作品タイトル不明
32-33 閑話66 後始末
『今回の『暴食バッタ』事件は、ある程度周知徹底した方がいいでしょうね』
蓬莱島の魔導頭脳『老君』はそう結論づけた。
急を要する案件であったため、仁は、エルザ、サキ、グースの4人でケリを付けてしまったのである。
そしてその後はいつものごとく、そのまま自分の趣味に邁進してしまっていた。
『しかし『カメラ』は使えますね』
老君は、記録用ということで自分にも数セット作ってもらうことにし、それは即叶えられたのである。
* * *
そして。
「こ、これが『暴食バッタ』の被害……」
暴食バッタの標本と、齧り痕のついた鉄棒、それに被害状況の『写真』を数セット用意した老君は、それを主要国家に仁の名前で送り付けていた。
「鉄も食ってしまうのか……」
「まさに草一本残さず食ってしまうのだな……」
その様子を見た各国首脳陣は震え上がった。と同時に、仁による殲滅に胸を撫で下ろしもしていたのである。
「確かにこれは、『世界警備隊』が必要というのもわかりますね」
ショウロ皇国では、被害を食い止めてもらったという意識が 殊(こと) の外強く、女皇帝は報告書を見て溜息を漏らしていた。
「ジン君の対応があと数日遅かったら……いいえ、それ以前に気が付いてくれたことが奇跡ね」
たまたま用事があって、ミツホの北へ行ったらしい仁。
その用事が、この添付された『写真』なる記録方法を開発するためだという。
「『写真』……まさに真実を写す、というわけね。素晴らしい魔導具だわ」
「誠ですな、陛下」
「ジン君もまだ開発途上だと言いますからね、完成したなら我が国にも売ってもらいたいものです」
「ですなあ。いろいろと使い方はありますぞ。肖像画の代わり……には、少々小さいですがな」
「そのあたりもジン君ならなんとかしそうよね」
「かもしれませんなあ」
女皇帝と宰相は、仁という稀代の技術者、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に全幅の信頼を置いていた。
* * *
「ふうむ、『暴食バッタ』か……」
セルロア王国でも、国王セザールが受け取った資料を前に、難しい顔をしていた。
執務机の端には第一内政省長官ランブローがいて、王から手渡された資料に目を通している。
「確か、150年ほど前の記録にあったはずだな」
「は、その筈です」
資料を読み終えたランブローが席を立ち、執務室に隣接する資料室へと向かった。
数分後、1冊の記録を手に戻ってくる。
「陛下、ここに書いてございますな。3310年に、北からやって来た虫の大群に、国土の4分の1が荒らされたと」
「同じものだろうか?」
「挿絵と、この写真? とを比べてみるに、同じもののようですな」
「うむ。しかし、この『写真』というものは素晴らしいな」
「真に。記録を残すにあたり、大いに役立つことでしょう」
「『崑崙君』は、完成したなら我が国にも卸してくれるそうだ。今から楽しみだな」
「御意」
「それで、話を戻すと今回の『暴食バッタ』は『崑崙君』によって退治されたそうだが、将来的には『世界警備隊』がこのような役目を担うようにしたいものだな」
「そのためには……」
* * *
「『暴食バッタ』のう。怖ろしい虫がいるものだな」
「は、陛下」
クライン王国でも。
「『暴食バッタ』とは……。記録でしか知らなかったが、実在するのだな」
「はい、この『写真』というものが真実なら、脅威ですな」
「だが『崑崙君』により退治されたというから、まずは安心だな」
エゲレア王国でも。
そしてフランツ王国、エリアス王国でも、『暴食バッタ』の脅威は現実味を持って受け入れられた。
同時に、それを仁が退治したことも。
* * *
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』が『暴食バッタ』を退治してくださった!」
「ばんざーい!」
ミツホでは、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』が『暴食バッタ』を退治したという報を受け、皆、仁の功績を讃えていたのである。
* * *
『……しかし、凄い数ですね』
退治した『暴食バッタ』を回収し、その量に、さすがの老君も呆れていた。
『 御主人様(マイロード) は『10000匹は下らないだろう』と仰ったようですが、その10000倍はいますね』
1億匹、という途轍もない数。
『これが 自由魔力素(エーテル) の恩恵だというのですか……?』
自由魔力素(エーテル) を取り込んだバッタは、急速に成熟し、繁殖する。
さらに、 自由魔力素(エーテル) さえあれば、他の魔物同様に2世代目以降は有機質を摂らずとも成長できるようなのだ。
『とんでもない生態ですね』
「ああ、俺もここまでとは思わなかった」
『暴食バッタ』の生態研究ということで、グースにも手伝ってもらっていたのだが、その結果がこれである。
「普通のバッタが、 自由魔力素(エーテル) の濃い地域で変異する。2世代目以降は 自由魔力素(エーテル) のみで増殖し、やがて他の地域を目指すようになる」
『ですね。ただ、どうして数が増えると他の地域を目指すのかが謎ですが』
老君と言えども推測できなかった問題だ。
「ああ、それについて、1つの仮説を立ててみた」
『お聞かせ下さい』
「うん。……1匹あたりの 自由魔力素(エーテル) 濃度さ」
老君はそれだけでグースの言わんとすることを察した。
『なるほど。さすがグースさんですね。……つまり、1匹あたりの 自由魔力素(エーテル) 濃度が低くなるほどに増殖した場合、『暴食バッタ』はより 自由魔力素(エーテル) 濃度の濃い地域を目指して移動する、ということですね』
「うん。付け加えると、奴らもやはり昆虫だ。寒さには弱いと見えて、 自由魔力素(エーテル) の濃い北へはいかずに南へ行くんだろうな」
『寒さを嫌い南へ。でも 自由魔力素(エーテル) は欲しい。それで真っ直ぐ南下はせず、未練がましく南東に移動しているんですね』
「まあ、それが俺の仮説だ」
『一通りの説明は付きますね』
「あとはその 自由魔力素(エーテル) 濃度が高い地点、というのを特定できればな」
『それはおそらく一時的なものなんでしょう。そうでなければ定期的に『暴食バッタ』が発生するでしょうから』
「だろうな。だから今頃探しても無駄ということだな」
グースは、老君代わりでボディガード兼運転手の『老子』に頷いて見せた。
『では、そろそろ戻りますか』
「ああ。もう空はこりごりだ」
『グースさんも慣れませんね』
「こればっかりは、な」
グースは着陸した『ペリカン4』の 転移門(ワープゲート) を使い、蓬莱島へと戻った。
誰もいなくなった荒野には、ただ風が吹いていた。