軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35-14 謎の旅人

魔族領を発った『コンロン3』は、まずカイナ村を目指した。

道中、シオンとマリッカは眺めに夢中だ。

シオンはかつて飛行船に乗ったことがあったが、何度乗っても空からの眺めは格別らしい。

そして。

「ふわああ、す、すごいです! あ、あれが大地峡でしゅね!」

床窓に這いつくばるようにして、マリッカは下界を眺め続けていた。

二堂城前広場に着陸する『コンロン3』。

そこには、ハンナがやって来ていた。近付いてくる『コンロン3』をいち早く見つけて駆けつけてきたのである。

「おにーちゃん、いらっしゃい! お客さま?」

「あ、ええと……ハンナちゃん、だっけ?」

シオンは、魔族領の食糧危機を助けてもらおうとやって来た際、カイナ村で保護されたのでハンナの顔を見知っていた。

「あ、シオンさんだ! いらっしゃい!」

一方、マリッカは、サキの陰に隠れて一番最後に降りてくる。

「ヴィヴィアンおねーちゃん、グースおにーちゃん、エルザおねーちゃん、いらっしゃい! サキおねーちゃん……あれ? もう一人?」

「ああ、駄目じゃない、マリッカ。ちゃんと挨拶しないと」

「え、ええと、マ、マリッカです。ジン様の……」

「外弟子、といったところかな」

「ふうん、そうなの? あたし、ハンナ。ようこそ、マリッカさん!」

物怖じしないハンナと、人見知りのマリッカ。意外といい取り合わせなのかもしれない、と仁は思った。

仁がシオンとマリッカを一旦ここに連れてきたのにはわけがある。

いずれ魔族とこちらの国々を融和させたいと思っているので、まずは平和なカイナ村を紹介してみようと思っていたのだ。

カイナ村が特殊すぎることは自覚していない仁である。

「ジン、ボクらは一旦帰るよ」

二堂城で一服したあと、サキとグース、ヴィヴィアンは戻ると言いだした。

「魔族領で聞いた話をまとめておきたいからな」

「うーん、そうか。それじゃあ、またあとで」

「うん、またあとで」

転移門(ワープゲート) があるので『またあとで』などと言えるのだ。

もう『仁ファミリー』の面々はそうしたことに慣れていた。

「じゃあ、村を案内しようか」

「うん、お願い、ジン」

「行こ、マリッカちゃん」

「え、あ、はい」

ハンナはマリッカの手を引いてカイナ村への道を行く。

背はマリッカの方が少し大きいが、年齢は50歳と言うことでこっちの人間に換算して10歳。ハンナとお似合いなのである。

「なんか楽しそうね、ハンナちゃん」

後から仁たちと共に歩きながら、シオンは珍しいものを見るような顔をしている。

「ハンナはいい子だよ。この村もいい村さ」

「ほんとね」

以前滞在したときは二堂城にいたので、あまり村の生活を見ていないシオンだった。

* * *

「ふむ、素材は炭素鋼。しかし、質が悪いな。リンとイオウが多すぎる」

謎の旅人は、通りかかった武器屋に入り、陳列されている剣を眺めていた。

「……旦那、こっちの剣はいかがで?」

その呟きに、少し気を悪くしながらも、店主は別の剣を勧める。

「うん? これか。……ふむ、少しはましだな。だが、金属組織の微細化が足りないな」

一目見て駄目出しをする旅人。

そんなことが数回続くと、さすがに店主も黙っていられなくなった。

「ええい、買う気もないくせにいちゃもんばかり付けやがって! 出ていってくれ!!」

だが旅人は平然と、

「言われなくても出ていく。もう見るものはない」

と言い放ち、足早に店を出て行ったのである。

「……なんだってんだ、まったく」

鼻息荒く、店主は旅人の背中に向かって悪態を吐いた。

ここはショウロ皇国首都、ロイザート。

驚いたことに、謎の旅人は一晩中歩き続けて、100キロ以上の道のりを一睡もせず、休憩すら取らずに踏破し、ロイザートに辿り着いていたのである。

そして、ロイザートの町を見物していた。

「前の町よりも多少文化は進んでいるようですが、誤差範囲ですね。首都ならこのくらい当たり前でしょう」

誰にも聞こえないような声で独り言を言いつつ歩く旅人。

「ゴーレムなどはどこへ行ったら見られるんでしょうね?」

答えはない。

旅人はゆっくりと歩いて行く。商人街を抜け、向かう先は貴族街、彼の前にあるのは警備兵の詰め所。

「ふむ、戦闘職の人間ですか。実力を見ておくのも悪くないですね」

謎の旅人は歩みを止めない。詰め所にいた警備兵が顔を出した。

「何か用か?」

ロイザートの警備兵は、現代日本の警官のようなものだ。

貴族街と商人街の境に詰め所があるといっても、別に番人というわけではない。

一般人でも誰何されずに貴族街へ行くことはできるのだ。

だが、例外もある。明らかに怪しい場合だ。

そして謎の旅人は怪しすぎた。誰何されても歩みを止めず、返事もせず、ただ『真っ直ぐ詰め所を目指して』歩いて行くだけ。

「と、止まれ!」

だが謎の旅人は止まらない。

「止まれと言っている!」

「どうした?」

警備兵の大声に、詰め所奥から別の兵士が顔を見せた。そして驚く。

無表情で歩み寄る男。はっきり言って不気味である。

「いくら言っても止まらないんだ!」

そんな説明が不要なくらい、謎の旅人は詰め所手前まで歩いてきていた。

「やむを得ない」

警備兵は剣を抜いた。

「それ以上近付けば斬る!」

だが旅人の歩みは止まらない。

「くっ!」

警備兵は、歩み来る旅人の脚を狙って斬り付けた。……はずだった。

「え?」

天地が逆さに見えた。警備兵は投げ飛ばされたのである。

そして背中から地面に落ちる。

「ぐはっ!」

肺の中の空気を全部吐き出し、警備兵は気を失った。

「こいつ! 何をする!」

もう一人の兵士も剣を抜き、今度は手加減抜きで斬りかかった。

だが。

「なん……だと……?」

謎の旅人は、その剣を素手で受け止めていたのである。

「ぐああああ!」

そしてそのまま 捩(ねじ) る。

兵士の腕が折れた。

「弱すぎる。これで警備の役に立つのか?」

答える者はいなかった。