってランドと同等の力を出したのか」

だが、通常の材料でそれだけの力を出すということはかなり無理が掛かると言うことである。案の定、 魔法筋肉(マジカルマッスル) はかなり劣化していた。

「そうか、フルパワー出すたびにメンテするのか。なんというかめんどくさいな」

その批評は酷だろう。仁のようにレア素材を使いたいだけ使える環境にないからである。

「しかしでかい 魔力貯蔵庫(マナタンク) だな。普通のゴーレムの10倍くらいあるんじゃないか?」

胸部、腹部のスペースはほとんどが 魔力貯蔵庫(マナタンク) が占めていたのである。

「うーん、エルラドライトが魔力を増幅するならこんなでかい 魔力貯蔵庫(マナタンク) は必要無いはずだがなあ……まさか?」

その理由に1つだけ思い当たる事があった仁は、エルラドライトの1つを手に持って、

「『 明かり(ライト) 』」

と明かりを灯す魔法を使った。普通ならだいたい100ワット電球くらいの明るさになる筈が、まるでフラッシュを焚いたような明るさになった。

「うわあっ」

目がくらんでエルラドライトを取り落とす仁。

「お父さま、どうしましたか!?」

部屋の外から礼子が慌てて飛んできた。

その時にはもう 明かり(ライト) は消えていたので、礼子は何があったか仁に聞くしかない。

「いや、ちょっと実験をな。あはは、そうか、そうだったのか!」

仁は笑い出す。礼子はそんな仁を心配そうに見つめていた。

「お父さま……?」

「ああ、悪い。いやな、エルラドライトが魔法を増幅するというから、その実験をしたんだ。そうしたらだな、増幅はする。するんだが、それに応じた魔力を必要とするんだよ」

仁は今の実験で、 明かり(ライト) に使われた魔力が、普段の20倍くらいあったことを感じ取っていたのだ。

「つまり、確かに魔法の威力は20倍になるかもしれない。だが、魔力を20倍持って行かれるから、魔力が無い場合はあまりメリットがないな」

仁のように巨大な魔力を保有しているとか、礼子達のように無尽蔵に魔力を供給できないと一発勝負になってしまうということだ。

だから戦闘用ゴーレムは巨大な 魔力貯蔵庫(マナタンク) を備えていたのだ。

仁の概算では、ランドとの組み合い、10分以上続けていたら動作停止していただろうと思えた。 魔力貯蔵庫(マナタンク) が空になってしまうのである。

「まあ、詳しい実験は必要だろうが、原理としてはそんなものだな。後は引き続き老子に実験・検証を任せるとしよう」

* * *

エルラドライトについて一段落した仁は、前日礼子と話をしかけた事、すなわち『 転移門(ワープゲート) の暴走』について話し合うことにした。

「つまりな、受け入れ側のいらない 転移門(ワープゲート) を作りたいんだよ」

と仁は礼子に説明する。

「それが出来たらすばらしいですね。敵基地の中へ直接乗り込むことも出来ます」

「ああ、移動がものすごく楽になる。普通の 転移門(ワープゲート) を持って任意の場所へ転移し、そこに 転移門(ワープゲート) を設置できたらすごいことになるぞ」

「ですね」

ということで、 転移門(ワープゲート) の暴走で転移した経験者、つまり仁と礼子は詳細な検討を始めた。

老子のサポートを受けつつ、理論をまとめていく。老子の処理能力ならエルラドライトの検証をしながら 転移門(ワープゲート) の理論構築をするなど朝飯前である。

そこへアンがやってきた。アンは現在、老子付きの 自動人形(オートマタ) として働いている。具体的には老子の立てた案や計画のチェック役である。

思考回路の異なるアンはこういう役に立つのである。ただ処理能力が老子より格段に落ちるので、必然的に拘束される時間が長くなるが。

「ごしゅじんさま、おねえさま、何をなさってらっしゃるのですか?」

最近アンは礼子を『おねえさま』と呼んで憚らない。見かけ上は完全に逆なのだが。

それで仁はアンにも説明した。するとアンは、

「空間内の1点を指定する座標系を決める必要がありますね」

と言った。アンはこういう論理的思考が出来る。因みに仁は感覚派で、礼子や老子もそれを受け継いでいた。

「なるほど、確かにな」

そこで仁は高校で習った事を思い出す。3次元の座標系といえば、まずXYZ座標系。縦横高さ、である。

「あとなんかあったなあ、確か極座標とか言ったっけ。方位角、高度、距離だったっけなあ」

用語が怪しいが、考え方は合っている。

「今回は送り出し側を原点とする極座標の方がいいかもな」

送り出す 転移門(ワープゲート) を原点にすれば、距離、方角、高度(角度)を決めればいい。

「その場合、既知の地点の座標を極座標に変換する必要が出てきますね」

アンも必要事項を助言していく。

「ああ、専用の演算装置…… 制御核(コントロールコア) が必要になるな」

このようにして制御系は構想が出来上がっていった。

だが、肝心なのはその目的地で実体化出来るかどうかである。

仁の理解したところによると、 転移門(ワープゲート) の原理は、異なる2点間を繋ぐことである。決して原子に分解して目標で再構成したりするものではない。

「うーん、 転移門(ワープゲート) の受け入れ側の一番の役目は目印なんだよな。離れた場所からもそれとわかる目印を作ること。つまり、受け入れ側は筐体なんていらないわけだ」

受け入れ側も送り出し側と同じ形状をしているのは単に、帰りには受け入れ側が送り出し側となるからである。

「一方通行なら筐体はいらない。そして目印となる魔法陣もしくは 魔導式(マギフォーミュラ) を遠隔操作出来れば……」

仁は必死に考え込む。

「お父さま、距離を決めるのが一番難しいですよね?」

礼子の発言。

確かに、方向を決めるのは、レールガンを撃つのと同じく、感覚的に理解できる。だが、距離は。

「確かにな。今考えられるのは3つ。2点から伸ばした直線の交点と」

と仁。

「それと、送り出しに使用する魔力量」

と礼子。そして、

「引力と反発力の拮抗点、ですね」

と、アンが冴えた発言をする。それはバリアの原理と同じだ。

「どっちにしても長距離は難しいな。目で見える程度の距離から始める必要があるか」

いきなり蓬莱島からセルロア王国、というわけにはいかないようだ。

それで仁は試作機を作り始めることにした。

送り出し側は通常の 転移門(ワープゲート) を改造して使う。

通常、対になる受け入れ側 転移門(ワープゲート) とは微弱な魔力で繋がっている。この微弱な魔力での繋がりの代わりに、強力な魔力で目標点に魔法陣を構成するのである。

「その魔法陣をどこまで簡略化できるか、ですね」

アンの助言も受けつつ、試作1号機が完成したのは昼過ぎである。

仁はエルザの待つ崑崙島へ昼食を食べに跳んだ。礼子は一緒に付いていき、アンは試運転前のチェックである。

* * *

「ジン兄、いらっしゃい。昨夜はライ兄を助けてくれてありがとう。そのせい? 今日はちょっと遅かった、ね?」

「ああ、ちょっと手が放せなくてさ」

そう言い訳した仁をエルザは睨み、

「ジン兄も工作バカだから」

と言った。礼子はそんなエルザに告げる。

「エルザさんが待っていてくれるからお父さまはこれでもちゃんと食事をして下さるんです。さもないと平然と2食くらい抜いてしまうんです。今日だって徹夜みたいなものですよ」

「ジン兄、それはだめ。身体に悪い」

礼子とエルザから非難された仁は頭を掻いて、

「わ、わかったよ、気をつけるよ」

と謝ったのであった。

そして簡単に昨夜のことをエルザに話して聞かせる。もちろん殴られた事は黙っている仁であった。