作品タイトル不明
32-08 9月11日旅行三日目 雨のち晴れ
「皆さん、晴れましたよ!」
仁たちが『崑崙ブランド』の話をしていた時、ふと窓の外を見たミーネが声を上げた。
「おお!」
「晴れた晴れた」
その声を聞き、皆が外を見ると、確かに雨は止み、青空が覗き、日の光が降り注いでいた。
「ちょうどいいタイミングだったな」
仁が言えば、皆同意する。
「じゃあ、ちょうど切りもいいし、お昼にしよう。じきに島に近付くはずだし」
「くふ、賛成だね」
「賛成!」
サキが真っ先に賛意を示し、わずか遅れて他のメンバーもそれに続いた。
* * *
昼食はサンドイッチだったが、皆そわそわしていて大急ぎで平らげる。
そして食べ終わった者から甲板に出て行った。
「おお、見えた見えた」
行く手に小さく島影が見えたのである。
それは見ていると少しずつ大きくなっていく。
そこへ、老君の声が響く。
『皆さん、先行隊から連絡が入りました。艦橋へお越しください』
「お、行ってみよう」
「よし」
それを聞いたメンバーは艦橋へと急いだ。
「いちばーん!」
身の軽いハンナが先頭で艦橋に到着。次がマルシア。そしてリシア、グースと続く。
最後にマーサがやって来て全員が揃う。
『それではご説明致します』
老君の声が響き、大型の『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』に地図が映し出された。
そこには大小合わせて6つの島があった。
『この6つの島で1つのグループと見なせるようです。名前をどうしますか?』
「うーん、6つなら『プレアデス諸島』でいいんじゃないか?」
プレアデスとは星座名で、日本では『 昴(すばる) 』と呼ばれている。
ギリシャ神話に出てくる七姉妹なのだが、それとわかる明るい星はなぜか6つ。
日本ではかつて『 六連星(むづらぼし) 』と呼んでいたようだ。
意外にも、仁はそういう話が好きだったりする。
「へえ、ジン君の故郷の神話、ね。そういう話はもっと早く言ってよ!」
ヴィヴィアンが食い付いた。異世界の神話にも興味を惹かれたようだ。
いずれまた、とヴィヴィアンをいなした仁は、プレアデス諸島の島々に名前を付けていく。
「ええと……エレクトラ島、タイゲタ島、アトラス島、メローペ島、マイア島、アルキオネ島」
「面白い名前ね」
「まったくだ。仁の故郷に興味を惹かれるな」
ヴィヴィアンとグースがそんなことを言い、
「ジン兄にしてはセンスがいいと思った」
と、エルザにも言われてしまった。
「ひどいな」
苦笑しつつ抗議する仁だが、内心では、
(……ファース島、セカン島、サー島……とかにしなくてよかった)
と思っていたのである。
『では、改めまして報告させていただきます。プレアデス諸島、その一番東にあるエレクトラ島の概略調査が終わりました』
先行したマーメイド部隊やストリーム部隊、ラプター部隊らが調査したのである。
『植生としては概ねエリアス王国南部の島と同じです。特産種があるかどうかはまだ不明』
「南部の島、っていうとハミル島とかアオフ島なんかだね。ハミル島には行ったことがあるよ」
マルシアの言葉に、ロドリゴが付け加える。
「あそこには黒い樹液を出す木があって、不用意に触るとかぶれるから要注意だよ」
「え……?」
サキが顔を 顰(しか) めた。
「それって例のうるしの木かな?」
「そうかもしれないな」
サキの呟きに答えたのは仁。
「もし見つけたらゴーレムにサンプルを採取させよう」
「くふ、それなら安心だね」
未知の島、ということで、こうした楽しみもある。
「もしかしたら珍しい鉱石などもあるかもしれないね!」
トアが喜色を満面に浮かべながら言った。
『ええと、報告を続けてよろしいでしょうか』
「あ、ああ、悪かった。続けてくれ」
テンションの高いメンバーの会話で中断してしまった報告を再開する老君。
『はい、それでは。…… 自由魔力素(エーテル) が希薄……と言いましても、ポトロック近辺の1割減程度なのですが、そのせいか、魔物はおりません』
1割減が大きいか小さいかだが、 自由魔力素(エーテル) を酸素濃度に置き換えてみると、おおよそ想像できるかもしれない。山岳観光ロープウエーで高い山の上に行った、くらいの負担である。
「魔物がいないというのはいいな」
『はい。通常の獣も、大型のものでも体長1メートルくらいですね。鳥類や小型の昆虫も多く棲息しています』
「昆虫か……吸血性のものはいるのか?」
南方で昆虫が媒介する病気といえばマラリア、デング熱などが真っ先に思い浮かぶ。
『はい。蚊に似た昆虫がおりますので、対策は必要でしょう』
「だろうな……」
これに対しては、以前ミロウィーナ向けに作った『 滅菌結界(ステリライズバリア) 』の応用で、昆虫や小動物程度なら防げる、弱い 障壁(バリア) を用意している。
同時に、病原菌に対しても効果を発揮するので、未知の熱病なども防ぐことができるだろう。
「多少、結界を感じて違和感があるかもしれないが……」
仁が説明していく。小動物を防げるということは、物理的な障壁であるということ。
「手袋をしている感覚と思ってくれ」
手の感覚でいえば、素手ではなく、薄手の手袋を1枚嵌めたくらいの感覚になる、と仁は説明した。
「くふ、それで病気や害虫から守ってもらえるならありがたいね」
「いやあ、まったくだ!」
「ジン君の技術と発想には恐れ入る」
サキ、グース、トア。仲間内で最もその恩恵を受けそうな3人がべた褒めした。
「ええと、『仲間の腕輪』の機能をアップグレードすれば済むから」
ファームアップのようなもの。『仲間の腕輪』は機能的、容量的にまだまだ余裕があるからできることだ。
こうして、未知の島への上陸準備は進み、同時に『蓬莱島新婚旅行艦隊』も島に近付いていった。
「ほほう、珍しい木が生えているな」
グースが感心している。博物学者として、興味があるのだろう。
「くふ、どんな土地かねえ」
同じく、サキもまた、錬金術師として資源を調べることに期待を寄せていた。
『蓬莱島新婚旅行艦隊』接岸まで、あと数分である。