軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-11 依頼

「ようこそ、ジン殿」

クズマ伯爵自ら玄関ホールまで出迎えに出て来た。まあ、ラインハルトやエルザも一緒だからかもしれないが。

「君とはゆっくり話してみたかったよ」

そう言いながら握手を交わす。

「ガラナ伯爵との事なら心配はいらん。あの私兵団は不当に庶民を襲っていた罪で解雇された。私兵長は投獄されている」

仁がブルーランドを離れる原因となったガラナ伯爵私兵団とのいざこざ、それについてはクズマ伯爵が手を打ってくれていたらしい。

元々いろいろと問題のあった私兵団、その罪をあげつらうのに苦労はなかったようだ。

そして伯爵はラインハルトに向かって、

「ラインハルト、ジン殿の拠点は楽しかったかな? 私も公務さえなければ行ってみたかったよ」

心底羨ましそうな顔でクズマ伯爵はそう言った。そしてビーナに向かって、

「ビーナ、君の弟妹が心配していたぞ。早く行ってやれ」

「あ、そ、そうですか! それではこれで失礼します。ジン、また後でね!」

そう言ってビーナは中庭へと走っていってしまった。

「まあ、中へ入ってくれたまえ」

クズマ伯爵は先に立って案内していくが、途中から仁達の案内役はセバンスに替わり、伯爵はラインハルトとエルザと共に別室へ。

「こちらでおくつろぎ下さい」

仁と礼子は、伯爵邸の2階にある1室をあてがわれた。なかなか豪華な部屋だ。クズマ伯爵は礼子が人間でないことを知っているので、2室用意することはしなかった。

「窓から中庭が見えるな。なかなか綺麗な庭じゃないか」

そう言って庭を見渡す仁。礼子は荷物を片付けている。

そうして仁が寛いだ頃、侍女が呼びに来た。伯爵が話をしたがっているそうだ。

断る理由もないので、仁は礼子と共に侍女の案内で応接間へと向かった。

応接間は同じ2階の中央にあり、広いバルコニーを持っている。

伯爵達はそのバルコニーにある丸いテーブルの周りに座り、早い春の日射しを浴びてのんびりとお茶をしていた。

「ジン様をお連れしました」

仁を案内してきた侍女はそう言って下がる。

「やあジン、ここは日射しが暖かいぞ」

そう言ってラインハルトが手招きした。仁はその丸いテーブルの、ちょうどラインハルトとエルザの間に座った。というか座らされた。

礼子はその仁の斜め後ろに黙って立つ。

「ルイス……ああ、ルイスというのはクズマ伯爵の名前なんだ、ジン」

そう言ってラインハルトは、エゲレア王国貴族の名前の構成を説明する。

「名前・雅号・家名・爵位(称号)となるんだ。伯爵は、ルイス・ウルツ・クズマ伯爵が正式名というわけさ」

そしていよいよ本題に。

「で、ルイス、さっきの話をジンにも聞かせてやってくれないか」

そういわれたルイス、クズマ伯爵は仁を見ながら、

「我がエゲレア王国国王様には、アーネスト様という王子様がいらっしゃる。この方は第3王子なのだが、ゴーレムやオートマタがお好きでな」

そしてちらと礼子の方に目をやって、

「10日後のアーネスト様誕生会に合わせて、『ゴーレム 園遊会(パーティー) 』が開かれることになったのだよ」

「ゴーレム 園遊会(パーティー) ?」

思わず仁も聞き返す。

クズマ伯爵の説明によれば、人口が少ないことによる慢性的な人手不足を補うため各国ではゴーレムを使役することが流行りであり、このエゲレア王国も例外ではない。

また、アーネスト第3王子はゴーレムがお好きで、彼の護衛の3分の1はゴーレム兵だそうだ。

そう言う背景から、今年のアーネスト第3王子誕生会にゴーレム 園遊会(パーティー) を行い、国の内外から優秀なゴーレムや 魔法工作士(マギクラフトマン) を招くことにしたのだという。

ゴーレムの有効活用を各国模索しているというわけだ。

「ラインハルトと彼の『 黒騎士(シュバルツリッター) 』にも招待状が届いたのだよ」

黒騎士(シュバルツリッター) はかなり有名らしい。ラインハルトは少し渋い顔をして、

「僕の『 黒騎士(シュバルツリッター) 』が認められたのは嬉しいが、今、故障中なのが残念だ」

「何、そんなこと。資材なら出来るだけのものを用意するから、直してしまえ」

そう言われたラインハルトは仁を見て、

「と、いうわけさ。面白そうだとは思わないか?」

と水を向けてきた。もとより仁は話を聞いた時から興味を持っていたから、

「ああ、面白そうだな。見てみたいよ」

と軽く答える。それを聞いたクズマ伯爵は、

「そうか、そう言ってくれると私としても頼みやすい」

「え?」

実は、とクズマ伯爵が言うには、王国の子爵以上の貴族は1人につき1体以上のゴーレムを持ってくる事になったのだそうだ。

「それで、出来ればジン殿にそのゴーレム製作をお願いしたいのだ。資材などは出来る限りの事をしよう。頼めないかな?」

伯爵は最後に、ビーナにはまだゴーレム作製は無理なのだ、と残念そうに付け加えた。

そう言われた仁に断る選択はない。

蓬莱島にある最高の素材ではなく、普通の材料でどこまで高度なゴーレムを作れるか、というのも面白そうである。

「お世話になる事ですし、お引き受けしましょう」

そう答えたのである。

「おお、そうか。感謝する。報酬はどうすればいい?」

「そうですね、出来上がったゴーレムを見て伯爵が決めて下さい」

「ふむ、自信たっぷりだな。これは楽しみだ」

ラインハルトはそんな伯爵と仁のやり取りを、面白そうな、それでいて少し心配そうな顔で見ていた。

「ゴーレムと言えばだな、」

クズマ伯爵は話題を少し変えた。

「エリアス王国から昨日の午後に入ったばかりの情報なんだが、あれはどうもセルロア王国のものらしい」

峠を越えた後、賊が使役していたゴーレムのことだ。

「何!?」

セルロア王国はこの後、ラインハルト一行がショウロ皇国に帰るためにどうしても通らなくてはならない国である。

「いや、まあ、材料の一部に、セルロア王国で採れる 魔結晶(マギクリスタル) が使われていたということだからな、セルロア王国そのものが作っているとは限らんが」

ラインハルトの不安を払拭するように伯爵が付け加えた。

「それと、君達が襲われたあのゴーレム」

こちらは『 黒騎士(シュバルツリッター) 』がやられたゴーレムのことだ。

「あれに使われていたエルラドライトはレナード王国産のものだった。まあ、エルラドライトの8割はかの国で採れているから当然かもしれんがな」

「うーむ、セルロア王国とレナード王国が何らかの形で繋がっているとも考えられるのだがな」

ラインハルトはいつものテンションではなく、生真面目モードで考え込んだ。

「元々セルロア王国は、自分達こそがかのディナール王国を継ぐもの、という矜恃を持っているからな」

更にラインハルトは、セルロア王国は150年ほど前に、ショウロ皇国とエゲレア王国との間にあった小群国の一つ『フレネル公国』を併呑したりと、拡大に意欲を燃やしている国でもあると言った。

「まあ、証拠は何も無いし、我々のような個人をどうとかする筈もないがね」

そう言ったラインハルトはいつもの顔に戻った。

それからは歓談となる。

「そうか、エルザ嬢も参加されたのか」

話題はポトロックでのゴーレム艇競技。参加した操船者が皆女性で、水着姿だったと聞いたクズマ伯爵が、

「ははは、エルザ嬢の水着姿を間近で見られた奴らが羨ましいな」

などと言ったのでエルザがちょっと赤くなったり。

仁が操船者であるマルシアそっくりのゴーレムで参加したと聞くと、

「ふうむ、ならば今回作ってもらうのも女性型にしてもらうとしよう。モデルは……そうだな、ビーナなんてどうかな?」

等と言ったり。

どこまで本気かわからないので、仁は適当に相槌を打っていた。

当の仁は、どちらも胸が無いので面白く無さそうだとかちらと考えていたりする。

「ジン君、何か失礼なこと考えてない?」

女の勘か、エルザがそんな仁を睨み付けてきた。

女の勘と言うよりもちらりとエルザの胸に向いた視線に気が付いたのかも知れないが。

「さて、そろそろ昼時かな」

昼食の時間まで歓談は続き、太陽が昼を告げる頃、彼等は食堂へと移動。

昼食の後、仁はゴーレムの設計、ラインハルトは 黒騎士(シュバルツリッター) の修理を開始する。

場所はもちろんビーナの工房である。

「あ、ジン、ラインハルト様、いらっしゃい。ゴーレムの話は伯爵様から聞いてます」

「ジンおにーちゃん!」

「ジンにーちゃん!」

ビーナと弟妹が出迎えてくれた。ナナとラルドは見違えるほど血色も肉付きも良くなっていた。

「やあ、2人とも元気そうだな」

「うんっ!」

「さ、2人とも、これからお仕事だから、邪魔にならないよう外に出てなさい」

「うん、じゃあお掃除に行ってくるね!」

仁と再会して喜ぶナナとラルドだったが、仁はこれから依頼をこなさなければならないので、ビーナがそう言うと2人は素直に庭掃除をしに出ていった。

仁は工房を見回して、

「へえ、ここがビーナの工房か。前より広くなったし、工具や資材も充実してるな。今は何作ってるんだ?」

「え? あのね、風を起こす魔導具」

これから春、夏と気温が上がっていくと、この辺りは暑くなる。

それで涼むために貴族は召使いに扇がせたりしているが、風を送り出す魔導具があれば庶民にも受け入れられるのではないかと考えた、と言う。

「ふうん、いいんじゃないか? で? 構想は?」

と聞くと、ビーナは得意そうに、

「出来てるわよ。風の初級魔法『 風(ブリーズ) 』を使えばいいのよ」

『 風(ブリーズ) 』はただ風を起こすだけの初級中の初級、風の入門魔法である。それだけに魔力消費も少ないのでビーナはこれを選んだ。

「うん、いいと思う」

「えへ、ジンがいなくなってからも努力したんだからね」

そう言って少し得意げなビーナを、陰からエルザが見ていたのだが誰も気付かなかったのである。