軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-10 9月11日旅行三日目 夜

めいっぱい『南の島』を満喫したその夜は、メンバー全員が泊まっていくことになった。

ちょうどいい機会なので、夕食後に仁は、『長周期惑星』の現状について説明することにした。

マーサやリシアはまだ知らなかったので、簡単な説明から始める。

「とある星が遙か彼方から近付いて来ていて、このままだと10月20日ころ、このアルスのそばを通過するんだ」

「え? え?」

「……どういうことだい、ジン?」

事態が飲み込めないリシアとマーサに、仁は 魔導投影窓(マジックスクリーン) も使って懇切丁寧に説明した。

「……まあとにかく、なんとなくわかったよ」

マーサは『そういうもの』だと、内容を丸呑みしてくれたようだ。

「……ふわあ……なんだか大変なことになっているんですね……」

リシアはリシアなりに危機感を持ってくれた。

「それで、……」

仁は仕切り直す。

「 月(ユニー) のジャックによると、もうすぐ5番惑星のそばを通るらしい。その時にお互いの引力で軌道がずれる可能性があるということだ」

「ふむ、ずれた後が問題だね」

トアが少し顔を顰めつつ言う。

「アルスから離れる方向にずれてくれればいいんだが、より近付くずれ方だと、危険も生まれそうだね」

サキもそれに同調した。

「ふむ、ジンの宇宙船で近付いてなんとかすることはできないのかい?」

サキがそんなことを言いだした。

「そうはいってもなあ……」

アルスと5番惑星の距離は9億キロメートルほどある。

仁の持つ宇宙船の巡航速度はおよそ秒速200キロメートル。

52日間も掛かってしまう計算で、今からではどうにかできそうもない。

「そ、そんな遠くにあるのかい。宇宙って広いんだね」

少し遠い目をしたサキである。

「あれ? と、いうことは、『長周期惑星』の速度はジンの宇宙船より速いのか!」

「巡航速度で比べれば、だけどな」

もっと速度を出すこともできるのだが、それは危険と隣り合わせだ、と仁は説明。

「その速度だと、小さな石とぶつかっても大変なことになるからな」

『長周期惑星』はおそらく、表面がもの凄く荒れているだろう、とも推測できる。

「太陽、セランに近付くにつれ、もっと速くなると思う。最終的には秒速400キロくらいになるかな?」

ハレー彗星の速度が、近日点付近で秒速55キロくらいと言われているようなので、この速度は驚異的である。

近年太陽系にやってきたアイソン彗星が、最大で秒速375キロと言われているので、『長周期惑星』に近いだろうか。

閑話休題。

「今のところ、俺としても何もできない……とはいえ、観測は続けているし、宇宙船の整備は行っている」

「なるほど。ジン、『長周期惑星』って、どのくらいの大きさなんだい?」

「ああ、だいたい、このアルスと同じくらいらしい」

ラインハルトからの質問に仁は答えた。

「けっこう大きいんだな」

「そうなんだ。それだけのものをなんとかするというのはちょっと難しいな」

サキの『なんとかすることはできないのかい?』という質問に答えた形である。

「だろうな。いくらジンでも星を破壊することまではな……」

因みに、大人気のSF映画シリーズで、惑星を破壊する兵器が描写されており、もし同じことをするならどのくらいのエネルギーが必要になるか、を試算した資料がある。

それによれば、地球規模の惑星の場合、2.25×10の32乗ジュールだそうだ。

これは2.5×10の15乗キログラムの質量をすべてエネルギーに変えなくては得られない。

参考までに、太陽から放出されるエネルギーに例えると、およそ7日分にあたる。

「どんな『 魔力反応炉(マギリアクター) 』でもそんなエネルギーは賄えないよ……」

「だな……」

仁の言葉に、誰からともなく同意の言葉が漏れた。

「宇宙って大きいというか、桁が違うというか。人間なんてちっぽけなものだね」

しみじみとした声音でトアが呟いた。

湿っぽくなった空気を払拭するように、仁は声を上げた。

「まあ、この話はこれくらいにしよう。それより、サキとグースの話が聞きたいな。何が見つかった?」

この2人は、何か珍しいものがないか探しに『エレクトラ島』の内陸部まで分け入っていたのだ。

「ああ、黒い樹液の木はもう報告されていたから飛ばすとして、香辛料になりそうなハーブを幾つか見つけたよ」

「くふ、一緒に来たランドが簡単な『 分析(アナライズ) 』をしてくれたから、毒性はないと思うよ」

「それは興味深いな」

南の島にある香辛料と聞いて、仁は身を乗り出した。

「持ち帰ってゆっくりと研究してほしいね」

期待を込めたサキの目は、これで何か新しい食材が開発できないか、ということだろう。

仁としても、香辛料の種類が増えるのは嬉しいことだったので二つ返事で承知する。

仁は料理の専門家ではないので、それほどスパイスについては詳しくないが、それでも料理を多少なりとも嗜む者として、幾つかのスパイスをこれまでに発見または実用化していた。

シナモン(肉桂)、ペッパー(胡椒)、レッドペッパー(唐辛子)、ターメリック( 鬱金(うこん) )などは、ごく近いもの、もしくはそのものが見つかっているが、もう少し欲しいところだ。

サキとグースが見つけてきたそれは8種類ほどあって、仁に期待させるに十分だった。

「ありがとう。じっくり研究して、出来上がったら必ず知らせるよ」

「くふ、楽しみにしてるよ」

「ああ、あと、面白い木を見つけた。もの凄く軽い木だ。成長も早いだろうな。その分強度は低いだろうが」

そう言いながらグースが差し出したサンプルを見て、仁は確信した。

「バルサだ」

「ばるさ?」

「ああ。俺の知る限り、世界一軽い木材だ。前の世界では模型工作なんかによく使った」

仁が異なる世界からやって来たことは全員知っているので、その説明にも驚くものはいない。

「なるほど、バルサ、か。使い途はありそうだな」

「ああ。成長は早いし、軽いから……」

「船に使えるね、ジン?」

マルシアが期待に満ちた声を上げた。

今までの話は黙って聞くしかなかったが、こういう話になると俄然勢いづく。

「そうなるな。たとえば船の隙間を埋めるのに使えば、浸水しても沈みにくくなる」

「うん、小型船にはもってこいかもね」

「軟らかそうだから、外側だけは別素材にするのがよさそうだね」

ロドリゴも、マルシアと共にこの新しい素材をどう使うか、さっそく考え始めている。

こうして、南の島来訪1日目は有意義なものとなった。

* * *

夜も更けて、皆それぞれの寝室へ引き上げたあと。

仁とエルザも、『吾妻』の寝室で寛いでいた。

「さっきの話、だけど」

舷側の窓から外を見ていたエルザが振り返って仁に語りかける。

「『長周期惑星』、どうなるの、かな?」

「うーん、まだ判断を下すにはデータが少なすぎる。せめてあと半月欲しいな」

『長周期惑星』接近で、エルザも漠然とした不安を感じているのだ。いや、感じるな、という方が無理だろう。

「……でも……」

「ん?」

「ジン兄なら、きっと、なんとかしてくれる、って信じてる」

「はは、ありがとう、エルザ」

仁はエルザの肩を抱き、部屋の明かりを落とした。

「その期待に応えなきゃな」

窓からは、月明かりが淡く差し込んでいた。