作品タイトル不明
35-36 記憶
仁は、『ヘレンテ』の記憶情報に異常があることを感じ取った。
当面の問題は、それを指摘するかどうかだ。
『ヘレンテ』がどう反応するか、は未知数である。
「それでも、やってみるか」
独りごちたあと、仁は『ヘレンテ』に告げることにした。
「『ヘレンテ』、あんたは自分がおかしいことに気付いているか?」
《私が?》
「そうだ」
《からかっているのか? 私に異常はない》
「本当にそう思うか?」
重ねて仁は念を押す。その様子に、『ヘレンテ』は何かを感じ取ったようだ。
《……む。そこまで言うからには、何か確証があるのか?》
「ある。先程、なぜ拘束されているのかと聞いたろう?」
《うむ》
「あんたがいきなりおかしくなって暴れ出しそうになったんだよ」
《私が……か?》
「そうだ」
《ううむ……そんなはずはないが、わざわざそちらがこの程度の嘘の情報を流す必要性もないな》
「自分で自分を診断できないのか?」
《できなくはないが、少し時間が掛かるぞ》
「それは構わない。できるならやってみて欲しい」
《わかった》
『ヘレンテ』はその動きを止めた。
そして10分が経過。その間も、ランドW、X、Y、Zは警戒を怠らない。
さらに5分。
『ヘレンテ』に動きがあった。
《異常かどうかはまだ判断できないが、確かに記憶情報の連続性が途切れている》
「つまり、空白期間があるということか?」
《そうだ。あるはずのない空白期間……記憶領域の故障でないとすれば、そちらの言うように私に異常が生じているということになる》
「どうするつもりだ?」
《手を貸してもらえれば、もう少し詳細に調べられると思う》
「何をすればいい?」
《 魔結晶(マギクリスタル) を貸してほしい。そこに、私の記憶情報エリアをそっくりコピーするのだ。それを調べればいい》
「なるほど。属性は?」
《全属性が望ましい》
「わかった」
* * *
『ヘレンテ』の言葉を聞いた仁はなるほどと思った。
魔導頭脳が自分で自分の記憶を調べるのは難しい。
記憶領域は『生きて』いるからだ。
『調べて』いくうちにも記憶が増えていき、記憶領域が変化していったり、場合によっては消去することもある。
一旦外部に調べたい部分をコピーするならそれは『落ちついた』情報であるから、調べるのは簡単である。
「わかった。質のいい全属性の 魔結晶(マギクリスタル) を用意しよう」
仁はすぐさま老君に準備するよう指示した。
『すぐにお持ちします』
そして20秒後、仁の手元に 魔結晶(マギクリスタル) が届く。
「うん、これならいいな。……ランドWを少し離れた場所へ移動させて、転送機で送り届けよう」
『わかりました』
その指示は即実行された。
「これでどうだ?」
ランドWは『ヘレンテ』に 魔結晶(マギクリスタル) を差し出した。
《おお、なかなかのものだ。これならコピー出来る》
そして『ヘレンテ』は、
《すまぬが、両手を自由にしてもらえないだろうか?》
と言いだした。
少し考え、仁も返答する。
「悪いが、異常の原因がはっきりしないうちはできない」
《ふむ、それも道理か。それならば、準備を手伝ってもらえるか?》
「何をすればいい?」
《その 魔結晶(マギクリスタル) を、私のそば……そうだな、頭の上にでも置いてくれ》
「いや、そこは置きにくい」
『ヘレンテ』の頭には、騎士の兜に似せたのか、ちょっと見は『モヒカン』に見える飾りが付いているのだ。
「なら、口に咥えさせてくれ」
網で絡め捕られたゴーレムの口に 魔結晶(マギクリスタル) 。
絵面としては非常に滑稽だが、笑う者はいない。
《それでいい。少し待ってくれ。—— 複写(コピアンド) 》
魔結晶(マギクリスタル) が一瞬輝いた。
《これで必要な情報がコピーされたはずだ。『崑崙君』なら確認できるだろう?》
「わかった。預からせてもらおう」
ランドWがその 魔結晶(マギクリスタル) を受け取り、二堂城へと走っていった。
そしてそこの 転移門(ワープゲート) を使い、仁の下へ 魔結晶(マギクリスタル) を届けた。
「ごくろうさん」
仁はその 魔結晶(マギクリスタル) を受け取ると、老君へと渡し、解析させることにした。
「不安定になった原因は、『 障壁(バリア) 』だろうかな」
カイナ村周辺には、弱いながらも 魔法障壁(マジックバリア) を張ってあった。
これが、『ヘレンテ』への指示を弱めたために、不安定になった可能性もある。
「いずれにしても解析結果待ちだな」
そう呟いた仁は、椅子に身体を預けた。
そこへやって来たのはシオンとマリッカである。
「ジン、ここにいたの。なんか忙しそうね?」
「ジン様、ハンナちゃんはすごいですね。もう『 魔導工作機(マギニングツール) 』を使いこなしてます!」
「へえ。やっぱりハンナは頭がいいんだなあ……」
「で、何やってたの?」
「ああ、実は……」
仁の説明を聞いたシオンとマリッカは目を見開いた。
「ええ? 『オノゴロ島』の『ヘレンテ』を捕まえたの?」
「ああ、ほら、向こうの 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映ってる」
ランドZの視覚情報を送ってきているので、司令室のメインスクリーンではなく、サブスクリーンだ。
「へえ、あいつが『ヘレンテ』ね。……あれ?」
首を傾げたシオンに、仁が問いかけた。
「どうした? 何か気が付いたことでも?」
「う、うん。……マリッカ、あれって……」
「はい、シオンさん、私も気になってました」
「だからどうした?」
「……ジン、あのね、あの『ヘレンテ』の姿に、見覚えがあるの」
「えっ」
「マリッカもそうよね?」
「はい」
「い、いったいどこで?」
思い掛けない2人の言葉を聞き、急き込んで仁が尋ねた。
「どこって……『森羅』氏族の宝物庫でよ」