作品タイトル不明
33-30 発見、そして
「上々だ。この部屋は間違いなく使われていないな」
部屋の中を見回し、ランスは第一段階の成功を確信する。
だが、問題はこれからだ。
耳を澄ましても、物音は聞こえない。
「やはり地下か」
地上部は、何かあった場合に人目につくので、地下に主要な部屋を設けているのであろう。
地下に続く階段にそっと近寄るランス。ここでも耳を澄ますが、やはり物音は聞こえない。
「(油断して寝入っているのか、それとも人員不足か)」
いずれにしても行くしかない、と、ランスは階段に足を踏み出した。
音を立てないよう降りていく。
地下1階。人の気配なし。
地下2階。人の気配なし。
そして、地下3階。
「(……呼吸音が聞こえる。1人……2人……3人か。……おや?)」
フロアに通じる廊下へと進んだランスの目の前に、 警邏(けいら) 中のゴーレムが現れた。ずんぐりした人間型だ。
「(あれは旧式なゴーレムだな……単一の目的しか遂行できないタイプだ)」
今回はそれがかえって都合がいい。見回りの時間には一定の間隔があるはずと、物陰に隠れて様子を窺うランス。
人間とは比べものにならない忍耐強さを以て、見回りの間隔を計る。
「(15分間隔で回ってくるのだな)」
それがわかれば、すぐに実行。ゴーレムが見えなくなると、ランスは足音を忍ばせて歩き出した。
「(呼吸音はこの部屋からだ。……寝室、か)」
2人分の寝息が聞こえる。
「(あと1人は……こっちの部屋か)」
そこも寝室のようだった。
「(ロンダーは……1人部屋の方だろうか)」
まだロンダーの末路を知らないランスは、そんな想像をした。
「(とにかく、まずは回収が先だ)」
通路を更に奥へ。そこには研究室があった。
「(物音……? 誰か起きているのか? しかし、呼吸音はしないが)」
扉の影に隠れ、そっと中を覗き込むと、 自動人形(オートマタ) が1体、何やら作業を行っている後ろ姿が見えた。
「(あれは…… 転移門(ワープゲート) の部品? 自動人形(オートマタ) がそれを扱えるのか?)」
目指す目的に辿り着いたものの、どうすべきかしばし考えるランス。
「(あの 自動人形(オートマタ) も、盗まれた部材で作られたものに間違いはない。とすると、停止させて持ち帰るのがベストだが……無力化できるだろうか?)」
ランスの戦闘能力は高いが、戦闘用ゴーレムを圧倒できるほどではない。それは、前回の戦闘ではっきりしている。
まして、作業中の 自動人形(オートマタ) 1体だけとは限らない。
待機中のゴーレムからは心音も呼吸音も聞こえないからだ。
「(とはいえ、躊躇していると警邏ゴーレムが回って来てしまうかもしれん)」
ランスは思い切って部屋に踏み込んだ。
「何だ? ……お前は……?」
自動人形(オートマタ) がランスを見て、驚いたような声を発した。
「ロン……ダー……?」
自動人形(オートマタ) の顔は、ランスの記憶にあるロンダーのものだったのだ。
「私の名前を知っている? お前は……そうか、ギルダーのところから来たのだな?」
ギルダーというのはランスの 製作主(クリエイター) で、ギムナスの父親の名前である。
「それを知っているお前は……やはりロンダーなのか? それとも、ロンダーの知識を持つだけの 自動人形(オートマタ) なのか?」
その問いに 自動人形(オートマタ) は寂しげな笑いを漏らした。
「その問いに対する的確な答えは持ち合わせていないな」
「どういうことだ?」
ランスの問いに、ロンダー= 自動人形(オートマタ) は苦笑まじりの顔で答え始めた。
「確かに私にはロンダーの知識がある。自分がロンダーだとも思っている。だが、同時に自分が 自動人形(オートマタ) だということも知っているのだ」
「……それで?」
「私は……何者なのだろうな?」
「やはりそうなったか。……人間の意識の転写はまだ不完全で、研究中だったのに」
「私……ロンダーには時間がなかったからな」
「ともかく、盗み出したものを返してもらおう」
「それこそ聞き入れるわけにはいかないな」
ロンダーの雰囲気が変わる。
「私は……ロンダーは、この身体を得て不老になったのだ。それを手放すわけにはいかない。どうしてもというなら力ずくでやってみろ」
「そうしろというなら、仕方ない」
ランスはいきなり踏み込むと、ロンダー= 自動人形(オートマタ) の顎目掛け、拳を突き出した。
だが。
「遅いな」
ロンダー= 自動人形(オートマタ) は余裕を持ってそれを避けた。
「なにっ!」
「……この身体は素晴らしいな。ギルダーの 自動人形(オートマタ) よりも性能がいい」
2割ほどではあるが、ロンダー= 自動人形(オートマタ) の方が素早いようだ。
故に、ランスの攻撃は全て避けられている。
蹴り、拳、体当たり。全く当たらない。
「ふふふ、やはりお前は『指導用』なのだな。身体を、いや能力を使いこなせていないようだ」
それは事実である。ランスの 基礎制御魔導式(コントロールシステム) は戦闘用ではなく、知識を守り伝えていくことを第一目的に作られているのだから。
身体は警備用であるのに、 基礎制御魔導式(コントロールシステム) に戦闘シーケンスがないため、能力を使いこなせないのだ。
そして、それを一番よく知っているのはランスである。
「わからんな。なぜ1体で来た? 施設にはまだまだ 自動人形(オートマタ) もゴーレムも残っているだろうに」
「それは……それを貴様に教える必要はない!」
空振りを繰り返すランスの攻撃。ロンダー= 自動人形(オートマタ) は防戦に徹し、回避のみを行っている。
「ふうむ、わかったぞ。起動できる者がいないのだな?」
「貴様のせいだ!」
そう、地下施設の 自動人形(オートマタ) ・ゴーレムを起動するには、それなりの魔法工学を修める必要がある。
だが、唯一の生き残り、ギムナスはまだ15歳。『 製作主(クリエイター) 』になるには力不足であった。
自分の意志を持って自由に動けるのはランスだけ。それ故、前回も、そして今回も、ランスが外に出ているのである。
「ふふふ、そうか。それなら安心だ。貴様にはバックアップがないのだな!」
これは、ランスが一番知られたくない事実であった。
『施設』の高度な技術を知っているロンダーだけに、ランス以外にもゴーレムが派遣されてきているかもしれないと思っていたのだ。
「ならば、遠慮はなしだ。この身体の性能、心ゆくまで試させて貰おう」
「ぬあっ!?」
ロンダー= 自動人形(オートマタ) は一転、攻撃に転じた。
「ぐ……くう」
今度はランスが防戦一方になる。
「はははは、この身体は素晴らしい! 人間には到達できない境地が今!」
攻撃をギリギリで 躱(かわ) しながら、ランスはロンダー= 自動人形(オートマタ) を分析していた。
その身体は、『施設』の方式ではない。おそらく、施設以外の技術、つまり 統一党(ユニファイラー) の技術との 混成(ハイブリッド) なのだろう。
「だからか……強い」
ロンダー= 自動人形(オートマタ) はランスの攻撃を『 躱(かわ) して』いたが、ランスはロンダー= 自動人形(オートマタ) の攻撃を躱しきれなくなってきていた。
「まだまだ!」
更に上がる攻撃速度。
腕、脚、背を使い、攻撃を受け止め、捌くランス。
「このままでは……まずい」
ランスは、切り札を切ることにした。
「『 風の一撃(ウインドブロウ) 』!」
「ぐおっ!?」
風の塊がロンダー= 自動人形(オートマタ) を吹き飛ばし、2体は距離をとる。
「ふふ、そんな魔法も使えたのだな」
ロンダー= 自動人形(オートマタ) がにやりと笑う。
「では、こちらも。『 嵐の乱打(ストームラッシュ) 』!」
「うわっ!?」
ランスが放ったものより威力のある魔法で返すロンダー= 自動人形(オートマタ) 。
どうやら、己の身体能力を楽しんでいるらしい。
吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたランス。
「まずいな……やはり、勝てない、か……」
その時。
「手を貸しましょうか?」
ランスのすぐそばで声がしたのであった。