作品タイトル不明
32-11 9月12日旅行四日目 オリビンの島
『蓬莱島新婚旅行艦隊』は『エレクトラ島』をあとに、『アトラス島』へと向かった。
順番で言えば『タイゲタ島』なのだが、そちらは小さな島で植生も乏しいことと、今回は新婚旅行であって調査行ではないので割愛したのである。
『タイゲタ島』の方は、別枠でマリン隊やランド隊が調査することになるだろう。
「『アトラス島』も大きいんだなあ!」
島影を目にしたグースは、早く行きたそうな顔をしている。
「うーん、上陸してみたいけど、今日は外せない仕事があって、無理だな」
「ユリアーナも預けてきてますので、今回はこれで失礼致しますわ」
ラインハルトとベルチェは朝食を済ませると『 転移門(ワープゲート) 』で戻って行ったのだった。
「ジン殿、私も店が気になるので一旦戻ります。明日、また来ますので。……マルシアは残っていていいから」
「ありがとう、父さん」
ロドリゴもそう断りを入れて戻って行ったが、マルシアはそのまま残ることになった。
『アトラス島』は、プレアデス諸島で2番目に大きな島である。
朝の8時に『吾妻』と『江戸』は動き出す。
ここには2隻が接岸できるような場所はないので、沖合に停船。そして錨を降ろした。
今回は、 艀(はしけ) 代わりの『ストリーム』で『アトラス島』に移動する面々。
「あら、ここは砂浜じゃないのね」
ステアリーナが興味深そうに言う。
ストリームを着けた海岸は、細かい砂利の浜であった。
「おや? ここの砂利は……」
不透明ではなく、透明感のある緑色をした物が多く混ざっている。
「ジン君、ちょっと『 分析(アナライズ) 』してみてもらえないかね?」
トアが手に砂利をすくい上げて仁に差し出した。
「『 分析(アナライズ) 』するまでもないですよ。マリン隊が調査してあります。それは『かんらん石』です」
かんらん(橄欖)とはオリーブのことである。鉱物名はオリビン。オリーブ色を思わせる緑色をしていることからその名が付けられたのであろう。
エメラルドの青緑色とはまったく違う、黄色みを帯びた緑色のかんらん石は、宝石として扱われ、その名をペリドットという。
5色ゴーレムメイド、『ペリド』はその緑色の目をペリドットに 準(なぞら) えて付けられた名前なのだ。
「と、なるとこの島は、いや、『プレアデス諸島』の多くは火山性なんだろうな」
かんらん石はかんらん岩を作る造岩鉱物であり、花崗岩や流紋岩に含まれることもある。
三宅島の海岸で褐色をした鉄かんらん石が拾えることはマニアの間では有名だ。
「ふむ、仁は地質にも詳しいのかい?」
グースがペリドットを指でひねくりながら尋ねた。
「いや、基礎的なことしか知らないけどな」
中学の理科教師が鉱物マニアだったので、時々授業そっちのけで鉱物の話をし出し、そのためにそちら方面の雑学に少し詳しくなった仁である。
「ということは、この島は鉱物が豊富なのかな?」
サキが目の色を変えた。素材マニアでもある彼女は、そうした珍しい鉱物を集めるのが好きなのだ。
「そうか。……礼子、鉱物が豊富なのはどのあたりか、ランドに聞いてくれ」
夜のうちに、ランドが簡単な事前調査をしているのだ。
「はい。……この海岸から南へ回り込んで2キロほど行ったところは波に削られて地層が露出しています。そこがよさそう、とのことです」
「わかった!」
サキはいそいそと南へ向かった。グースも続く。更にはトアとステアリーナも続いた。
「護衛に付いてやってくれ」
ランド2体に仁は指示を出し、それに応えてランド401と402が4人の後を追った。
「ここにも興味深い鉱石はありそうだけどな」
「お父さま、海中に鉱脈が露出しているそうです」
マーメイド部隊からの報告によれば、今仁たちがいる海岸は、沖に向かって鉱石の露頭となっているそうだ。
長年の波や潮流による浸食で地層が削られた結果だろう。
「海の中だから、マーメイド部隊に任せるしかないんだけどな」
そんな話を仁がしていると。
「おにーちゃん、こんな色のも見つけた」
ハンナが手の平に透明な石を載せて差し出してきた。
「これは……水晶かな。波で削られ、磨かれて丸くなったんだな」
「もっと探してもいい?」
「ああ、いいとも」
「やったー!」
この海岸はそうした宝石・貴石が豊富なので、ハンナは石拾いをするようだ。
マーサはそんなハンナを見守るように、木陰に腰を下ろした。
「さて、じゃあ俺たちは何をしようか」
「泳ご?」
仁の問いかけに、間髪入れずエルザが答えた。
仁たちが今いるのはアトラス島の東面にあたる海岸。
そこから北に少し行った所は小規模な入江になっており、波も穏やかである。調査の結果、危険な生物もいないという。
「じゃあ、そうするか」
水着も用意してあるので着替えようとして、更衣室がないことに気づいた仁。
「いい。あの陰で着替える」
他に人がいるわけでもないから、と言ってエルザは葉陰へと移動した。礼子も一緒に着替えるために付いていく。護衛として十分だ。
エドガーは仁の元に残った。
仁は『ストリーム』の中でさっと着替えを済ませる。
「お待たせ」
エルザは脱いだ服を手に持って、水着姿で出てきた。礼子も一緒だ。
脱いだ服は『ストリーム』にしまっておく。操縦士のマリン61が番をしていてくれる。
「じゃあ、泳ぐか」
といっても、仁はエルザほどには泳げないので、マーメイド部隊を呼んだ。
「はい、ご主人様」
やって来たのはマーメイド17と18。
「一緒に泳ごう。というか、手を引いたり背中に乗せたりしてくれ」
「承りました」
ということで、仁とエルザはマーメイドゴーレムの背に乗ったり、手を引かれて海上を凄い速度で疾駆してみたりして楽しんだ。
「あー、おにーちゃんたちずるい!」
そんな仁とエルザを見つけたハンナが大声を上げたので、
「ハンナも一緒に来るか?」
と仁は誘った。もちろんハンナは満面の笑みで頷く。
ついでといっては何だが、羨ましそうな顔で見ていたリシアとビーナ、マルシアを誘う。
が。
「あたしは……やめとくわ」
懐妊していることがわかってから、ビーナはいろいろと節制しているという。
「わかった。ルイスと木陰でのんびりしていいるといい」
仁は笑ってそういうと、折り畳みの椅子とテーブルを『転送機』で取り寄せ、木陰に設置した。
「マーサさんもどうぞ」
「おや、ありがとうよ、ジン」
同時に、飲み物も並べておく仁であった。
リシアは水着を持って来ていなかったので、蓬莱島から送らせた。
リシアには以前仁が水着を贈っていたので、サイズに問題はなく着ることができた。
マーメイド部隊も14、15、16が来てくれたので、5人で楽しむことに。
「きゃああ、思ったより速いです!」
「うわあ、面白ーい!」
「これは、船とは違った迫力があるね!」
マーメイドゴーレムの背に乗ったリシアはその速さに驚いてしがみつき、ハンナは大はしゃぎ。そしてマルシアは船とは違う速度感に興じ、と三者三様の反応を見せた。
仁とエルザも同じようにマーメイドゴーレムの背中に乗せてもらい、人力では絶対に出せない速度を堪能したのであった。