作品タイトル不明
31-41 王女とグロリアの来訪
「どう思う?」
前夜祭が済んだあと、部屋に戻った仁はエルザと相談していた。
「グロリアさんも、兄さまのことを変わらず想っているのは確かだと、思う」
エルザの意見も仁と同じである。
「だよな。絶対に意識しているもんな」
「ん」
「第一段階はクリア目前、としても、その後のことがなあ……」
どちらも国家機密を知っているであろうから、国が手放さないような気がする、と仁は思っている。
「お父さま、『国際警備隊』というのはどうでしょうか?」
そこへ、礼子からの提案が。
「そうか、『国際警備隊』か!」
少なくともどこかの国に属するよりはいいかもしれない。
「そこで数年すれば、機密は機密でなくなる可能性もあるしな」
なんとなく、方向性としてはいい気がする仁である。
「あとは機会を見つけて本人の気持ちを確認してみるか」
「それがいい」
そんな会話を交わした2人は、疲れていたので備え付けの浴室でゆっくりと身体を伸ばし、ぐっすりと休んだのであった。
* * *
明けて9月1日。
午前9時、王城の正門が開け放たれ、 銅鑼(どら) が鳴らされた。
なにごとだ、と驚いた者もいたが、事前に通達がなされていたので、大半の市民は驚くことはなかった。
むしろ、飢饉以来暗い出来事が多かったため、明るい話題を待ち望んでいたくらいだ。
「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だって?」
「ほら、あの『ポンプ』を開発した技術者らしいぞ」
「随分若いんだな」
ローランドが所属するラグラン商会はポンプを普及させ、それと共に開発者の名も知られていたのである。
「王様の病気を治してくれたのがあの奥さんらしいぜ」
「へえ、若いのに」
「18とか聞いたな」
「うちの娘と同い年じゃねーか」
「美人だし、凄いな」
などと言う声も聞こえてきた。
「リースヒェン姫様とも仲がいいらしいよ」
「ああ、聞いた聞いた。エゲレア王国のアーネスト王子との仲を取り持ったとかなんとか」
「顔が広いんだな」
「何せ世界でただ1人の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですからね」
「誰にも負けない技術者と治癒師か。凄すぎて羨む気にもなれねえ」
一部『 第5列(クインタ) 』の声も混じっているようである。
* * *
晴天の下、市内を巡ったパレードは城内へ戻り、昼前から夜にかけて披露宴が開催された。
その中で、貴族からの挨拶を受ける場面は、なんとか『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替われた仁とエルザ。
とはいえ、もう一度入れ替わってからも 宴(うたげ) は長く、疲れ果てた2人である。
* * *
「……あと一国!」
「……まだ明日がある」
貴賓室でソファにぐったりと 凭(もた) れる仁とエルザ。
礼子はそんな2人に、ペルシカジュースを差し出した。
「お父さま、エルザさま、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「ありがとう」
冷たいペルシカジュースを飲むと、少し頭がすっきりする。
「明日は多分静かな会だろうからいいとして、残るはフランツ王国か」
「……カトリーヌさんの国」
「ああ、そうだったな」
カトリーヌ・ド・ラファイエット。
魔族絡みの事件の時に知り合った人物だ。彼女は現国王の母親でもある。
「今は王太后か?」
そんな仁の言葉を、エルザは否定した。
「違う。王太后というのは先王のお后ということであって、生母のことではないから」
「そうなのか。でも言われてみればなるほどな」
こうした身分制度については、仁よりもエルザの方が詳しい。
「ん。王様の正妃が王妃。次代の王が、その人の子供でなくても、王太后はその人」
「なるほど、わかったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
ふふっ、とエルザがいたずらっぽく笑った、その顔が愛おしくて、仁は思わずエルザを抱きしめる。
それを見た礼子は部屋の明かりを暗めにして、外へと出たのであった。
* * *
「今日はのんびり過ごして下さい」
翌2日、午前8時半、仁とエルザは軽い朝食を済ませた後、パウエル宰相の訪問を受けていた。
宰相は自ら仁たちに告げる。
「静かな、後夜祭という名目のお茶会……昼食会だけですので」
「わかりました」
12時までは特に予定もないため、のんびりすることに決める仁。
午前9時半、リースヒェン王女がやって来る。
ティアとジェシカ、それにグロリアを伴って。
「ジン、エルザ、退屈しておらぬか?」
開口一番、そんなことを言い出す王女。仁は笑いながら答える。
「ああ、正直少し退屈かな」
「じゃろう? 話し相手くらいにはなれると思ってやって来たのじゃ」
仁としては、グロリアが一緒なのは助かった、と思える。
仁の方からグロリアを呼び出すのは、今回の立場上、特定の個人を 贔屓(ひいき) していると思われでもしたら、自分だけでなくグロリアの立場上もまずいと思っていたからだ。
「ティア、調子は悪くなさそうだな」
「はい、ジン様。おかげさまで」
だが、まずは無難な話から始める仁であった。