作品タイトル不明
31-34 甥
8月25日午前9時、仁とエルザは『コンロン3』で 宮城(きゅうじょう) へ向かった。
事前に連絡をもらっていたので、その時間に合わせている。
「『崑崙君』、奥方、ようこそ!」
「ジン君、エルザ、よく来たわね。2人とも、おめでとう!!」
ショウロ皇国宰相、ユング・フォウルス・フォン・ケブスラーと女皇帝が2人を出迎えた。
着陸床から 宮城(きゅうじょう) までの左右には近衛騎士と近衛女性騎士が列を作っていた。
女皇帝が仁を、宰相がエルザをエスコートしながら、その列の間を進んでいく。
名誉従騎士である礼子は仁の真後ろだ。
エドガーには気の毒であるが、彼はまた『コンロン3』で留守番である。
内心、済まないと思いつつ、エルザは機会があったら、エドガーのことを女皇帝に頼んでみようと思っていた。
まず案内されたのは貴賓室。
そこで改めて女皇帝と宰相から、仁とエルザへお祝いの言葉が述べられる。
というか、着陸床で女皇帝が『おめでとう』を言うのをフライングしてしまったのだ。
「おめでとう、『崑崙君』、奥方!」
女皇帝は2人を祝福したあと、1人の少年を紹介する。
「この機会に紹介させてもらうわ。私の甥で、先代皇帝の忘れ形見。次期皇帝になるエルンストよ」
「エルンスト・ショウロです。『崑崙君』、奥方、以後お見知りおきを」
礼子と同じくらいの身長、黒っぽい髪、茶色の目。利発そうな少年である。
「次期皇帝と言ったけど、正確には皇位継承順位2位なのよね」
エルンストは今年9歳。成人前なので皇太子とはまだ呼ばれていないのである。
今現在継承順位1位は、女皇帝の妹、シャルロッテ・アリーナ・フォン・リナール・ショウロということになっているのだ。
「エルンストは、ずっと母方の実家にいたんだけど、今回こっちに来てもらったの。ジン君たちに紹介したくてね」
次代を担う皇帝となるべく、一度は仁に会わせておきたかった、と女皇帝は結んだ。
「本日は午後1時から、ロイザートを1周するパレードを行う予定です。その際、エルンスト殿下も陛下と同行なされる予定です」
特に問題はなさそうだ、と仁は思った。それよりも問題はパレードの内容である。
「パレードには『自動車』を使う予定だ。『崑崙君』から献上されたものと、我が国で作ったものと」
ショウロ皇国でも『自動車』を製造できるようになったようだ。
計3台の自動車と馬、空には熱気球が3機。
そして『ゴリアス』が1体付くパレードだそうだ。かなり派手になりそうである。
女皇帝としては、派手さよりも仁という存在を国民にアピールしたいだけなのだが。
そのため、仁とエルザの乗る席は少し改造されており、一段高くなっていた。
夏なので日除けは付いているが、顔が暗くならないよう、光の透過率は高めである。
「おい、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』だって」
「時々空を飛ぶ船でやって来る人だろう?」
「気球もあの人が教えてくれたらしいぞ」
「ああ。帝室の相談役みたいなものだと聞いた」
「あのでかいゴーレム、すげえな」
「それより、隣の美人、あれってうちの国の出身だってよ」
「聞いた聞いた。トスモ湖の向こうの……そうそう、ランドル家のお嬢様らしいな」
「一緒に乗ってる子供、もしかしてエルンスト様じゃないかな?」
「ほんとだ。久しぶり! 大きくなられたな」
一般市民は興味津々でパレードを眺めながら噂に花を咲かせていた。
パレードが貴族街に差し掛かると、反応はまた違ってくる。
「うむ、あのランドル家の令嬢が『崑崙君』を射止めたのか」
「お似合いではあるな。祝福しようではないか」
「ミス・ランドル……いや、元ミス・ランドルは『 国選治癒師(ライヒスアルツト) 』でもあったな」
「それを指導したのが『崑崙君』だという話だ」
「それが本当なら、彼の知識はどれほどのものなのだ」
「我が国との縁が深まったことはよいことであろうな」
「エルンスト殿下がご一緒ということは、帝室との仲も良好ということだ」
「まずは、めでたい」
彼等もまた、概ね好意的な反応である。
こうして、1日目のパレードは無事に済んだのである。
* * *
「ご苦労様」
パレードから戻った仁とエルザを、女皇帝が自ら労っていた。
その傍らにはエルンスト皇子の姿も。
「『崑崙君』、そんなに疲れた? 僕は面白かったけどな」
まだまだ無邪気である。
「元々庶民ですからね、何度しても慣れませんよ」
「そういうものですか」
幼い頃から帝王学を学んでいるのだろうエルンストには、とくに苦でもなかったようだ。
「明日は 宮城(きゅうじょう) で披露宴ですからね。とはいえ、主賓のお2人には壇上で座っていてもらえれば結構ですので」
宰相が改めて説明する。
それはそれで晒し者になっているようで落ち着かない、と思っている仁である。
むしろ、それならさっさと『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替わってしまおう、と決めていたりする。
「陛下には悪いけれど、そうそう変化はないだろうからな……」
それもまた、残念ながら正しい。
封建社会においては、変化というのは嫌われ、忌むべきものなのだから。
そういうわけで、翌日の披露宴は、その一番面倒な『来賓からの挨拶を受ける』という部分を『 分身人形(ドッペル) 』に任せた仁とエルザであった。
因みに今回、礼子の影武者を務めているのは『パンセ』である。
そして今回も老君がそのデータベースを構築する役に立つことだろう。
* * *
「陛下には悪いけど、身が保たないからなあ」
「……同感」
貴族の令嬢として育てられたとはいえ、社交界デビューしていないエルザは仁と同じくこうした喧噪が大の苦手だったので、今は2人仲良く蓬莱島へ退避していた。
時差がおおよそ5時間20分あるので、蓬莱島はもう昼過ぎである。
「旅行の準備は、もうできたの?」
『準備』というのは、『船』のことだ。
「ああ。艤装も終わって、そろそろマリンたちで試験航行させることになるだろう」
蓬莱島では進水式=命名式、となっており、事前に船名が決まっている船は『老君』=『老子』立ち会いの下で行われている。
余談だが、蓬莱島では、建造、船体完成、進水式、艤装、試験航行という順になっている。
「『江戸』と……なんだっけ?」
「『吾妻』だな」
「あ、そうそう。で、どっちが私たちの乗る船?」
「それはもちろん『吾妻』さ」
吾(あ) が妻、という意味でも、『吾妻』に乗るつもりの仁である。
「見に行ってみようか」
「ん、賛成」
「お父さま、お伴します」
ということで、仁たちは新造船を実際に見に行くことにしたのである。