軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 伍 アドリアナの流離い篇  0004 会談

それからのアドリアナは……。

M−005と同型のゴーレムを4体作る。

魔力素(マナ) の供給をしなくても灯り続ける魔導ランプを開発。

『 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) 』の初期型を製作。

魔導樹脂(マギレジン) の実用化。

などを1年足らずの間に発表し、ガランディア王国における 魔法工作士(マギクラフトマン) としての地位を確立した。

* * *

「……やっぱり凄かったのねえ、先代も」

一息つき、お茶で口中を潤す仁に向かってシオンが言った。

「す、すごいです! アドリアナ様!」

マリッカも頬を紅潮させて 讃(たた) えている。

「それからの先代は、ガランディア王国に魔法工学の教室を開いたんだ。最初は、若い、しかも女に教わるなんて、といって近付かない者もいたようだけど」

「その辺はわからないわね……あたしたちは実力主義なところがあるから」

「かもな。人間は……特に貴族なんかはそうした下らないことに拘るからな」

仁もそれについては苦々しく思うことも多々あったのでシオンに同意する。

「そして4年が過ぎた。その間のことは、本当に要点しか書かれていないんだ。忙しかったからなのか、他に理由があったのか、それはわからないけどな」

その4年間でアドリアナ・バルボラ・ツェツィは、ガランディア王国で教育者としても確固たる地位を築いたのだった。

* * *

2368年4月8日、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは28歳になった。

彼女は『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』として認められており、教え子の数も50人を超えている。

王城に勤める貴族、有力商人などから結婚の申し込みがあったが、彼女はその全てを断っていた。

養父であり、彼女が男性として唯一愛した人、シュウキ・ツェツィのことが忘れられなかったのである。

それに、彼女は弟子たちを育成することに情熱を傾けていた。

「先生、このゴーレムですが、どこがおかしいのかよくわからないのです……」

「ああ、これは『左右対称』になっていないのよ。こういう時は鏡に映してごらんなさい。歪んでいることがはっきりわかるから」

「あ、本当だ! 先生、ありがとうございました!」

「ふふ、頑張りなさい」

「先生、この 魔法制御の流れ(マギシークエンス) ですが、ここを省略してこうした方がいいんじゃないですか?」

「そうね、正常に動作しているときはいいわ。でも、何かの要因で暴走したらどうなるかしら?」

「……ええと……あっ! 際限なく動作が大きくなっていきます!」

「そうね。そうした制御を『フィードバック』というのよ」

「わかりました! ありがとうございます」

こんな具合に、彼女は弟子たちに懇切丁寧に教えていた。そのため、弟子たちはめきめきと上達していた。

その半面、アドリアナ自身はあまり自分の研究ができずにいたのであるが。

そんなある日、隣国ガランドーラ王国から使節団がやって来た。

ガランドーラ王国は、現在のセルロア王国あたりにある国で、ディナール王国の母体ともいえる国である。

国々の中では最も進んだ文化を持っていると言われている。

『 賢者(マグス) 』シュウキ・ツェツィがその放浪の初め頃に訪れた国でもあった。

「アドリアナ殿も出席してくれぬか?」

王太子がやって来てそんな要請をしてきた。

「私ですか? 何をすればいいのです?」

「向こうさんは大国の使者であることを少し鼻に掛けている節があってな。アドリアナ殿の知識でその鼻をへし折ってもらいたいのだ」

「はあ……できるかどうかは確約しませんよ? 私だって知らないこといっぱいあるんですから」

「無論だ。それで貴殿を叱責するなどありえんよ」

王太子はそう言って笑った。

アドリアナは礼服に身を包み、2カ国会談の末席に加わっていた。

(……退屈だ……)

挨拶に始まり、互いの国の出来事を語り合うという手順は、アドリアナにとって退屈極まりない時間であった。

聞くともなしに聞いていると、どうやらアドリアナのいるガランディア王国は、ガランドーラ王国から分かれて建国された国であるようだ。

どうりでガランドーラとガランディア、似たような名前だと思った、と心の中で呟くアドリアナ。

それからはつまらない話が続いていたが、少しずつ話の内容が、アドリアナの興味を惹くものになっていった。

「……資源開発は……」

「……精錬……薪が大量に……」

「……だが、そのために森林を伐採するのは……」

「……いや、植林をすれば……」

植林。それは、シュウキ・ツェツィが説いて回っていた教えの1つだ。

木を伐採したなら、跡地に苗木を植えよう、と。それにより、数十年すれば森林はまた元通りになり、木材を得ることができるようになる。

それだけではない。伐採した跡地、つまり禿げ山は保水力が落ちる。これは、降水量の少ない大陸では見逃せない。

「水利……だっけ」

ぼそりと漏らした独り言を、聞き咎めた者がいた。

ガランドーラ王国から来た使者の一人、マリオーサ・ド・フォーレス。

「ほう? ガランディア王国にも知識人がいらっしゃるようですね? お名前は何でしたっけ?」

「え? あ、わ、私はアドリアナ・バルボラ・ツェツィと申します」

「ふむ、東の国風の名前ですね。それで今、貴方は『水利』と呟かれましたね。この問題をどう捉えていらっしゃるかお聞きしたい」

「はあ……」

今彼等が話し合っていたのは、畑を増やすためには水が今以上に必要となるが、それをどうやって確保するか、という内容だ。

アドリアナは、その昔、父シュウキ・ツェツィから聞かされた話を思い出しつつ答えた。

「まずは……溜め池を掘ることですね。それから川が近くにある地域なら水路を作ること。あとは井戸を掘ること、でしょうか」

それを聞いてマリオーサ・ド・フォーレスはにやりと笑った。

「いずれにしても人手が必要となりますね。だが、そんな工事に人民を駆り出したら、しばらくの間は生産力が落ちてしまいます。それについてはどうお考えですか?」

「……そういうときこそゴーレムの出番だと思います」

ゴーレム、という単語を聞き、マリオーサの顔が少し引き攣ったようだ。

「ほうほう、ゴーレム。確かに人手を割かずに済むのは認めましょう。ですが、ゴーレム1体にかかる費用を考えてみたことがありますか?」

一般的にいってゴーレムは高価だ。現代地球でいうジェット戦闘機一機よりも価値が高いかもしれない。

だが。

「それがそうでもないんですよね。ゴーレムには可能性が眠っています。うまく運用すれば、かなり有効な方法がありますよ」

それは、アドリアナがずっと研究しているテーマの1つでもあった。

「その方法は?」

この質問には王太子が対応した。

「そこまでの詳細をこの場で話すほど我が国は余裕があるわけではないですよ」

そう言いながら、アドリアナに目配せをした。それ以上は喋るな、という意味だと解釈したアドリアナは口を噤んだ。

「ふ、それもそうですね。では、次の議題ですが、国力を上げるにはどういう方策がよいとお考えですか?」

マリオーサはアドリアナの方を見、口の端を歪めた。

その笑い方が気に喰わなかったアドリアナは、またもシュウキから聞いた知識を披露した。

「農業、ですね。生産量を上げることで、国には余裕が出来ます。衣食足りて礼節を知る、ですよ」

「何ですって?」

アドリアナの発言を聞いたマリオーサは、一瞬しかめ面をした後、顔を輝かせたのである。