軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 伍 アドリアナの流離い篇  0003 立身

アドリアナは考えた。

まずは自分を認めてもらうことから始めよう、と。

『 賢者(マグス) 』と呼ばれていた父、シュウキ・ツェツィと違い、自分はまだ無名なのだから、一歩一歩進んでいくことに決めたのである。

「まずは……少し目立つ方がいいかしらね」

ということで彼女は『汎用ゴーレム』を作ることに決めた。『万能』と呼びたかったが、まだその域には達していないが故の控えめな呼称である。

その旨をセインに告げると、すぐに許可が下りた。

当然と言えば当然である。4体のゴーレムを引き連れているアドリアナの提言なのだから。

「ほほう、それは素晴らしい。ぜひ作っていただきたい。予算はできる限りのことをしましょう」

こうして、現状手に入る素材を使ってのゴーレム作りが始まった。

「『 変形(フォーミング) 』『 変形(フォーミング) 』『 硬化(ハードニング) 』」

骨格を作り。

「『 成形(シェーピング) 』『 強靱化(タフン) 』『 強靱化(タフン) 』」

筋肉を取り付け。

「『 複写(コピー) 』」

制御核(コントロールコア) を作った。

アドリアナは、自らが作ったゴーレムの 制御核(コントロールコア) はマスターデータ用として持っているので、こうした作業を単純化することができている。

「『 仕上(フィニッシュ) 』」

青銅の外装を仕上げれば出来上がり。

「……4時間……か。まだまだね」

随所に新たな試みを加えているので思ったより時間が掛かってしまった、とアドリアナは己の力不足を痛感していた。

それでも、昼食を挟んで動作チェックを済ませると、さっそくセインの所へと報告に向かう。

「おや、アドリアナ殿、どうされました? 何か足りない資材でもございましたかな?」

書類仕事をしながら顔を上げて、セインは微笑んだ。

「いえ、できたので報告に、と」

「は?」

セインの微笑みが引き攣る。

「ええと、何がお出来になったのでしょう?」

「ええ、汎用ゴーレムが」

「はい!?」

セインが目を丸くする。その珍しい様子を見て、隣にいた女性事務員も目を丸くした。

「ええと、アドリアナ様。『汎用ゴーレムができたので報告に』、そう仰ったのですね?」

「はい」

「何と! 半日でゴーレムを一体完成させてしまわれるのですか!」

「はい」

「……」

その淡々とした返事に絶句するセイン。

「と、とにかく、完成したゴーレムを見せていただきましょう。ターニャ、ちょっと頼みます」

女性事務員に一声掛け、セインはアドリアナと共に工房へ向かった。

そして、そこで見たものに声を失う。

「……!」

外装は青銅なので、純銅よりも明るみを帯びた 銅(あかがね) 色をしたゴーレムがそこに横たわっていたのである。

「こ、これをたった半日で……?」

「はい」

「し、失礼かと思いますが、動くのですか?」

「もちろんです。……『M−005』、『 起動せよ(ウエイクアップ) 』」

「ハイ、アドリアナサマ」

「わっ!」

M−005と名付けられたゴーレムが返事をし、起き上がったものだから、さすがのセインも仰天した。

「どうでしょう? 色々工夫をしまして……」

「ちょ、ちょっとお待ち下さい」

説明を始めようとしたアドリアナを、セインは遮った。

「陛下に報告してまいります。そして、おそらく陛下も説明を聞きにいらっしゃると思いますのでちょっとお待ち下さい」

「あ、はい」

ゴーレムを連れて王城内をのし歩くわけにはいかないので、見たい者がこちらへ来ることになるわけだが、国王まで来るのかな、などと思いながらアドリアナはその場に留まった。

10分後、国王とセイン、それに見かけない人物3名が慌てたようにやって来る。

「アドリアナ殿、ゴーレムが完成したのだと!?」

「あ、はい、陛下」

「見せて欲しい!」

国王の隣にいた壮年の男がアドリアナに詰め寄った。

「は、はい」

その剣幕に仰け反るアドリアナ。

「こちらは王太子殿下です。現在丞相をしてらっしゃいます」

セインが教えてくれた。

この国で丞相というと、現代日本の総理大臣に当たるであろうか。

そして他の2名は護衛だそうだ。

「おおお、これか!」

立っているゴーレムを見て、皆一様に驚きを見せる。

「では、ちょっと動かしてみましょう。……M−005、歩きなさい」

「ハイ」

「お、お、しゃ、喋った!?」

そして歩き出すM−005。

「おお、歩いたぞ!」

「ううむ、滑らかな動きではないですか」

「中に人が入っているのではないでしょうな?」

「M−005、戻って来なさい」

「ハイ」

Uターンして戻ってくるM−005。

「すごいものですな」

彼等の驚きはそれだけでは終わらない。

「M−005、そこの机を持ち上げてみせて」

「ハイ」

「な、なんだと!?」

50キロ以上はありそうな作業机を、片手で軽々と持ち上げてみせる様子に、驚く一同。

そして更に。

「M−005、ちょっと掃除をお願い」

アドリアナが箒を手渡すと、M−005は工房の床を掃き始めた。

「な、な、何と!!」

こんなことまでできるのか、と、一同驚き呆れるばかり。

「はい、そこまででいいわ。『 停止せよ(ビホールト) 』」

M−005は停止した。

「と、こんな感じです」

アドリアナは停止したM−005の胸部外装を開いてみせる。そこには 制御核(コントロールコア) 他、いくつかの 魔導装置(マギデバイス) が見えていた。

「正真正銘、私が作ったゴーレムです」

先程の『中に人が入っているのではないか』との発言に答えたわけだ。

「い、いや、わ、わかった。見事なものだ」

「ううむ……こんな素晴らしい技術者を迎えられたことは我が国にとって幸運でしたな」

アドリアナ・バルボラ・ツェツィの意図したとおり、この一件以降彼女はガランディア王国でその名を知られていくことになるのだった。