軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-21 少しだけ、ポトロック

翌日、 垂直離着陸機(VTOL) の量産展開は老子に任せ、仁は 第5列(クインタ) の製作に入った。

基本構成は 隠密機動部隊(SP) と同じ。骨格は中空の軽銀、 魔法繊維(マジカルファイバー) の筋肉、 魔法外皮(マジカルスキン) の外皮。

大体初期の礼子の3割くらいの機能を持つが、普段は素早い人間程度に抑える。

何度もやっている工程であるし、礼子とアンという2人の助手がいるので作業は速い。骨格などの基本部品は礼子達が作り、仁は 制御核(コントロールコア) をはじめとする 魔導装置(マギデバイス) を作っていった。

隷属書き換え魔法への対策などは 隠密機動部隊(SP) と同じであるが、密偵ということで、純粋に記録用の 魔法記録石(マギレコーダー) を追加した。

更に、容姿を弄れるような機能も追加してある。具体的には髪の長さ、目の色、身長、体形である。

髪の長さは、某有名人形であったように、毛穴から髪を出し入れすることで長さを変えられる。目はコンタクトのように瞳を交換できるようにした。交換用のパーツは体内に収納している。

身長は、肩・肘・手首・腰・股・膝・足首各関節の部分の遊びを調節することで10センチ程度の変更が可能。体形は2重にした 魔法外皮(マジカルスキン) の間に水を取り込むことで太ったように見せかけられる。

髪の色も簡単に染められるようにしてある。染料も装備品だ。

攻撃力としてはスタンガンと雷魔法。加えて体術があれば対人としては十分である。万が一のために記憶・情報消去のセキュリティ搭載。

行動基盤は 隠密機動部隊(SP) と同じ。更に人に紛れるということで、ミーネに協力して貰い、一般常識を強化した。まあミーネも一般常識を知っているかというと疑問ではあるが、仁達よりはマシだ。

その際。やはりというかミーネも 知識転写(トランスインフォ) には少々驚いていたというのは余談。

老子、礼子のサポートの元、複製工程を交えた結果、何と午前中に 第5列(クインタ) 100体が完成した。

当初の計画通り、大きさの順で言うと成人男性型が40体、成人女性型が30体。擬装用に少年型10体、少女型10体、礼子型10体という内訳である。

「よーし、名前は、そうだな……」

成人男性型が『レグルス』、成人女性型が『デネブ』、少年型が『カペラ』、少女型が『スピカ』、礼子型が『ミラ』、と仁が命名。それぞれ1からナンバリングされる。

「 御主人様(マイロード) 、 垂直離着陸機(VTOL) 1番機が完成しました」

ちょうど老子の方も 垂直離着陸機(VTOL) を完成させていた。

仁が外に出てみると、そこにはつや消し黒塗りの 垂直離着陸機(VTOL) があった。完全な 消身(ステルス) 装備である。結構大きい。

老子によれば、輸送にも使えるように、との意図からだそうだ。

「おお、いいじゃないか」

仁が嬉しそうにそう言うと、老子は名前を付けてくれと言った。

「名前か。名前……うーん、これこそ雲雀がよかったなあ……」

垂直に飛び上がるというので仁のイメージは雲雀=スカイラークであった。

「空中で停止できるというのは猛禽だよなあ……よし、ファルコン!」

ハヤブサである。ハヤブサはあまり空中で停止して獲物をうかがったりはしないがそこは仁。

「はい、それではファルコン1と名付けます。以下、10までロールアウト予定」

「よし、任せた」

仁が次の製作に取りかかろうとした時に老子が言った。

「 御主人様(マイロード) 、崑崙島でエルザさんが呼んでいます」

「エルザが? 何かあったのか?」

「いえ、一緒にお昼を食べようということです」

2時間ほど前、一般庶民のコピーのため、ミーネに協力して貰いに崑崙島へ行った時そんなことを言われたのを思い出した。

相変わらずモノ作りとなると他の事が頭からすっぽ抜ける仁であった。

* * *

「ジン兄、いらっしゃい」

「やあ、エルザ、ミーネ」

「お昼ご一緒させていただきたくてお呼びしましたがご迷惑だったでしょうか?」

これがあのミーネかという態度。 催眠(ヒュプノ) で操られていたと言われても信じそうだ。

「いいえ、放っておくとお父さまは食事を抜いてしまわれるので助かりました」

付いて来た礼子がそんなことを暴露する。

「やっぱりジン兄も工作バカ」

エルザがクスクス笑いながらそんなことを言った。

「そうですか、それはようございました。さあ、お召し上がり下さい」

ミーネが作ったのは焼きたてのパン、プレーンオムレツ、さっぱり味の野菜スープ、焼き魚、それにフルーツサラダ。

昼食としてちょうどよかった。

「ごちそうさま」

食べ終わると、シトランのジュースが出された。

「ミーネ、もう動いていいのかい?」

仁がそう聞くと、ミーネは肯いた。

「はい、もうほとんどよくなりましたし、動いていた方が身体の調子も戻ってくる気がします」

「それならいいんだけど」

仁は遠巻きに控える5色メイドのナンバー100たちを見つめる。

「あのゴーレムメイドさんたちには随分良くして貰いました。でもお嬢さ……エルザの世話は私にさせて下さい」

ミーネがそう言うので、無理しないように、と仁は言い、ゴーレムメイドたちにも注意はしておいた。

「あの、それで、お願いがあるのですが」

後片付けを終えたミーネが口を開いた。

「ん? 何だろう」

「あの、出来ればですが、エルザと……私の着替えとかを買いに行きたいのですが」

着の身着のままで来たので、着替えなどが一つもない。仁が作るにしても下着は憚られるし、ミーネには 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸は扱えない。

「そうだな、危なくない場所……ああ、ポトロックへならいいと思う」

港町ポトロック。そこは仁がエルザやラインハルトと出会った場所。ゴーレム艇競技に出た懐かしい町である。そこまでは 統一党(ユニファイラー) も手を回してはいないだろう。

「ポトロック。懐かしい」

エルザもそう思ったらしく、町の名を口にした。

「そうですね、私も行ったことありますし、品揃えも悪くなかった憶えがありますので、是非お願いします」

そういうわけで、仁はミーネをポトロックへ、と思ったところ、

「ジン兄、私も一緒に行きたい」

とエルザが言いだした。

「うーん、まあ、エリアス王国の南端だし、危険もないだろうし、いいか」

仁は考えた末に許可する。まあ、護衛を兼ねて、完成したばかりの 第5列(クインタ) を投入するつもりだ。

そこで仁ははたと気が付く。 自動人形(オートマタ) 用の服を頼もう。というわけでミーネに、

「それならちょうどいい。うちの 自動人形(オートマタ) に着せるための服も一式頼みたいな」

と持ちかける。ミーネはそれを快諾した。

「はい、いいですよ」

まずは崑崙島から蓬莱島へ仁と共に移動。仁の魔力パターンが無いと転移できないセキュリティはそのままである。

仁は成人女性型のデネブ30を呼んだ。

「はい、チーフ」

一応、ゴーレムメイドと同じメイド服を着せてある。裸でエルザたちの前に出したら何を言われるかわからない。

「エルザとミーネを護衛してポトロックへ行ってくれ」

「わかりました」

仁の魔力パターンが無いと行き来できないという理由もある。

そこで仁は金貨を10枚渡す。つまり100万円相当だ。

「エルザ、ミーネ、このデネブ30にお金預けておくから」

ミーネたちがほとんどお金を持っていないのはわかっている。

「ジン様、すみません。ありがとうございます」

仁の気遣いを察したミーネが頭を下げた。これがあのミーネかと、何度目かの感慨を抱く仁であった。

「わかってるかも知れないが、ここ崑崙島と蓬莱島、それに 転移門(ワープゲート) のことは絶対に秘密だから」

「はい、決して口外しません」

一応仁はデネブ30にもその辺は気をつけるよう指示は出してあるのだが、やはり直接口頭で確認すると安心出来る。

* * *

蓬莱島から一瞬でポトロックへ飛ぶ。出たのは海岸の海蝕洞窟である。デネブ30には基本知識を転写してあるので迷わず町へと2人を案内していった。

「懐かしい」

「本当ね」

エルザがポトロックを馬車で出発したのが2月16日。一月半ほど前のことであった。

「あっという間に着いてしまうんですから、ジン様の魔法技術はすごいのね」

あらためてミーネは感心する。エルザもそれには同意。

「うん」

一月ほど滞在していたのでミーネは多少の土地勘も出来ていて、迷わず服屋へ行くことが出来た。

この世界では、貴族はオーダーメイドの高級な服、一般庶民は既製服や古着である。今回やってきたのは既製服の店。ミーネたち使用人御用達の店である。

その店で、自分用の侍女服つまり濃紺のワンピースとエプロンドレスを洗い替え含めて3着、下着を10着。

エルザ用にはワンピース、ブラウス、スカートなどを見繕い、下着をやはり10着。

下着が多めなのは、ちょくちょく買いには来られないだろうという心算からだ。

自動人形(オートマタ) 用には下着を初め、ワンピース、ブラウス、スカートを見繕った。

「あとは生地を買って帰りましょう」

自分で仕立てることも出来るミーネは麻の布地を多めに買った。全てデネブが持ってくれている。

全部の買い物を終えて戻る頃には春の長い日も暮れかけていた。

戻る途中、エルザがちらりと港を見ると、見覚えのある双胴船が数隻浮かんでいた。

(マルシア、頑張って)

声には出さず、懐かしい知り合いに心の中でエールを送って帰路につくエルザであった。