軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-21 シークレット

「どういう意味ですか?」

「おっしゃる意味がわかりませんが」

「なにか勘違いなさっていらっしゃるようですが」

と、ラインハルトとエルザ、それにビーナ担当の侍女達は平然とそう返したが、

「なななななんのことででででしょうか!?」

1人だけわかりやすい子がいた。

「…………」

全員から生温かい目で見られたその子はもちろん、仁の担当の子である。

「はっ!?」

ようやくそれに気付いて、平静を装うももう遅い。

「ライラ、あなた……」

「う、」

仁の担当はライラと言うようだ。そのライラは俯き、肩を震わせている。と思ったら、

「う、うえええええええええん!」

泣き出した。

「ちょ、ちょっと、あなた」

「ごめんなさあああああい!」

人目も憚らず泣きわめくライラに、仁達は自分たちが悪いような気さえしてくる。

見かねたエルザがそのライラの肩を抱き、

「泣かなくていい。べつにあなたをどうこうしようなんて言わない」

それでもまだライラはぐずっていたが、やがて泣き止んだ。

「ぐずっ……ぼんどうでずがあ……?」

「あ、ああ、本当だとも」

涙と鼻水に塗れた顔を向けられたラインハルトは若干、いやかなり引きつつそう答えた。

* * *

「そもそも、前回ここに滞在した時には君達のような侍女は付けられなかったんだよ」

ライラが落ちついたので、ラインハルトは自分が推理した根拠を語る。

「そして今回は国中の貴族が集まると言っても過言ではないから、警備が厳重になるというのは誰でも想像できる」

そうして自分付きの1人、10代後半と見られる鋭い感じの侍女をちらりと見て、

「侍女にしては動きに無駄がなさ過ぎた。あれは格闘技、おそらく短剣を使う武技を修めた者の動きだ」

そう締めくくった。

しばらくの静寂の後、ぱちぱちぱち、という拍手の音が響く。その主はこれもラインハルト付きの侍女、20代グラマー美人であった。

「お見事ですわ、ラインハルト様。確かに私どもは 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) の者です」

その名称を聞いてなにその中二病、と仁が思ったかどうかはわからない。

* * *

「 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) はその名の通り、侍女の姿を借りた隠密部隊です。私はリアンナ、むこうはケイト。そちらはメアリ、泣いているのがライラ、そしてあちらがリーザ、 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) 第2班です」

正体のばれた 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) 第2班班長、20代グラマー美人のリアンナは語り出した。

「その使命は王宮内の治安維持。少しでも怪しい者を排除し、王宮内の秩序を維持すること」

そう言ってかぶりを振り、

「でもラインハルト様に見破られてしまっては失格ですね」

そう言って立ち上がりかける。

「おい、どこへ行くつもりだ?」

「はい、任務に失敗したからには引き下がります」

肩を落としてリアンナがそう答えた。だがラインハルトは、

「馬鹿だな、全面的に失敗したわけじゃないだろう?」

「はい?」

リアンナはラインハルトの言ったことが理解できず、戸惑ったような声を上げた。

「君達の役目は、身分がばれても遂行可能だろう?」

「……」

「この王宮内をよく知っている者がいてくれれば助かるし、君達だって上から叱責されずに済むんじゃないか?」

「それはそうですけど」

なら決まりだ、とラインハルトは手を打ち合わせ、

「別に君達が僕らを監視するのを非難したいわけじゃない。君達だって仕事なんだしな。ただ隠れてこそこそ監視されるというのが気に入らなかっただけだ」

仁はそんなラインハルトの寛大さに感心すると共に、若干の違和感を抱いていた。

そんな仁の裾をくい、と引いた者がいる。そちらを向けばエルザである。そのエルザは小声で、

「ライ兄は昔から胸の大きな女の人に甘い」

と仁に告げたのである。

* * *

「……」

今、仁は自分の部屋に戻ってきていた。目の前にはライラがいる。

何となく仁は、昔孤児院にいた年少の女の子を思い出す。その子は中学2年生の時思いがけず学級委員に選ばれてしまい、慣れない役目に毎日神経をすり減らしていたのだった。

「なあ、ライラ」

「はっ、はい! なんでしゅかっ!」

緊張しすぎだろう、と仁は呆れる。それ以上にこの仕事に向いていないんじゃないか、とも思う。それで、

「なんで 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) なんかやっているんだい?」

と聞いてみた。するとライラは俯いた後、

「うー……やっぱり向いていないと思ってます?」

と上目遣いに聞いてきた。普通の男ならその仕草に何かを感じるのだろうが、仁は筋金入りの朴念仁で鈍ちんで恋愛音痴である。

「うーん、思う」

そう正直に答えると、ライラは肩をがっくりと落とし、

「ですよね……なんで姉さまはわたしをこのお役目に付けたんだろう……」

* * *

エルザは何もやましいところはないと、自分付きの 王宮隠密侍女隊(ロイヤルシークレットメイド) 、ケイトの前でもいつもと変わらない行動をしていた。

入浴、食事、着替え。まるで自分がいないかのように振る舞うエルザに、ケイトは内心かなわないな、と溜め息をついた。

* * *

ラインハルトは黙々と日記を付けている。一応外交官として、帰国時に報告書を提出する必要があるため、その資料とするためだ。

その横ではリアンナとメアリが所在なさそうに立っている。

ラインハルトが日記を付け終わるのを待って、

「あの、ラインハルト様……」

「ん? 何だい?」

「なぜ私たちを庇われたのですか?」

と尋ねるリアンナにラインハルトは笑って答える。

「うーん、何でと聞かれてもな。監視されるのは嫌いだ。だが君のような女性が叱られるというのも嫌いだからかな」

「なんですか、それ? 口説いてらっしゃるのかしら?」

口に手を当て、腰をくねらせてリアンナが笑う。なかなかコケティッシュではあるが、ラインハルトは動じない。

「ふふ、これでも外交官は見習い時代を含めて6年やってるからね。色仕掛けも随分経験してきたよ」

「あら、憎らしい」

そう言って再び姿勢を正すリアンナ。

「監視というのは秘密裏にこっそりとやられると嫌なものだが、堂々とやってもらえば意外と許せるものさ」

「あら、微妙に答えになっていませんよ?」

「だから、君達を追い返したら、もっと凄腕の者が、今度は僕らにわからないように監視することになるんだろう? それが嫌だと言っているのさ」

そう言ってラインハルトは爽やかな笑みを浮かべた。