軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

07-09 鉱石

仁が枝坑道の分岐点に戻ると、ちょうど他の面々も戻ってきた所だった。

「やあ、ジンはどうだった? 僕はこんなものだ」

ラインハルトが収穫した原石を見せる。水晶が2つ、 紫水晶(アメジスト) が1つ。

「俺はこんなものだった」

仁も収穫を見せる。

「ほう、 黄水晶(シトリン) が3つ、 紫水晶(アメジスト) 3つ、煙水晶が1つか。さすがだな」

ラインハルトにはどうやって見つけたか見当が付いているようだ。まあ 黄水晶(シトリン) と 紫水晶(アメジスト) 1個ずつはあの女の子が掘り出したのだが。

「私はこれ1つしか見つからなかった」

エルザは手にした黒水晶を見せた。

「水晶ばかりだな」

とはラインハルトの感想である。

「お母さま、これ、プレゼントなのです」

さっきの女の子が母親であるセカット子爵夫人に掘り出した石をプレゼントしている。

「まあ、いいの? シーデ、ありがとう」

女の子はシーデと言うらしい。母親に頭を撫でられてにこにこしている。

仁はそれを横目で見て、魔造ピンクサファイアを作ってよかった、と思っていた。

「あのお兄さんに場所を譲ってもらったのです」

そんな声が聞こえる。すると子爵夫人は仁のところへ歩いて来て、

「娘がお世話になったようですわね、ありがとう」

と礼を言ったのである。

「あの、失礼ですが、マリリアさんですよね?」

横からラインハルトがそう声を掛ける。

「はい、わたくしはマリリアですが、あなたは?」

「僕はショウロ皇国のラインハルトと言います。ご主人のセカット子爵には先日アスントでお目にかかりました」

と言った。それを聞いたマリリアは、

「まあ、そうでございましたの。主人は元気でしたか? 帰りが遅いので心配してましたの」

「ええ、お元気でした。ただ、アーネスト殿下の誕生会で少々トラブルがありまして、その事後処理に駆り出されているのだと思います」

情報の伝達が遅いこの世界、まだ夫人にはゴーレム暴走の話は伝わっていないようだった。それでラインハルトは当たり障りのない話だけ伝えておく。

夫の近況を、その場にいたラインハルトから聞けて、夫人は胸を撫で下ろしたようだった。

「お兄さまの帰りが遅いのです」

そんな中、女の子、シーデの声が響いた。まだ戻ってきていないのは兄の少年だけ。

「そうね、エデムは遅いわね」

「捜してくるのです」

そう言ってシーデは走り出す。

「あ、危ないから走っちゃ駄目よ!」

と母親のマリリアが言ったそばから、シーデはつまずいて転んでしまった。

「い、痛いのです」

「ほらほら、言ったでしょう、……困ったわ、わたくしは治癒魔法出来ないし……」

そこへエルザが進み出て、

「私が。……『 治せ(ビハントラン) 』」

「あ、もう痛くないのです」

「まあ、お嬢さん、どうもありがとう。ほらシーデ、お礼を言いなさい」

「はい。お姉さん、どうもありがとうございますです」

素直な子で、母親に言われるとすぐにエルザに礼を言う。

「……気をつけて、ね」

「はいです」

暗いので良く見えないが、エルザはちょっと頬を赤らめているようだ。

「母上! すごい石を見つけました!」

そこへ、大きな声を上げながら、シーデの兄エデムが戻ってきた。

「ほら、見て下さい! 緑色の石です! それにこの見事な形!」

そう言いながらエデムは手にした原石を母親に向けて差し出す。ちらと仁が見ると、まごうことのない特徴のある石。

「蛍石だな」

ぼそっと呟いたその声をエルザが聞きつけた。

「蛍石?」

「ん、ああ。今エデム、だっけ? 彼が持っていた石さ。綺麗な八面体してただろう? 蛍石ってああいう形に割れるんだよ」

蛍石はフッ化カルシウム。実は製鉄にも使われている。仁が落ちた電気炉はともかく、高炉を用いる製鉄ではスラグと呼ばれる不純物を流し出しやすくするために用いられていた。

なので仁には割合馴染みのある鉱物なのである。

宝石としては軟らかすぎる(モース硬度4)ため、一部のコレクターしか集めていない。

多分これも観光客サービスの石だろう。

「まあまあ、エデムもすごい石見つけたのね。良かったわね」

「お兄さま、シーデはピンク色の石を見つけたのです」

「そうか、よかったな」

「はいです」

仁は喜んでいる一家に水を差すつもりはない。ただ。その仲睦まじさがちょっぴり羨ましいな、と思っただけだ。

「はい皆さん、楽しまれやしたか? そろそろ外に出ますんで付いて来てくだせえ」

そこへ案内人の声がかかった。借りた魔導具を返し、8人はまた来た道を戻っていった。

* * *

外に出ると雲が切れ、青空が少しのぞいていた。吹く風ももう春の風である。

「あー、外の空気はうまいな」

背伸びをしながら仁がそう言うとラインハルトもまったくだ、と肯き、エルザもこくこくと首を縦に振っていた。

「それでは皆様、ごきげんよう」

セカット子爵夫人がそう挨拶をする。シーデは手を振りながら、

「お兄さん、お姉さん、さよならです」

仁とエルザも小さく手を振り返したのである。

ちょうどお昼なので近くのレストランに入ってみることにする。

鉱山の村なのでレストランの中にも大小様々な鉱石や宝石の原石が飾ってあった。

「 水石(アクアマリン) は無い?」

エルザが小さな声で仁に聞いてきた。

「アクアマリン、か。どうかな」

エルザの瞳の色と良く似たアクアマリン。そのせいもあってエルザの大のお気に入りな宝石である。

「あー、これはそうだな」

拳大の結晶が飾ってあった。アクアマリンはエメラルドと同じ鉱物であるが、エメラルドが地中深く、大圧力の元で結晶するのに対し、アクアマリンは普通にペグマタイトの中に出来る。

「これ、きれい」

「磨いてなくても綺麗だよな」

「うむ、研磨された宝石が着飾った美女なら、原石は素朴な村娘といったところか」

「? ? ?」

「…………」

いきなり口を挟んできたラインハルト。その似合わない気障な言葉に、仁とエルザは何とも言えない顔をするしかなかった。

「あれ? なんか酷いこと思われてる気がするぞ」

それを察したラインハルトが苦笑しながらそう言うと、

「気のせいじゃない。ライ兄にそんな台詞は似合わない」

と、エルザが正直な感想を漏らした。

「ひどいな。……せっかくその石を買ってやろうかと思ったんだが止めるとするか」

とラインハルトがふて腐れたように言えば、

「ごめんなさい。ライ兄はハンサム」

と言って擦り寄るエルザがいた。ラインハルトは苦笑を深め、

「少しは大人になったのかと思えば、そんなとこは変わらないな。まあいい、買ってやるよ」

従妹に甘いラインハルトであった。

* * *

「あんなサファイアがまだ出るのか……」

シーデが母親、セカット子爵夫人マリリアに渡したところを見ていた案内人は鉱山組合に報告。

観光用坑道はそれから2週間閉鎖され、採掘が行われたが、ピンクサファイアどころかただのコランダムさえほとんど採れなかったという。