軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

08-04 ALL AT ONCE, NO ELZA

翌日、仁は廊下が騒がしいのに気が付いて目が覚めた。

急いで服を身に着け、廊下に出てみると、軍服姿の男達が数名行ったり来たりしている。

その1人が仁を見つけ、近づいて来た。

「失礼。部屋を見せて貰いたいのだが」

「は?」

いきなり部屋を見せろと言われて面食らう仁。だがその男は更に、

「いいな? 否定がなければ勝手に見るぞ」

そう言って仁を押しのけ、仁が泊まっている部屋に入り込んだのである。

「……何なんだ」

別にやましい所はこれっぽっちもない仁だが、少々態度が気に入らない。その軍人はすぐに出てきて、

「ふむ、異常なかった。邪魔したな」

そう言って廊下を歩いて行ったのである。

「ホントに何なんだ」

部屋に戻る仁。するとアンが、

「ごしゅじんさま、どうも誰かを探しているかんじです」

アンが仁を呼ぶときの『ごしゅじんさま』と言う発音がやけに舌足らずなのは元の作成者の趣味なのだろうか、などと益体もない事を考えながら、仁はアンの報告を聞いた。

「作り付けの机の引き出しなどは見向きもしないで、ベッドの下やワードローブの中などを探し回っていましたので、大きな物、おそらく人を捜していると思われます」

なかなか洞察力に優れたアンの報告であった。

「誰かって誰をだ?」

「さあ、そこまでは」

その時ドアがノックされた。仁がどうぞ、と言うと、ラインハルトであった。

「おはよう、ジン」

「おはよう」

そう言ってラインハルトは部屋を見回す。それに気づいた仁は、

「ラインハルトまでどうしたんだ?」

と尋ねる。するとラインハルトは複雑そうな顔をして、

「エルザが……いなくなった」

と言った。

「何だって?」

驚く仁。そうすると、さっきの軍人はフリッツの部下か何かで、エルザを捜していたのであろう。

「エルザが、朝になったというのに起きてこない。いつもなら既に起きている筈のミーネも見あたらない。部屋に入ってみると、どうも2人とも失踪したようなんだ」

「それでフリッツが捜し回ってるわけか」

「そうなんだ。君の所にも来たか」

「ああ」

仁は窓の外を見た。フリッツの部下らしい軍人たちが手分けして捜し回っているようだ。街中にも姿が見えるということは総出で捜しているのであろうか。

「ご苦労なこった」

そう呟いた仁にはエルザが姿を消したわけがなんとなく理解できた。

「ミーネが一緒だとしたら多分あいつらには見つけられないだろうな」

ラインハルトがぼそりと言う。

「何せミーネはこのイカサナートの隣町の出だ。土地勘はあるだろうし、知り合いだっているだろう。そのミーネが本気でエルザと逃げているならまあ、ちょっとやそっとじゃ見つかりっこないさ」

その口調には見つからない方がいい、という響きもあった。

「ラインハルトはどう思ってるんだ?」

仁はつい聞いてみたくなった。

「何をだい? エルザの結婚のことかい? それとも失踪したことかい?」

「両方だ」

仁がそう言うと、ラインハルトは小声で話し始めた。

「結婚は別に悪い事じゃないとは思う。領地の運営なんかは貴族の場合家令や執事が手伝ってくれるし、結婚してから憶えたっていい。家事だって侍女がいるし、はっきり言ってお飾りの人形でいいんだ。それが貴族の奥方だ。子供だって乳母を雇えばいいしな」

そこまで言うとにやりと笑い、

「それは古い貴族の場合だがな」

と言って先を続ける。

「エルザにはもっと違った、温かい家庭を築いて欲しいよ。お互いに好きな相手と結婚して、と言うのが理想だが、まあ結婚してから愛を育むのというもありだがね」

そう言ったラインハルトは一瞬だけ寂しそうな顔をする。だが次の瞬間にはいつもの顔に戻り、話を続ける。

「まあ逃げたこともわからなくはないよ。ジン、気が付いていたかい? ミーネとエルザの関係」

「うん、うすうすは。ということはラインハルトも? まあ、当然か」

「ああ。おそらくだがミーネはエルザの実の母親だ。おそらくというのは聞くに聞けない事だからね」

それはそうであろう。エルザの父親に聞くというわけにもいかない。ましてや本人にも。

「話し方、エルザへの態度、乳母になった時期、いろいろ考えると実の母親だろうな、と思ったんだ」

仁も自分の考えを述べた。そして、

「まあ、それでもあの教育の仕方とか頷けないがな」

と補足。仁も小さい子供の面倒を随分見てきているので、あれではエルザがいつまで経っても自立出来ないと思っていたのだ。

「だけど、これからどうするつもりだろう」

仁が気にしているのはそちら。ミーネの実家がこちらにあるのだろうが、そこに戻ればすぐ見つかるだろうし、かといってずっと放浪するわけにもいかないだろう。

「ミーネはどこか壊れているからなあ」

とはラインハルト。『壊れている』という表現はこの世界において、精神的な疾患やトラウマを抱えているとか、または人格に問題があるなどの時に使う。

仁はそれを聞いて確かに、と思う。ミーネのエルザに対する態度、所々異常な感じを受けたものだ。

「何でエルザの父親はミーネを乳母にしたんだろうな」

ふと思いついた疑問を口にする仁。ラインハルトはそれに答えて、

「エルザはミーネがいないと身体が保たないんだ」

「えっ?」

衝撃の事実に仁も絶句する。

「いや、正確に言えばミーネでなくてもいいのだろう。しかし、そう都合良くそんな人間が見つかるとも思えないし」

そう言いかけたラインハルトを仁は慌てて遮る。何だかとんでもない事を聞いたようだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ラインハルト。それって初耳なんだが、エルザがミーネがいないとどうなるって?」

ラインハルトは首をかしげていたが、

「ああ、ジンにはまだ話していなかったのか。てっきり話したとばかり思っていたよ、すまん」

そう一言詫び、説明し始めた。

「エルザは昔お転婆だったと話したろう? あれは、1つには『その』発散のためだったんだ。エルザには、病気というわけではないが、1つの欠陥がある。それは、『魔力過多症』と言われている」

「魔力過多症?」

仁が初めて聞く単語である。

「ああ。魔導士の保有魔力は人によってまちまちだが、それぞれ上限が定まっているよな? エルザのそれはあまり大きくないんだ。普通の魔導士より少し多いくらいでな」

「それがまずいのか?」

だがラインハルトは、

「いやいや、話はこれからだ」

と、性急な結論をしないよう仁を宥めた。

「魔力は魔法を使うと減る。それはいいな?」

「うん」

「で、休息すれば減った魔力は自然と元に戻る」

「確かに」

「エルザの場合、元に戻りすぎるんだ。で、多すぎる魔力が彼女を蝕む」

この場合の魔力というのは 魔力素(マナ) の事だろう。

食べ過ぎ、栄養過多になった場合は肥満、そして糖尿病などの形で不具合が現れる。魔力の場合も同様、一概には言えないが体調不良をもたらすのだ。

仁は想像してみた。仮にゴーレムが、 魔素変換器(エーテルコンバーター) の過剰作動により 魔力素(マナ) を大量に作り出し、 魔力炉(マナドライバー) がそれを処理しきれなくなった場合。

余った 魔力素(マナ) は外部からのちょっとした魔法などの刺激で変質し、それを内包する身体に悪影響を与えるであろう。

それと同じ事が人間の体内で起こったら? 仁はエルザの抱える問題を理解した。そして、何故ミーネがあれだけ無茶苦茶やっても解雇されなかったのかも。

「適切な安全弁となれる人間が傍にいることで発症を抑えられるんだ」

仁は理解した。血縁者の様に、魔力の波長、というより生命の波長が近い者がいれば、そちらが 魔力素(マナ) の通り道となることで症状が抑えられるのである。

「他に治療法はないのか? もしミーネがいなくなったらエルザはどうなる?」

「1週間や十日くらいなら離れていても問題ない。また、その間に魔法を使って魔力を消費すれば問題は無い。子供時代ならともかく、今のエルザは自分でも理解している」

ラインハルトはそう言って仁の心配を払拭した。

「なあラインハルト、魔力を放出させるような魔導具を持たせることは出来なかったのか?」

仁は不思議そうに尋ねる。だがラインハルトは寂しそうに微笑み、

「ああ、理論上はそれで解決できるよな。だけど大きな問題が1つある」

と、苦しそうに言った。

「それは?」

「魔法という形でならいざ知らず、魔法を発動させる前の魔力を放出させる魔導具を作れる者なんていなかったんだよ」

「え?」

「え?」

それを聞いて不思議そうに眉を顰めた仁と、そんな仁を見てまさか、という顔をしたラインハルト。2人の視線がぶつかった。

「作れる者がいない?」

「まさかとは思うが、ジン、君には?」

おそるおそる尋ねるラインハルトに仁は大きく肯いて答える。

「多分作れると思う」