軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33-09 謎の男

明けて24日。

「昨夜は何ごともなかったようだな」

朝食の席でフリッツが言った。

「そうだな。何もなくて幸いだ」

と、返すモーリッツ。

エルザは無言のまま。

この場にいるのはエルザたち兄妹3名のみと給仕役の侍女のみだ。

ゲオルグとマルレーヌは、ゲオルグの病室で摂ることが通例だし、ミーネは厨房で料理人たちと賄い食を食べている。

彼女曰く『一番落ちつく』のだそうで、さんざん頼み込んでこうなったとのこと。

里帰り、ということで多少の我が儘も聞いてもらえているのだ。

ところで、『何もなくて』とモーリッツは言ったが、それはこの領地に限って、である。

昨夜、テオデリック侯爵領フルイドで、問題の賊と思われる盗賊団が土地の 分限(ぶげん) 者を襲い、財物を奪って逃走した事件が起きていたのである。

不幸中の幸いと言えばいいか、死亡者はいなかった。というのもその分限者はちょうど一家揃って外出中だったからである。

留守番は初老の警備員が2人のみ。犯行当時、ぐっすり眠りこけていたため見逃されたようだ。

まあこれから雇い主に処罰されるであろうが……。

閑話休題。

報告を受けた侯爵は、当然、激怒した。

「ううぬ、けしからぬ賊め!」

そして配下に賊の捕縛を命じる。

「よいか、必ずや賊を捕らえ、領民の安寧を図るのだ。よいな!」

「は、閣下」

配下の兵士、騎士たちは早速動き出した。

* * *

『盗賊団、ですか』

一方、エルザから報告を受けた蓬莱島の頭脳、老君。

『 第5列(クインタ) からの情報にも、過去2件ほどありましたね』

老君はエルザから連絡を受けるや否や、ショウロ皇国に派遣している 第5列(クインタ) 各員に指示を出し、盗賊団の手掛かりを集めさせていた。

さらに、遊撃のレグルス49、通称『ヤコブ』には、ランドル領カルツ村の警備を、同じく遊撃のデネブ22、通称ジュミにはランドル領エキシの警備を。

また、カペラ8『ハンク』にはランドル領バンネの警備を命じていた。

そしてその命じた夜、ランドル領ではなく隣のテオデリック侯爵領で盗賊団は活動したのであった。

その逃走手段は、残念ながら厚い雲のため『ウォッチャー』により観察されることはなかったのである。

『もっと低空での偵察用装備が必要かもしれませんね。後ほど 御主人様(マイロード) に相談してみましょう』

老君はそう結論づけると、 第5列(クインタ) たちに更なる警戒を命じた。

特にエルザのいるランドル家周辺は重点的に。

* * *

同じくテオデリック侯爵領、その東外れに当たるサギナの町。ここは、ランドル伯爵領と隣り合っており、人の行き来も多く、規模の割りに豊かな町である。

第5列(クインタ) の一員デネブ22、通称『ジュミ』は、ランドル領エキシから足を伸ばしてここサギナの様子を見にやって来ていた。

その外見は20代前半の村娘。ぽっちゃり気味の体型は、皮膚の下にある『 暴食海綿(グーラシュヴァム) 』層に水を含ませているからだ。

顔にもニキビとそばかすがいっぱいで、誰にも見向きもされないような容姿である。

「えー、エアベール(=イチゴ)ジャムはいかがですかー」

背中に荷を背負って行商に来た体を装い、町中を見て回るジュミ。

「あら、珍しいわね。1つちょうだい」

「はい、ありがとうございます。60トールになります」

「おや、ジャムだね。1つおくれ」

「ありがとうございます」

そうやってジャムを売りつつ町を回るその目に、気になる『存在』が映った。

(……あれは)

それは20代後半に見える男。

(歩き方に無駄がない)

重心にブレが無く、体幹が揺れていない。

(こんな歩き方ができるのは、武術の達人、あるいは……人にあらざるもの!)

そっと、ばれぬように後を付けていくジュミ。同時に、内蔵された 魔素通信機(マナカム) で老君へも報告する。

(どこまで行くのかしら)

その男は雑踏を抜けると、町外れへと向かった。次第に人影が少なくなる。

(このままでは後を付けているのがばれてしまうわね……)

ジュミは、男が角を曲がったタイミングを見計らい、『 不可視化(インビジブル) 』を作動させた。

ほぼ同時に、内蔵された 魔素通信機(マナカム) に連絡が入る。

(『増援としてランド781と782を送ります』)

その直後、ジュミの左右に『 不可視化(インビジブル) 』を掛けた2体が転送機で送られてきた。

(ありがとう。心強いわ)

そしてジュミとランド2体は姿を消したまま、謎の男の後を付けていく。

(……?)

町外れの空き地に差し掛かったとき、男が立ち止まった。

「何か用か」

まさかばれた? と思ったジュミであったが、謎の男はジュミたちとは別の方向を睨み付けていた。

ジュミは、謎の男の周囲に、別の存在を感知する。

(これは……人間? と、……ゴーレムのようね)

彼等に探知されないと思われる距離を保ち、ジュミとランド2体はまず観察することにした。

空き地は、屋敷跡なのか、広さは500坪ほどもあり、かなり広い。

「俺はテオデリック侯爵家に仕える警備隊副隊長だ。貴殿の名前と身分を教えてもらいたい」

副隊長と名乗った男は、隣に戦闘用ゴーレムを2体引きつれていた。

その2体がそっと謎の男の左右へと回り込み、退路を断つ。

背後にあるのは廃屋の壁。左右は戦闘用ゴーレムに固められている。

「ふむ、なるほど。この状況を、『自分に有利』と判断しているのだな」

「質問に答えろ!」

「慌てるな。名前や所属など単なる記号に過ぎないではないか。私が答えたとして、その真偽はどうやって判定する気なのだ?」

「 御託(ごたく) はいい! 答えないか!」

「そういきり立つな、『人間』」

謎の男は『不敵に』『笑った』。

「私の名前か。『今は』『ランス』と『呼ばれて』いる」

次の瞬間。『ランス』の姿が消えた。

人間の目には追えないほどの速度で右へ飛んだのだ。

がしゃん、という音。

体当たりを受けた戦闘用ゴーレムが倒れた音だ。

「何!」

テオデリック家警備隊副隊長の驚いたような声が響く。

続いてもう1体の戦闘用ゴーレムもひっくり返る。

そして謎の男『ランス』は、副隊長の横を掠めていずこへともなく消えたのであった。

副隊長は数秒後、気を失って崩れ落ちる。

腹部に強烈な一撃を喰らっていたようだ。

(凄い身体能力でしたね)

(ええ、我々ランド隊に迫るモノがあります)

ジュミたちはさらに距離をとり、ランスを付けていた。

(町の外……ではなく、廃屋に向かっていますね)

(そこがアジトなのかも)

ジュミたちは、ランスがその中に入っていくのを見届けると、その後について老君と相談するのであった。