作品タイトル不明
35-22 停止
10月最後の日、30日。
仁は、蓬莱島の防衛をさらに強化しようとしていた。
「地中にも張れる 障壁(バリア) だな」
『オノゴロ島』には、『 魔法障壁(マジックバリア) 』限定だが、そういった結界が張られていたのである。
こちらから攻めることに対しての焦りはない。
向こうの最終的な狙いが仁であることはほぼ間違いないので、防衛力の強化が喫緊であると判断したのだ。
『それに、向こうの攻撃力は、思ったほどでない可能性もあります。無論、過小評価は禁物ですが』
老君の分析によれば、元が個人主義で、争い事を嫌っていた『 始祖(オリジン) 』であるなら、技術力はあっても、それを攻撃に使う運用は稚拙なのではないか、という。
それでも『台風』は脅威だったし、捕獲したゴーレムも、一般レベルから見たら高度だ。
『彼等に対抗するならば、暴力に分類できるような戦い方が一番効果的かもしれませんね』
それはそれでなんとなく忌避感のある仁であったが、いざとなったらそんな甘いことは言っていられないか、と気を引き締め直すのであった。
「で、ジン兄、 障壁(バリア) の実用化はどうなったの?」
エルザが尋ねてきた。因みにシオンとマリッカはカイナ村でのんびりしてもらっている。
「お父さま、実験準備完了です」
「お、ご苦労、礼子。……エルザ、今から実験なんだ」
仁は考えていることを説明する。
「 障壁(バリア) の原理は、『 自由魔力素(エーテル) の網』だろう?」
「ん」
「 自由魔力素(エーテル) は原子や分子よりずっとずっと小さいから、固体の中にも構築することができるんだ」
「あ……確かに」
仁の説明は続く。
「今までできなかったのにも理由はあるんだけどな」
「お父さま、それは?」
これは礼子も知らなかった。仁の助手としてずっと手伝ってきたのだが、やはり知らないこともあったようだ。
「結界を構成するための 魔力素(マナ) 強度が、空気中と地中では違うんだ。空気中を基準にした強度だと、当然地中は除外される」
「……納得できる理由。なら、地中を基準にしたら?」
「そう、そこだ」
エルザの発想に仁は同意した。
「それを実験していたんだ」
「 魔力素(マナ) 強度は100万倍以上必要になりましたが、ちゃんと結界は形成されましたよ」
そして結果は礼子が報告した。
「気体中に結界を張る時の 魔力素(マナ) 強度を1とすると、水中は1000、固体中は100万くらいと桁違いに 魔力素(マナ) を喰うらしい」
おそらく固体に含まれる 自由魔力素(エーテル) が干渉していると思われる、と仁は推測を述べた。
「このままじゃ 自由魔力素(エーテル) 消費が馬鹿にならない」
「確かに」
「次は、どうやって効率をアップするか、が課題だ」
それでも、老君の周囲という狭い範囲だけなら今の技術でも結界を張れるので、一時的な保安措置として張り巡らせておくことにした仁である。
* * *
同日の早朝、ショウロ皇国首都ロイザート上空に謎の飛行物体が飛来した。
「な、何だ、あれは?」
警邏中の熱気球隊がそれをいち早く見つける。
それは皿のような円形をした物体で、直径は10メートル弱。
速度は途轍もなく速く、あっという間に見えなくなってしまった。
そして、その物体が何かをトスモ湖に投下していったのが辛うじて確認された。
その数分後。
「こ、高度が下がる!?」
「加熱の魔導具が止まっているぞ!」
「火魔法で補助……だ、駄目だ、魔法が使えん!」
「不時着するぞ!」
熱気球はその原理上、一気に墜落することはなかったので、乗員が大怪我をすることだけは免れた。
だが、異変はこれだけでは終わらなかった。
「ゴーレムが動かない?」
「魔導ランプが光らないわ!」
などの現象が多発したのである。
それはトスモ湖を中心に、半径50キロくらいの範囲で生じた。
「あなた! ネオンが動かなくなりましたわ!」
「何かが起こっているようだ。ベル、ユリと一緒にこの部屋にいるんだ」
ラインハルトは『 魔素通信機(マナカム) 』で仁に連絡しようとしたが、まったく通じなかった。
「 転移門(ワープゲート) も……駄目か」
どうやら全ての魔導具・魔法が使えなくなっているようだ、とラインハルトは判断した。
「ジン……」
そして彼は、ジンがこの事態を知ればすぐに対処してくれるとを信じていた。
* * *
「アアルが動かなくなったって?」
「そ、そうなんだよ」
サキの家でも影響が出ていた。
「いったい何が起こっているのかな……ジンに連絡が付かないし」
仁ファミリーのみならず、ロイザートでも同じ異変が起きていた。
「魔法が使えない!」
「魔導具が動かない!」
「……身体が怠い……」
宮城(きゅうじょう) でも、町の異変を聞いた女皇帝が、身体の怠さを押して事態の把握に努めていた。
「……魔法技術相、突然魔法が使えなくなった原因に心当たりはないですか?」
「面目ないことですが、まったくございませんので……」
「陛下、熱気球隊が、未確認の謎の物体を、朝、トスモ湖上空で見たという報告があるのですが、これがこの事態と関わりがあるかどうかはわかりません」
「とにかく原因と対策の割り出しを優先して行動してください」
現状ではそれしか言うことができない女皇帝は、
(ジン君なら……なんとかしてくれるのかしら……)
と、一縷の望みを抱いていたが、その希望を打ち砕く報告がもたらされた。
「陛下、『崑崙君』の屋敷へ行ってまいりました」
「どうでした?」
「は、『崑崙君』は不在なようでした。その上、門扉越しに中を見たのですが、ゴーレムメイドが2体、動かなくなって庭に倒れているのが見えました……」
「何ですって……」
仁のゴーレムたちも動かなくなってしまっているというその報告を聞いて、さしもの女皇帝も顔を青ざめさせた。
「いったいどうなっちゃうのかしら……」
その問いには、誰も答えてはくれない。
今や、首都ロイザートはその機能を完全に停止していた。
一般庶民ですら、魔導具の恩恵なしには日常生活に支障が出ていたのである。
そして、 第5列(クインタ) も例外ではなく、動作を停止し、倒れてしまっていたのである。
不幸中の幸いというべきなのは、倒れた場所は人目に付かないような場所だったということ。
そしてついに、この状況を蓬莱島が把握するところとなる。