作品タイトル不明
06-33 思わぬ伏兵
夜8時。
ラインハルトの部屋には仁、エルザ、ステアリーナ、ドミニクが集っていた。
侍女はラインハルト付きのリアンナとメアリ、それにエルザ付きのケイト。仁付きのライラは来ていない。
それにステアリーナとドミニク付きの侍女も来ていない。さすがに部屋が狭くなりすぎるから。
「ラインハルト様の 黒騎士(シュバルツリッター) についてお話をお聞かせ願いたいですわ」
ドミニクが潤んだ目でそう言った。その青い瞳はラインハルトに向けられている。
「話せと言われても、何を話したらいいのか……」
「あら? 聞き及んでおりますわよ? 昨年でしたっけ、セルロア王国王都で行われた戦闘用ゴーレムの模擬戦、それに優勝されたではありませんか」
それが 黒騎士(シュバルツリッター) のデビューだった。
その時、 黒騎士(シュバルツリッター) は並み居る強豪ゴーレムを押しのけ、決勝戦ではセルロア王国一と言われた『 金剛戦士(アダマスウォーリア) 』を破って見事優勝したという。
「ああ、私も見たかったですわ。公務で王都を離れてさえいなければ……!」
そう言いながら少しずつラインハルトに擦り寄るドミニクである。
「……あのひと、なんでライ兄にべたべたするの?」
少し離れた所ではエルザが不機嫌そうな声を出している。仁はそんなエルザの隣にいて、
「やっぱりラインハルトに興味あるんだろうな」
そう言いながら、果物ジュースをすする。
「でもおかしい。ライ兄には普段、あんなに女の人は寄ってこない」
と、なんとも返答に困るような事を言い出したエルザに仁は苦笑を禁じ得ない。
そのラインハルトにはもう1人、ステアリーナも寄っていっている。
「やっぱり、貴族でしかも優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) だから、自然と興味持たれるんじゃないか?」
仁がそう言うとエルザは、
「でも、 魔法工作士(マギクラフトマン) としてだったらジン君の方が上」
ばっさりそう切り捨てた。
「はは、エルザにそう言ってもらえるのは光栄だけど、俺は一般人だからね」
「うそ。ジン君が一般人だったらこの世界が信じられなくなる」
と、エルザは褒めているのか貶しているのかわからない事を言う。
どう答えていいかわからなくなった仁は話題を変えることにし、
「そ、そういえばビーナが来ていないな。何かあったのかな?」
そう言われたエルザは先ほどの浴場でのことを思い出した。
* * *
夕食後、埃にまみれた身体を綺麗にするべく入浴しに行った時。
ちょうどビーナもエルザと同じタイミングで浴室に入ってきたのだった。
この時は後片付けのため 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) までも駆り出されていたので落ちついて入れそうだと判断したのである。
「あ、ビーナ」
「エルザ様……さん」
やはり敬語がやめられないビーナである。
「エルザでいいって言った」
「はい、でも……エルザ」
「ん、それでいい」
エルザが一足先にお湯に浸かっていると、身体を流したビーナも入ってきた。
「あの、ちょっと、いい?」
「ん、なに?」
ビーナは浴室内を見回して2人だけなのをあらためて確認すると、
「エルザさ……エルザはジンと……どんな関係なの?」
と尋ねた。エルザは小首をかしげ、
「ジン君とは友達」
と返答する。だがその答はビーナが欲しかったものではないとみえ、
「じ、じゃあ、エルザ……はジンのことどう思ってる?」
「ん? その前の質問とどう違うの?」
と逆に尋ね返すエルザ。そんなエルザにビーナはおずおずと再度問う。
「ジンのこと……好き?」
「ん。好き」
あっさりと答えるエルザにビーナは顔を伏せ、
「あたしも……好き」
と打ち明ける。それを聞いたエルザは、
「やっぱり。あなたも私と同じくジン君が好き。いっしょ」
そう言って微笑んだ。そんなエルザの仕草を見たビーナは、
「……好きっていうのは……結婚してもいいって言う意味で?」
と問うたのである。
* * *
(結婚……ジン君と?)
エルザは隣にいる仁を見つめる。
(結婚……お父さまとお母さまみたいな暮らしをすること? そして子供を産んで、育てる?……)
そう思いながらもう一度仁を見つめ、
(ううん、ちがう)
直感でそう感じた。仁と一緒にいると楽しい。不思議なことを知っているし、頼りになる。でも、仁と自分の子供を育てるということが想像できない。
だから風呂場でもビーナの問いに答えられなかった。
「エルザ?」
自分の名を呼ぶ声に我に返ったエルザ。声の方を向くと、いきなり黙ってしまった彼女に怪訝そうな目を向ける仁がいた。
「ビーナと何かあったのか? ビーナのことを聞いたら急に黙ったりして」
仁にそう聞かれて、
「ううん、何も無い。ただ、ビーナはクズマ伯爵に正式に求婚されたらしい」
さらっととんでもないことを暴露した。
「そ、そうなのか。やっぱりな」
うろたえる仁。そんな仁に、
「ジン君、どう思う?」
そう尋ねたエルザであったが、そこに割り込んできた者達があった。
「失礼、お嬢さん。わたくしたちにもジン君とお話させてちょうだいな」
そう言ってきたのはステアリーナ。ドミニクもいる。ラインハルトはと言えば、解放されて果物ジュースで喉を潤しているのが見えた。
「あのかわいらしい 自動人形(オートマタ) のお嬢ちゃん、ジン君が造ったのよね?」
礼子の事だ。あれだけ暴れ回っていればいやでも目に付くだろう。
「ええ、そうです」
「やっぱり! すごいわねえ、あの身体でゴーレム達を一蹴しちゃうんですものね、いったいどんな構造してるのかしら?」
その問いを発した時、一瞬だがステアリーナの瞳が光ったような気がした。
「それは秘密ですね、 魔法工作士(マギクラフトマン) としてそうそう秘技は明かせませんよ」
さすがに仁もそう言ってやんわりと断った。すると今度は後ろにいたドミニクが、
「あの子も 黒騎士(シュバルツリッター) と同じで、『隷属書き換え魔法』への対策がしてあるのかしら?」
仁はラインハルトがその話をしたのだな、と察し、
「ええ、もちろんですよ」
と答える。するとドミニクは、
「ああ、やっぱり!」
と声を上げ、
「ねえ、あの子に会わせて下さらないこと?」
と仁に懇願するようにそう言って身体を低くし、上目遣いで下から見上げるようにして仁の手を取る。
仁はちょっとだけ顔を顰めると、
「わ、わかりました。呼んできますので待っていてもらえますか」
そう言ってその手を振り解くようにして部屋を一旦出ていき、少しして戻ってくる。
戻ってきた時には後ろに礼子が付き従っていた。
「これが俺の礼子です。礼子、こちらがステアリーナさん、こちらがドミニクさん。ご挨拶しなさい」
仁がそう言うと礼子はスカートの裾をちょっとつまんで、
「はじめまして、礼子です」
と挨拶したのである。
それを見たドミニクは、我慢できなくなったように礼子に抱きつきそのまま抱きしめる。
「きゃあ! かわいい! こんな子が欲しいわあ!」
そう言って頬ずりをする。礼子はされるがまま。だがその表情には嫌悪が読み取れる。
さすがに見ていられなくなったステアリーナが、
「ドミニク、他人様の子になにやってるのですか。いいかげんにしなさい」
そう言うと、ドミニクは今までと違う低い声で、
「そうね。欲しければ自分のものにすればいいのよね」
そう言いながらポケットから緑色に光る宝石を取り出した。
「!? ま、まさか、それ、エルラドライト?」
そうステアリーナが叫ぶと同時に、ドミニクの工学魔法が放たれる。
「『 消去(イレーズ) 』『 書き込み(ライトイン) 』!」
ゼロ距離からの増幅された『隷属書き換え魔法』。
その直後、礼子から表情が消えた。