軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33-29 砦跡

「ロンダー?」

研究室の中にはベッドがあり、そこにはロンダーが横たわっていた。

顔色は白く、生気が感じられない。

足早に駆け寄ったエレナは、ロンダーがもう息をしていないことを確認した。

「他に生存者はいないか確認しなさい」

戦闘用ゴーレムにも指示を出すエレナ。

そして30分。

《エレナ様、他に人間はおりません》

万能ゴーレムが代表して報告した。

「そう。ロンダーはおそらく1週間以上前に亡くなっています。一体何があったのかしらね」

「他の研究員はどうしたのでしょうか」

「逃げた……のかもね」

研究室の中を見回してエレナは答えた。

「主要設備がずいぶんなくなっているわ」

施設を維持するためのゴーレムすら見あたらない。

《誰かが運び出したのかもしれないですね》

「そうですわね。問題はそれが何者か、ということです」

エレナは研究室内の調査をしつつ、手掛かりを探していた。

「……見あたらないようですね。……そうしますと、まずはロンダーの遺体をどうするか、考えなくてはなりませんわね」

まだ腐敗はしていないようだが、時間の問題だろうと思われた。

「運び出して、どこかに葬ってあげましょう」

エレナは戦闘用ゴーレムに命じ、ロンダーを運び出させた。

その時、ロンダーの懐から、手帳がぽとりと床に落下した。それをエレナは拾い上げてみる。

「何か書いてありますね……」

かなりたどたどしい文字で何やら書かれている。

「どうやら、ロンダーが書き残したものらしいですわね。ええと……」

ところどころ文字が滲んだりかすれたりしているが、なんとか解読できそうだ。

『身体が利かなくなってきた。肉体を捨て、 魔法人形(マギドール) の身体を得ようという試みは失敗に終わる。どうしても意識を移すことができないのだ。いや、移せたのかもしれないが、私の意識は元のまま。もしかすると私が2人できてしまったのかもしれない。だとすると、成功したと言っていいのだろうか。だったら、この私はいったい何なのだろう。わからない』

エレナは顔を 顰(しか) めた。

「これは……! 急いで戻らないといけませんわね」

エレナは、ロンダーの遺体を埋葬し、熱飛球に乗り込むと、最高速度で本部へと戻った。

「これを見てください」

帰還の挨拶もそこそこに、ジュールに手帳を差し出すエレナ。

ジュール・ロランはそれを受け取ると、目を通し、やはり顔を顰めた。そして手帳をドナルド・カローにも見せる。

「これは……!」

ドナルドもまた、顔色を変える。

「こんなことを考えていたのか……」

「そのために、我々……当時の『 統一党(ユニファイラー) 』の施設を欲したんだな」

そう言い交わすトップ2人に、エレナは告げる。

「ですが、シューリレー遺跡の様子を見るに、ロンダーは 自動人形(オートマタ) に知識を移し替え、再生したと言っていいと思われますわ」

「うむ。設備や資材が何も残っていなかったというからには、奴が持ち出したんだろうな」

「それを使って何をするつもりなのか……」

そしてまたもエレナが、推測を述べる。

「盗賊団の首領が、仮にロンダーだったとしたら、資金を集めるために盗賊行為を行っていた、といったところでしょうね」

「うむ……」

「由々しき問題だが、居場所が完全にわからなくなってしまったな」

* * *

当然この事実は、蓬莱島の頭脳、『老君』にも伝わっていた。

そして老君には、 懐古党(ノスタルギア) にはない情報もある。それを総合すると、更に一歩踏み込んだ推測ができた。

『そのロンダーという人物が、ギムナスさんの母上の弟……血の繋がらない弟になるのでしょう。彼はスホント山の地下で技術を学んだ後、 統一党(ユニファイラー) に参加し、研究を続けたということになりますね』

老君は、少ない情報から推測を組み立てていった。

『おそらくロンダーは、身体が弱かったか、何か病気を抱えていたのでしょう。それで、寿命を気にしなくてもよい身体を欲していた。それが高性能 自動人形(オートマタ) である、と』

同じようなことを、600012号、通称『ロクレ』も行っていた。

そしてやはり自我の分裂を起こしていたのである。

『今回は、オリジナルであるロンダーは亡くなっていますから、 自動人形(オートマタ) の方のロンダーをどうにかしなくてはならないのでしょうね』

そして、その居場所については、『ランス』が知っている節がある。

『当面は、お手並み拝見といきましょうか』

いつでも出撃できるように準備を整えた上で、老君は事態が動き出すのを待つことにしたのである。

* * *

『自分でやる、助けはいらない』と言ったランスは、ショウロ皇国とフランツ王国の国境にあるミジモ湖から流れ出るカサカ川の畔に立っていた。

「あと少しだな」

目指すのは北。そこに、ランスの記憶によれば、名も無き砦跡がある。

「 転移門(ワープゲート) の反応はそこにある」

ランスは、盗み出された 転移門(ワープゲート) の部品から漏れ出る魔力を追い、場所をほぼ特定していたのだ。

仁が開発した『 魔力探知装置(マギディテクター) 』の下位互換、といえばいいだろう。

転移門(ワープゲート) からは、対になる 転移門(ワープゲート) とを結ぶ魔力が伸びており、その余波を検知できるような 魔導機(マギマシン) 。

おおよその方角しかわからないのだが、魔力の強度と、移動しながらの測定、そして砦跡という条件を重ね合わせ、場所の特定に成功していたのである。

ある意味、間抜けな話だが、盗み出された 転移門(ワープゲート) の部品は、一対でなければ意味がないのに、片方だけであったのだ。

そのためランスは、 転移門(ワープゲート) の部品がある場所を特定できたのである。

「おそらくそこにロンダーがいるに違いない」

ランスは、既にロンダーがこの世にいないことは知らない。

見つからぬよう、岩陰から岩陰を伝い、砦跡へ近付いていく。

「ふむ、手が加えられているな。間違いなくいるに違いない」

遠目に見える砦跡。蔦や 葛(かずら) が外壁に絡まりついてはいるが、窓の部分は綺麗に刈り取られている。

「外を見張るためだろうな」

人間ぽく独りごちて、ランスはどうやって潜入するか考えた。

「油断を突く、それしかないな」

この砦跡に居を構えていることを知っているのは当の賊たちだけだろう。それが油断に繋がる、とランスは考えた。

「見張りは置いているだろうが、夜なら」

先の捕り物で捕らえた賊の中には、ロンダーはいなかった。

賊を指揮していたのはロンダーの助手をしていた男であることをランスは知っていた。

『ランス』になる前の 自動人形(オートマタ) から引き継いだ知識である。

「人数も減っただろうから、手が回りきらない面もあるだろうしな」

そして、夜を待つランスであった。

午後8時、完全に日が暮れた。

午後11時、夜が更け、ランスは動き始める。

夜目の利くゴーレムが見張りをしている可能性を考慮し、岩から岩へ、素早く移動。身には、用意してきた黒い布を纏っている。

そうやって、何ごともなく砦の外壁に取り付いた。

「さて、どこから侵入するか」

砦跡、という体面を保つため、幾つかの窓は手付かずになっている。そういう窓のある部屋はおそらく放置されているだろうと当たりを付け、ランスは蔦を手掛かりに登り始めた。

夜目の利くランスなので、苦もなく登っているが、人間だったらまず不可能な行動である。

5分ほどで、地上から5メートルほどの高さにある窓に辿り着いた。

耳を澄ましても物音はしない。そっと覗き込むと、埃や落ち葉が積もった床が見えた。

「よし、この部屋から潜入しよう」

ランスは窓を乗り越え、砦跡に入ったのである。