軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-18 9月15日旅行七日目 一区切り

「ああ、楽しかった!」

「楽しかったねえ」

海底遊覧から戻って来たハンナは、『江戸』の食堂で満足げに微笑んでいた。マーサもその隣で笑っている。

今は午後1時。ちょっと遅い昼食を食べているところだ。

「これで、旅行の日程は大体消化したから、戻ろうと思う」

サンドイッチを頬張りながら仁が言った。

「そうだね、旅行も今日で1週間目か……そろそろ戻る頃だね」

マーサが頷きながら言う。

「ありがとうよ、ジン。楽しい毎日だったよ」

「いえ、こちらこそ」

「おにーちゃん、ありがとう! おばあちゃんと一緒に旅行できて、とっても楽しかった!」

シトランジュースを飲み干すとハンナも仁に礼を言った。

「まだ帰りの道中があるからな」

そう言いながら、仁はふと思いつく。

「帰りは空から帰るか」

「え?」

「来た航路をまた戻るのでは芸がないから、『コンロン3』で飛んで帰ろうかと」

「いいのかい?」

「ええ、もちろん」

海ばかり見続けてきて飽きたのではないかという気づかいだったが、

「ジン、空も飛べるのかい!? 是非!」

マルシアも食い付いてきた。

ということで、食事も終わり、お茶を楽しんだ後。

「お父さま、『コンロン3』、到着しております」

仁の要請により蓬莱島を出た『コンロン3』が『江戸』の甲板上に停止していた。

『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を使い、『江戸』との相対距離を一定に保ったまま空中に停止している。

「ええと、一応みんな知っているよな?」

『コンロン3』を指さし、幾分自信なげに仁が尋ねた。

「あたしは初めてかな」

と、マルシア。

確かに、 転移門(ワープゲート) は使っていても、『コンロン3』に乗ったことはないのだった。

ここにはいないが、父親であるロドリゴは、マルシアが遭難した際に、仁が作った飛行船1号機に乗っていたりする。

「うわあ! うわあ! ほんとに空を飛んでるよ!!」

メンバー中、初めてなのはマルシアだけ。マーサでさえ、以前仁がカイナ村で遊覧飛行した際に短時間ではあるが乗っていたのだ。

それ以前に、マーサは落ち着きがあるので、マルシアほどに騒いだりはしないだろうが。

「やっぱり海って上から見ても青いんだねえ!」

窓にべったりくっついているマルシアである。

「あれ? あ……あれって、『ボウォール』かい!?」

以前、マルシアと試作三胴船がやられた魔物だ。

基本おとなしいが、浮遊物を敵視する習性がある。

「あの泳ぎ方なら陸地には影響ないかな……」

眼下を悠々と泳ぐ、体長20メートルにもなるボウォールを見送り、『コンロン3』は北へ向かって飛び続ける。

「あ、あの陸地……エリアス半島か!」

マルシアの故郷が見えてきたと思えば、見る間に近付いてくる。

「あ、イオ島が見える! ああ。ポトロックだ!」

はしゃぎっぱなしのその様子はまるで幼子のよう。

マルシアにもこんな一面があったのかと呆れるやら微笑ましく思うやらの仁たちであった。

* * *

『コンロン3』としてはゆっくり飛んで1時間、まずはカイナ村に到着。

「おにーちゃん、またねー!」

「ジン、楽しかったよ。ありがとうね」

ハンナとマーサを降ろした『コンロン3』は、再び空へ舞い上がり、蓬莱島を目指す。

今度は少しスピードを出し、ものの数分で蓬莱島に到着。

一旦研究所の食堂に行き、ペルシカジュースを飲んで、無事の帰還を祝う。

「旅行の成功を祝って」

グラスが掲げられ、ジュースを飲み干すと、皆ほっとした顔になった。

「ああ、楽しかったよ。ジン、ありがとう!」

「いや、こっちこそ、旅行に付き合ってもらえて有り難かった。楽しい毎日だったよ」

「……さて、父さんが寂しがっているだろうから、帰らないと」

マルシアは 転移門(ワープゲート) をくぐり、ポトロックへと帰っていった。

「ジン殿、いろいろとありがとう」

「ジン君、楽しかったわ。若奥様と仲良くね。それじゃあ、また」

「ジン君、いろいろ実り多かった旅だった。ありがとうね」

トアとステアリーナ、ヴィヴィアンも一言残して帰っていった。

「それじゃあ、ボクらも帰るよ」

「記録にまとめないとな!」

サキとグースも帰っていく。

「それではジン様、エルザ、2人でごゆっくり」

ミーネまでそんなことを言って、研究所を出ていってしまった。

残ったのは仁、エルザ、礼子、エドガー。

「……」

「……急に静かになった」

「ん」

楽しく騒いだあとの静けさは、なんとなく物寂しい。仁もエルザもしばらく無言でいた。が。

「……やるべきことは、やらないとな」

一言呟いた仁は、思考をリセットするかのように頭を一振りすると立ち上がった。

「ジン兄?」

「エルザはゆっくり休んでいてくれ。俺はちょっと工房に行ってくる」

それだけ言うと、仁は早足で食堂を出て行った。後に続く礼子。

「私は、夕食の仕度をしよう」

エルザも小声で呟くと立ち上がり、厨房へと向かう。エドガーが付き従っていった。

* * *

「……で、この材質は何だったんだ?」

実のところ、仁としては『アルキオネ島』で見つかった謎の物体が気に掛かっていたのである。

『はい、 御主人様(マイロード) 。……元の主成分は硫化鉛。わずかに銀を含みます』

「鉛の鉱石か……方鉛鉱かな?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。その可能性は高いと思います』

「だとするとこの重さの原因は……やはり分子圧縮に間違いないか」

なぜそのような物質があのような場所にあったか、謎である。

「考えてもわかることじゃなさそうだな」

『はい、 御主人様(マイロード) 。引き続き、『プレアデス諸島』は調査中ですが、まだめぼしい収穫はございません』

「そうか、そのまま続けてくれ」

『わかりました』