作品タイトル不明
35-34 魔導工作機
「あ、あの、ジン様、1つ提案があるんです」
仁たちはマリッカに工学魔法を教えようと、工房に移動した。
「うん? なんだい?」
「ええとですね、その、ハンナちゃんのことなんです、けど」
「ハンナ?」
「はい。あの、ハンナちゃんは、すごく頭がいいですよね?」
「うん」
「もったいないと思うんです」
「うんうん」
「それで、ハンナちゃんにも工学魔法を使えるようにしてあげることってできないんでしょうか?」
「……そういうことか」
「ジン兄、ハンナちゃんは頭がいいから、それはいいと思う」
エルザも賛成した。
仁も、以前ミツホで『工場』を見た時に少し考えたことはある。
「向こうにある俺の工房に置いておけば、ハンナにも使えるだろうしな。……よし!」
仁は、マリッカを助手にして、『工作用 魔導機(マギマシン) 』を作ってみることにした。エルザは今回は見学だ。
まずは『 変形(フォーミング) 』専用機から。
「ここに 魔導式(マギフォーミュラ) を書いて、こっちから入力される情報に対して処理をする。で、最適化したデータを使って、『 変形(フォーミング) 』を発動させる」
「うう、もう一度おねがいしますぅ……」
「悪い悪い、ちょっと速かったな」
エルザに説明するくらいの口調で 行(おこな) ってしまったため、マリッカでは付いて来られなかったようだ。
「この 魔導式(マギフォーミュラ) が、操作する者とこの 魔導機(マギマシン) を繋ぐんだ。これをインターフェース、っていう」
「い、いんたーふぇーす、ですか?」
「そう。つまり『人間の意志』を『 魔導機(マギマシン) 』に伝える役目だな。これがないと、魔法を使えない人間はいつまでたってもこの 魔導機(マギマシン) を使うことはできないだろう」
「あっ、そうですね!」
ゆっくりと構造、構成、用途などを説明していけば、マリッカも理解してくれる。
仁はその日1日掛けて、説明を交えながら『 変形(フォーミング) 』専用機を作り上げた。
イメージはスタンドアロンの3D加工機、だろうか。
「まずはこれから、かな」
大きさは小さな学習机くらいか。天板の大きさは幅90センチ、奥行き50センチ。
その片側に 魔導投影窓(マジックスクリーン) と入力装置が乗っており、その部分はオールインワンのデスクトップパソコンに似ている。
ディスプレイは 魔導投影窓(マジックスクリーン) 、キーボード部分はゲームコントローラーに似た形状。
天板の残りの部分には魔法陣が刻まれていた。
「すごいです、ジン様! これなら、魔法が使えない人でも『 変形(フォーミング) 』でいろいろ加工出来ちゃいます!」
「さすが、ジン兄」
「いや、俺のいた現代日本にも似たような機械があったからさ。本当に凄いのは、こういうものを作ったらいいんじゃないか、と思いついたマリッカだよ」
「ふえ!?」
仁に褒められてマリッカは赤面した。
「俺はよくも悪くも技術者だ。発明家としたら三流かそれ以下だろう」
「そんなことないと思うけど……」
仁の自己評価に、エルザは不満そうだ。
「ま、まあ、そんなことはどうでもいいさ」
仁は話題を変える。
「明日、カイナ村に運ぼう」
「ん」
「はい、楽しみです」
* * *
11月5日、仁、エルザ、礼子、シオン、マリッカはカイナ村へと移動した。
完成した『『 変形(フォーミング) 』専用機』を、仁の工房の片隅に設置する。
「おにーちゃん、これなあに?」
当然のようにハンナが質問してくる。それに答えたのはマリッカ。
「あのねハンナちゃん、これはね……」
「え!? 魔法工作機械!?」
「そうなの。作りたいものをここで指示してあげるとね……」
マリッカが説明していく。
ハンナ相手だと、口調が少し変わるようだ。
「……で、この魔法陣の上に材料を置いて、この『変形』ボタンを押すと、装置に仕込んだ工学魔法が働いて、できあがるの」
「すごーい! マリッカちゃんが作ってくれたの?」
この言葉にマリッカは少し恥ずかしそうに、
「ううん、作ってくれたのはジン様。私は少しお手伝いしただけ」
と正直に答えた。
「そうなの? おにーちゃん、どうもありがとう!」
仁は補足説明をする。
「この 魔導機(マギマシン) は『 変形(フォーミング) 』しかできないからな。作れる物の大きさは、ここに魔法陣があるだろう? ここからはみ出ないくらいの物までだな」
「うん、わかった!」
本体が幅50センチ、高さ40センチ、奥行き40センチだが、加工を担当するのは魔法陣で、その部分は直径60センチくらいである。
「銅、青銅、鉄、粘土なんかが材料になるな。木は加工できない。結晶は加工できるけど普通の石は加工できない。……まあ、間違えても何も起きないだけで、危険はないよ」
「うん」
「まずは試してみよう」
仁は、工房から銀の塊を持ってきて、魔法陣の上に置いた。
「余った分はちゃんとはねてくれるから、多めに載せておいた方がいいな。足りないときは、形は指示どおりでも大きさが小さくなる」
説明しながら仁は、ハンナを座らせる。
「簡単なところで、お皿を作ってみよう。このボタンを使って……」
ゲームコントローラーの矢印ボタンに似たボタンと、ジョイスティックのようなレバー。
それらを駆使して、仁は3面図を書いた。この辺の知識は、既にハンナは持っている。
「大きさはここで指定するんだ……」
ハンナは仁の説明を真剣な顔で聞いている。
「で、これでいいと思ったら『変形』ボタンを押す」
魔法陣が淡く輝き、銀塊はあっという間にお皿に変形した。余った分は小さな銀塊として残っている。
「わあ、すごい!」
大はしゃぎのハンナ。
「で、最後に、戻してしまう機能。この『素材復帰』ボタンを押すと……」
再び魔法陣が淡く輝き、お皿は銀塊に戻ったのである。
「うわあ!」
「何度でもやり直せるからな。練習するといい。……で、これは試作だから、使っていて気が付いたことがあったらどんどん教えてくれ。改良していくから」
「うん、わかった!」
「慣れてきたら、他の加工ができる 魔導機(マギマシン) も作るからな」
「ありがとう、おにーちゃん! マリッカちゃん、ありがと!」
にこにこ顔のハンナを見て、仁もマリッカも、作ってよかった、と思ったのである。
「マリッカちゃん、一緒にやってみよう!」
「え、いいの?」
「もちろんよ!」
早速マリッカと一緒にいろいろ試して見ようとするハンナ。
「そうだな。マリッカも、気が付いたことがあったら教えてくれ。できるだけいいものにしたいからな」
「はい、ジン様!」
『 魔導工作機(マギニングツール) 』がその一歩を踏み出した瞬間であった。
これを切っ掛けに、魔法工学が一般化を始めることになる。