軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-05 後悔

後に悔やむから後悔。

「そうか、ジン、君には作れるのか……なんてことだ。こんな身近に探していた人物がいたとは」

がっくりと項垂れるラインハルト。無理もない。

単に魔力を放出させるだけの魔導具ならラインハルトにも可能だ。だが、そのままだと今度は魔力枯渇という症状になる。

まあ魔力による糖尿病のようなもの、と例えるのが一番わかりやすいだろうか。

魔力(糖)が必要以上に多ければ身体に害をなし、枯渇すればそれはそれで不調になる。

ちょうどいいところで止める、という魔導具など作れる者はいないと決めつけていたのも無理はない。

だが、考えてみれば、ようやく最近になってその人となりがわかってきたとはいうものの、どこの馬の骨ともわからない仁に、子爵令嬢であるエルザの身体の秘密を打ち明けるなどということは普通はしないであろう。親戚ではあるものの他家の令嬢であるというのもある。病気持ちというだけで貰い手が無くなったりするのが世の常である。

「エルザが従妹でなく自分の妹だったんならとっくに相談していたんだがね」

自嘲気味にラインハルトがそう言った。今はもう手遅れである。

そんな時、またもやドアがノックされた。今度はアンがドアを開ける。

「やはりここにいたのか、ラインハルト」

ノックの主はフリッツだった。

「もちろん聞いて知っていると思うが、エルザがいなくなった。乳母のミーネも一緒だ。2人の行方は俺が捜し出す。だからラインハルト、お前はもう行ってもいいからな」

「え?」

言われた意味が良く理解できないラインハルト。頭の回転が速い彼にしては珍しい。

「つまり、エルザのお守りはもうしなくていいと言うことさ。ご苦労だった」

それだけ言ってフリッツはラインハルトの返事を待たずに踵を返し、去っていった。最初から最後まで仁のことは見向きもしないで。

「……」

「…………」

2人の間に沈黙が流れる。そしてどちらからともなく溜め息を吐いて、

「と、いうわけだ。ジン、明日、ここを発つ事になる。まだ君は我が国に来てみたいと思ってくれているかい?」

と、ラインハルトが仁に寂しげな笑みと共に質問を投げかけた。仁はそれにすぐ答えを返す。

「ああ、もちろんさ。それじゃあ明日の朝出発と言うことでいいんだな? 今日の予定は?」

それを聞いたラインハルトは今度は嬉しそうに笑う。

「そうか! ありがとう、ジン。今度の一連のごたごたで我が国が嫌われたんじゃないかと心配したよ。僕は午前中、手続きで不在になる。午後には戻る予定だ」

「わかった。夕方まで適当に時間を潰しているよ」

ラインハルトの説明に仁も答え。一旦2人は別れたのである。

* * *

ホテルで適当に朝食を摂った後、仁は再び蓬莱島へと転移した。

仁には思いついたことがあったのである。

それはエルザの居場所を捜す魔導具。エルザは仁の作った短剣とブローチを身に着けていると仮定すれば、その2つには仁の魔力パターンが刻まれているはずである。

保護指輪(プロテクトリング) の方は、所有者の魔力に馴染んでしまっているだろうから除外。

つまり、魔力探知機、その高性能なものを作ってみようと思ったのである。

「 御主人様(マイロード) 、今日は鎧の続きではないのですか?」

老子がそう問いかけてくる。仁は肯いて、

「ああ。ちょっと思いついたものがあってな。素材の準備を頼む」

「了解しました」

仁が作ろうと思ったのは魔力探知機の上位版、個人の魔力を感知して居場所を特定する魔導具、いや魔導装置だ。

実を言えば、先代が亡くなった後、後継者を探すため、礼子の前身である 自動人形(オートマタ) は、そういう装置を50年ほどかけて開発していたのである。

だが、1000年にも及ぶ探索で、その装置は仁発見後、跡形もないほどに壊れてしまったし、 自動人形(オートマタ) の知識も一部欠損してしまい、今のところ再現できていない、いや、かつてそういう魔導具があったという痕跡すら無かったのだ。記憶も含めて。

ゆえに仁もまた1から作り上げることになったのである。

基本は礼子にも搭載されている感知器。特定の魔力に同調し、強度と方向を知ることが出来る。精度はあまり良くはない。

それを大規模にしたものを3基、蓬莱島に備えるつもりだ。

方向がわかれば、離れた2点からそれぞれの方向へ直線を引くことで交点が位置を示す。2点が動かせないため、最悪2点を結んだ直線上に対象物があった場合に備え、もう1基増やし、計3基で観測すればかなりの精度が期待できると仁は考えたのである。

電波同様、魔力の同調は共振、共鳴といった原理で行う。コイルの代わりに 魔導式(マギフォーミュラ) を刻んだ 魔結晶(マギクリスタル) でだ。仁は慎重に 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込んでいく。

横では礼子が、仁の指示を受けて感知器の筐体や支持脚を制作していた。

そんな様子を眺めている蓬莱島のブレーン、老子は、自分にも手足があればもっと仁の役に立てるのに、と思っていた。

さて、魔力を検知した方角をどうやって数値化するかにあたり、仁は困ってしまった。元の世界なら方位磁石というものがあるし、北極星の位置というものもある。

「あー、船や飛行機の航法のためにもコンパスは必要だなあ」

ということで感知器の組み立てを一時止めて、方位磁石を作ってみる仁。

実験的に、鋼の針を磁化し、紙に刺して洗面器に張った水に浮かべてみることにする。針も紙も洗面器もあるが、磁化が難しい。

結局、銅を 変形(フォーミング) で銅線にし、表面に絶縁用の塗料ということでウルシに似た木の樹液を塗った。

こうして作ったエナメル線もどきに、銅と亜鉛の薄板を交互に積み重ね、間にはシトランの汁に浸した布を挟んで作った電池を繋げば電磁石が出来る。

鋼の針を鉄心にして磁化させ、ようやく磁針が完成した。

それを紙片に刺して水に浮かべると、簡易コンパスはちゃんと南北を指した。これでこの星にも地磁気があることがわかる。

仁は本格的なコンパスの作製にかかる。針は鋼、軸受けは小さい水晶、ケースは軽銀。方位盤は360度で分割し、東西南北、北東北西南東南西、その間にある北北東以下の8方位合わせて16方位を印した。

もっと正確を期するなら北極星などの目印を使うべきなのだろうが、まずはこれで十分だ。

方位盤を組み込んだ3基の感知器は3時間ほどで完成。それぞれが独立したゴーレム頭脳を持っていて、 魔素通信機(マナカム) で情報をやりとりできる。

それぞれを蓬莱島の南である研究所の上、南東のタツミ湾、南西の果樹園の中にある小山の頂きに据え付けた。

「よし、今は俺の魔力に調整してある。それぞれ感知した方向を知らせろ」

管理するのは老子である。一旦情報は老子に送られ、老子が処理して仁に伝える手筈だ。

「 御主人様(マイロード) 、一番大きな反応はAが179、Bが347、Cが61です」

Aが研究所、Bはタツミ湾、Cが果樹園の検知器だ、磁北を0として、360度を時計回りに数値化している。

「うん、ちゃんと研究所前にいる俺に合っているな。これなら使えそうだ。他のゴーレムとかもわかるか?」

仁の作ったゴーレム達は皆仁と同じ魔力パターンをしている。違うのは強度。故に同じ検知器で探す事は出来る、のだが。

「島にいるゴーレム達は数が多すぎて特定が困難です」

ということになる。目の前にいれば、識別する方法はいろいろあるのだが、魔力パターンだけでは無理のようだ。

「ああ、そうか。じゃあ、飛行隊の方は?」

地図作製のため飛んでいるゴーレムなら数が少ない。

「はい、それでしたら特定可能です。位置は……」

だが仁はそれを遮って、

「ああ、細かい報告はいい。それよりも、数値でなく、出来上がった地図の地点で表して報告できるようにしておいてくれ」

と老子に指示する。いちいち方角の数値で報告されてもわかりづらいからだ。

「了解しました」

これで蓬莱島は、仁以下のメンバーを探査できるようになったのである。

探そうと思えばエルザも捜せるはずだ。正確にはエルザの持つ魔導具を、だが。

「 御主人様(マイロード) 、お願いがあります」

一区切り付いたと判断した老子は先ほど思いついた願いを仁に告げる。

「私の外部人型端末を作って頂けないでしょうか」

つまり老子が操れるゴーレムもしくは 自動人形(オートマタ) である。

「そうすれば 御主人様(マイロード) のお手伝いがもっと出来るのですが」

仁は考え込んだ。礼子と老子をお互いに監視させ合い、暴走などに対処する考えであったが、老子にそう言う端末を用意すると、礼子の優位性が減るのではないかと。

「礼子さんのように強い必要はありません、せいぜいアンくらいで結構です」

仁のためらいを見た老子はそう補足した。仁もそれならいいだろう、と許可を出す。

「わかった。外観に希望はあるか?」

「はい、老子の名に相応しく、老人の外観でお願いします」

確かに、今の蓬莱島には老人の外観を持つゴーレムはいない。

「わかった。任せておけ」

それで仁はさっそく老子の専用 自動人形(オートマタ) を作ることにした。

基本はアンと同じ構造。違うのは男性型ということと、頭脳に相当する 制御核(コントロールコア) を持たないこと。

代わりに 魔素映像通信機(マナ・テレカム) や 遠隔操作(リモート) の 魔導装置(マギデバイス) を乗せ、制御はあくまでも老子が行う。

ゆえに力は礼子の20パーセント相当が最高出力となる。

外観は老子だから仙人風にしようかとも一瞬考えたが、結局は執事風にした。エルザの執事アドバーグと、ラインハルトの執事、クロードを足して2で割った感じ。

単に仙人風だと威厳がありすぎて仁が気後れしそうだからというのはここだけの話である。

* * *

「対象の1人が単独行動」

「よし、確保せよ」

「了解」

* * *

仁は午後遅く、蓬莱島からイカサナートへ戻った。

まだ夜には間があるので、鎧が手に入らないか街中を歩き、武器や防具を売っているような店を探して歩く仁。だがそうそう見つかる事は無い。そもそも騎士が身に着ける様な全身鎧はオーダーメイドなのであるから。

「後でラインハルトに相談してみるとするか」

諦めて仁はホテルに戻った。