作品タイトル不明
35-17 おこわ
「これが 制御核(コントロールコア) のコピーか。礼子、ありがとう」
仁は、早速解析することにした。
「老君、頼むぞ」
『はい、 御主人様(マイロード) 。お任せください』
老君はさっそくその 制御核(コントロールコア) に蓄えられている情報の解析に取りかかった。
が。
『 御主人様(マイロード) 、終わりました』
「え? 早いな」
『はい。ほとんど得るものはありませんでしたから』
「何?」
『この 制御核(コントロールコア) には、『ヘレンテ』や『オノゴロ島』などの情報は一切記録されておりません』
「何だって……」
脱力する仁。
老君の説明によると、そうした情報は一切なく、ただ国々の文化や技術力・戦力などを調べることが目的だろうという。
『最低限の自律性はありますが、行動については操作者が命令を出していたようです』
『 分身人形(ドッペル) 』に近い、遠隔操縦型らしい。
「ううむ……」
万一こうして捕らえられても、黒幕の情報は分からないというシステム。
「なかなか慎重だな」
『はい。そして、向こうはこの 自動人形(オートマタ) が停止したこと、あるいは情報を送ってこなくなったことを勘付いております』
「だろうな」
次にどんな手を打ってくるか、それはわからない。
「 第5列(クインタ) による警戒を強めてくれ」
『はい。『ウォッチャー』も監視を続けます』
「頼む」
情報については期待外れであった。
仁は再度 分身人形(ドッペル) の制御をすることにしたのであった。
* * *
シオンとマリッカは、カイナ村での生活を楽しんでいた。
麦類の収穫は終わっていたので、ちょうど農閑期に入ったこともあって、ハンナをはじめとする子供たちと木の実集めを楽しんでいた。
もちろん、ゴンが引率に付いているので危険はほとんどない。
それに、仁が作った『ゴーレム猫』も村の周囲で目を光らせている。
「これがケメリアの実で、こっちがマルオンよ」
「ふうん、面白い実ね」
お転婆ジェシーが2人に説明している。
「ケメリアは油を採るの。マルオンは食べるの。美味しいのよ」
「楽しみね」
ラリオ村出身の少女、リタとルルナも参加している。
一番の目的はマルオンの実。
昨夜風が吹いたのでマルオンの実が落ちただろうと判断し、大勢でやって来たのだ。
「ほら、あった」
ハンナが指を差す。
「え、ええ!?」
シオンが慌てた声を出した。それもそのはず、鋭い棘が生えたそれは、とても食べられるように見えなかったのだ。
それ以前に手で掴めるとも思えない。
「だから、これ」
ハンナは、ゴンが背負った籠に入れられている『火ばさみ』という道具を取り出した。
『火ばさみ』。火鋏とも書いて、焚き火の時に消し炭や小さな薪を摘む道具である。
ゴミ拾いにも使うところから『ゴミばさみ』と言ったり、『金ばさみ』と言う場合もある。
それを用いてハンナはマルオンの『 毬(いが) 』を拾った。
マルオンは言わば『栗』であり、毬の中に入っている。熟すと毬が開いて中のマルオン(=栗)が落ちるのだが、強風の後などは毬ごと落ちることが多く、そういう実の方が虫食いが少なくていいのだ。
「中身はゴンが剥いてくれるからね」
ゴーレムであるゴンなら、栗の毬を指に刺すことはない。
「中身だけの方はそれぞれの袋に入れてね」
こちらは虫が付いていることがあるので、持ち帰ったらすぐに茹でてしまうことになっているのだ。
「 毬(いが) はゴンのところへ持って行ってね」
「わかったわ」
魔族領には山の幸もなくはないが、乏しかったため、こうした楽しい行事としてシオンは参加したことがなかった。
「ありましたー」
それはマリッカも同じで、2人はこの日を楽しく過ごしたのである。
そして。
「よーし、みんな。マルオン(栗)ご飯を炊いてやるからな」
ここは二堂城前広場。
大量に採れたマルオンを使って、仁は『栗おこわ』を作ろうとしていた。
もち米とうるち米を適度に混ぜる。仁の場合はもち米7にうるち米3。
栗は渋皮まで綺麗に剥いたものを使う。これはゴーレムメイドがやってくれたが、
「先の部分にちょっと包丁を入れてからさっと茹でて、竈でちょっと 炙(あぶ) ってやると剥きやすくなるんだよ」
と、マーサも独自のコツを披露してくれた。
適量の塩と煮酒一さじを入れ、栗を米の上に載せて炊けば『栗おこわ』の出来上がりだ。
「さあ、できたぞ」
「わーい!」
仁は、カイナ村の子供たち全員に『栗おこわ』を振る舞っていた。
「ねえジン、参加しなかった子供たちにも食べさせてあげていいの?」
シオンは不思議そうだ。
「嫌か?」
シオンは首を振った。
「ううん、逆よ。むしろ嬉しい。でも、普通は採ってきた人たちだけで食べるんじゃないの?」
自分が聞いた人間の町ではそうだ、と言う。
「ああ、そういう町や村もあるだろうな。いや、多いかもしれない。でも、このカイナ村ではこれが当たり前なんだ」
「そうなの?」
「そうさ。みんな、自分ができることをやって、村に貢献している。収穫はみんなで分け合い、苦労はみんなで乗り越える」
「ふうん。……あたしたちと似てるわね」
人口の少ない魔族も同じような連帯感がある。シオンは改めてカイナ村に親近感を覚えた。
「ジン兄、お吸い物できた。味見して」
「お、ありがとう」
おこわといえば吸い物、と仁は思っている。
今回の吸い物はマツタケもどき。カイナ村でたまに採れる、香りのいいキノコである。
醤油と昆布、それに鰹節で出汁を取り、隠し味に煮酒をちょっぴり。
「うん、いい味だ」
おこわにも薄く塩味が付いているので薄味だ。同時に、マツタケもどきの香りを損なっていない。
「よーし、みんな、食べよう」
「はーい!」
「おなかすいたー」
「あ、いい匂い」
風避けの結界があるので風は感じず、『 光の玉(ライトボール) 』のおかげで十分明るい。
「おいしいわ、ジン」
「ジン様、おいひいれふ」
「はは、それはよかった。だけどマリッカ、食べながら喋っちゃ駄目だろう」
秋たけなわのカイナ村。暗くなった東の空には 月(ユニー) がいつもと変わらない姿を見せていた。