軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07-12 遺跡へ

ケウネ村へ向かうその日は朝から快晴であった。

予定通り、仁達は仁の馬車でケウネ村へ向けて出発した。メンバーは仁、ラインハルト、エルザ、そして執事のクロードである。

礼子は御者台に座っている。

言われていたとおり、かなり悪い道だ。凹凸はもちろん、急な登りがあったり、細くなっていたり、大きな石がごろごろしていたり。

そんな悪路を仁の馬車はものともせず進んでいき、昼前にケウネ村に着いてしまったのである。

「早かったなあ、さすがジンの馬車だ!」

褒めることしきりのラインハルト。

「さて、遺跡というのはどこなんだろう?」

馬車をそれなりの広場に駐めた仁は周囲を観察してみた。このケウネ村は山の中の寒村といった雰囲気である。カイナ村よりももっとずっと寂れた感じがする。

「本当にここに遺跡なんてあるのか?」

そういう文化財的なものがあるならもう少し賑わっていてもいいんじゃないか、と仁は思った。

「あんたら、遺跡見に来なすったかね?」

仁がその声に振り向くと、腰の曲がった老人が杖をついて立っていた。この村の人らしい。

「え、ええ。ケウワン遺跡、でしたか? 是非見学したいと思いまして」

仁がここへ来た目的をそう説明すると、

「ほうほう、そうかね。遺跡へねえ。そりゃ物好きなこんだ」

と、老人はやや訛りのある言葉で笑い、

「そんならこっちだ。どうせ暇だで、案内してやんよ」

と山の方へ向かって歩き出した。

仁達は顔を見合わせる。

「どうする?」

「まあ、付いていってみようじゃないか」

「ん。いいと思う」

「危険は特に無さそうですな。あの者からは殺気も邪気も感じられませんでした」

執事のクロードは昔一流の剣士でもあったそうで、老人に危険が無さそうだと保証した。

「よし、それじゃあ行くとするか。そうだ、ジン、馬車は大丈夫かな?」

ラインハルトが気にしてそう聞くと、仁は笑って大丈夫だ、と言った。

「鍵も掛けていくしな」

鍵どころか、密かに『 隠密機動部隊(SP) 』が見張っているはずなので安心して馬車を離れられるのだが、それは口に出来ない仁であった。

「おーい、どうしたね?」

道の先で老人が振り返って呼んでいる。仁は急いで荷物を持ち出し、

「さあ、行こう」

と歩き出した。ラインハルトたちも歩き出す。エルザは仁が珍しく荷物を持っているので、

「ジン君、それ、なに?」

と気になって尋ねた。仁は笑って答える。

「これか? いろいろな必需品だよ」

そう言って説明する。

「明かり、水、携帯食料、ロープが入っているんだ」

そう説明するとクロードが感心したように声を上げた。

「ほほう、ジン様は用意周到ですな。昨日の観光鉱山とは違い、遺跡は基本的に整備されていませんからな。明かりと水は必需品でしょう」

そう言って自分の荷物を指差して見せた。クロードも準備してきたらしい。

今回、礼子は久しぶりに『桃花』を手にし、仁のそばを離れないように歩いていた。

「おまえさん方、いろいろ持ってきてなさるようだが、そんなもん必要ねえだよ」

先を行く老人がぼそっとそう言った。

「え?」

「遺跡はそんな広くねえ。ちょっと入ってのぞいて、そんで終わりだあね」

「そうなんですか?」

仁がそう聞くと老人は肯く。

「んだ。もそっと見所ありゃあ人寄せになるのによ」

どうも期待はずれなようだ。だが、せっかくなので荷物はそのまま持っていくことにする。

10分ほど歩いて、やってきたのは巨大な崖の前だった。

「崖……?」

「高さ100メートルくらいはありそうだな」

「ほれ、あそこが入り口だあ」

老人が指差す先は花崗岩で出来た垂直に近い崖、その麓にその遺跡は口を開けていた。

「危ねえことはなんもねえ。地元のもんも夏の暑い時とか入って涼んでるしな」

との老人の説明にいささか興がそがれるが、一行はせっかく来たのだから、とその入り口に向かった。

「何か期待外れみたいだな」

とラインハルトが言えば、

「でもこういうところ初めて。入ってみれば意外と面白いかもしれない」

とエルザ。仁は無言で歩いている。と、礼子が突然立ち止まり、仁の手を押さえた。

「お父さま、遺跡に人がいます」

その言葉通り、遺跡の入り口から顔を出した人物が一人いた。

「おやあ、珍しい。見学者かい」

「おお、先生、今日も遺跡調査かね」

先生と呼ばれた、老人と顔見知りらしいその人物は、やはり老人といっていい歳だろう。頭には頭髪が見あたらず、代わって顎には見事な 白髯(はくぜん) 。

だが背筋はぴんと伸び、グレイの目からは活力に溢れた印象を受ける。白いローブのような上着を着ていて、いかにも研究者といった雰囲気を纏っていた。

「うむ、1日に1回はここへ来ないと落ちつかん」

そう言ってからその人物は仁達に向き直り、

「若い方がこういう遺跡に興味持たれるのは研究者として嬉しい限りだな。私はルコール、市井の考古学者だ」

「仁です。この子は礼子」

「ラインハルトです。こっちはエルザ」

「執事のクロードと申します」

ルコールと名乗った人物に、仁達も名乗り、挨拶をした。

「私はもう10年、この遺跡を調査しているんだがね、まだまだ理解するには至っておらん。それでも良ければ、少し案内して差し上げようか?」

ルコールの申し出。ただ漫然と眺めるより、研究していたという者に案内して貰えるのは正直有り難い。

「そうですね、それではお願いしましょうか」

とラインハルトが一行の気持ちを代弁してそう言った。

「よしよし、それじゃあこっちへおいで」

ルコールは自分が今出て来た遺跡の口へと一行を案内する。

遺跡の入り口は崖と同じ花崗岩の裂け目で、いかにも風化してぼろぼろに感じられたが、一歩中に踏み入れるとその印象は吹き飛んだ。

「な……なんだここは?」

そこは広い空間と、たくさんの椅子、ベンチ、ベッド。そして散乱したゴミの山であったのだ。

「ははは、驚いたろう。ここは元々は何も無い広い部屋だったんだがね、夏は涼しく冬は暖かいので、地元の者達が避暑や避寒のためにここを使うようになってね。それでこの有様というわけさ」

ルコールがそう説明する。そのためだろう、魔導ランプがあちらこちらに置かれていて、昼間のようにとはいかないが、十分な明るさである。

「なんだ、そうでしたか」

「いきなりだったので、おどろいた」

ルコールの説明にラインハルトとエルザは笑ってそう言ったが、一人仁は顔を顰めていたのであった。