軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-29 非常用

「ジン殿と奥方には世話になりっぱなしだな」

セルロア国王セザールが、食後のお 茶(テエエ) を飲みながら呟いた。

「モノレールはジン殿に、父の病気は奥方に」

「いえ、お気になさらず」

確かに仁は聖人君子ではない。誰彼構わず助けることはしない。また、できると思うほど傲慢でもない。

だが、手の届く所ならば。耳に入ったならば。目に映ったならば。

そしてその気になったならば仁は行動するのである。根はお人好しなので。

父の病気、というのは先王リシャールの『高血圧性脳出血』のことだ。

迅速な手当、治癒のおかげで、なんとか喋れるくらいまで回復し、最近は少し自分で動けるようにもなってきたという。

「もちろん、メルフェの献身的な介護もあるのだが」

メルフェはリシャールの侍女だが、最早『内縁の妻』といっていいようだ。

そういった内輪話を聞かせるセザール王。

「メルフェさんは立派です。私も、主人にはそうありたいと……」

と言いかけて赤面するエルザ。

「はは、初々しいな」

微笑むセザール王。実はまだ独身である。一国の王ともなると、軽々に婚姻はできないのだ。

「陛下にはご縁談はないのですか?」

仁が軽い気持ちで質問すると、

「なかなかよいお相手がおりませんでな、『崑崙君』、どなたかご存じないでしょうかな?」

同席している総務省主席のバルフェーザ・ウォーカーが溜め息まじりに仁に聞いてきた。

「えー……心当たりはないですね……」

「そうか、残念だ」

確かに、仁の知り合いには独身女性が大勢いるが、セルロア国王妃に相応しいかというと首を傾げざるをえない。

というよりも、それ以前に皆、そんな地位には興味がないと思われた。

そんなプライベートというか、聞きようによってはきわどい話題も出る昼食会は滞りなく済み、時刻は午後1時。

あと1時間で披露宴である。

* * *

「……悪いけどさすがに無理」

「同感」

仁とエルザは、うまく立ち回って『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替わった。

自分たちのために開いてもらっているという自覚はあるので、申し訳なく思いつつ、『貴族のデータベース』を作るためという名目で老君が操縦する『 分身人形(ドッペル) 』に、一時任せたのである。

個人での接触は禁止とされているとはいえ、公の場での公式な紹介、挨拶は禁止するわけにもいかないからだ。

礼子は本物の仁に付いてきている。

「礼子の『 分身人形(ドッペル) 』も作った方がいいのかな?」

「確かに、普段のレーコちゃんを知っている人からしたら、付いていないとおかしいと思うかも」

加えて、礼子はショウロ皇国で従騎士の位をもらっているので、公式の場に出ても特に問題はないのだ。

「礼子はどう思う?」

「……正直、ちょっと複雑です」

自分と瓜二つの存在がいるということもそうだが、自分の『代わり』ということがなんとなく引っ掛かるのだそうだ。

「そうか……」

その気持ちもわからなくはないので、仁はまた考え込んだ。

「それじゃ、『 隠密機動部隊(SP) 』を仮装させるか」

「それでしたら……」

しぶしぶながら礼子も頷いた。

「そうすると……ああ、そうか」

崑崙島勤務のパンセとビオラが候補である。

「元 私用(わたしよう) の『マロン』と『プラム』を崑崙島へ、で、パンセとビオラをレーコちゃんの替え玉に、というのは?」

エルザも意見を述べた。

「そうだな……元々崑崙島での仕事は多くはないだろうから兼任してもらってもいいかもな」

「わたくしはそれでいいです」

礼子がいいと言ったので、パンセとビオラを礼子の替え玉とし、マロンとプラムも崑崙島勤務とすることにした。

元々パンセとビオラは礼子と同サイズで作っているので、仮装はすぐに済む。

「これなら大丈夫だな。要所要所での行動やセリフは老君が指示してくれるか?」

『わかりました、 御主人様(マイロード) 』

これで1つ懸念が消えた。何といってもこの先、ショウロ皇国とクライン王国、それにフランツ王国での披露宴が待っているのだから。

これだけのことをやっても、まだ30分くらいしか経っていない。

「さて、どうするか。……そういえば老君、船の方はどうなっている?」

ここで仁は、新婚旅行用に使う予定の2隻、『吾妻』と『江戸』の進捗状況を確認した。

『はい 御主人様(マイロード) 、順調です。今現在8割終了といったところです』

「そうか、それならいいな」

残る2割のうち半分は、仁が検討中の非常用推進装置である。

「モーターはできたんだが電源の確保がなあ……」

魔法を使った発電では非常用の意味がなく、かといって仁にはバッテリーを作るだけの化学方面の知識がない。

「手持ちの手段で何とかするしかないわけだが、やっぱり圧縮空気かなあ」

1000気圧にも耐えるボンベは既に実用化されている。

これを複数備え、いざという時に後方に噴射すればその反動で船を動かせるのではないかというのだ。

「空気中より水中に噴射した方がいいかもな」

反動を得るためであるから、押す媒質は空気より水の方がいいかも、と考えた仁である。

「あ、だけどあくまでも反動で動くのだからあまり関係はないのかな?」

こうした空気の噴出による反動は、真空中でも有効であることを考えると、無理に水中に噴射する必要はないだろう、と仁は最終的に判断した。

「単純に噴射するよりタービン回して、それで発電機を動かすという手もあるな。どっちが効率いいんだろう?」

1つ思いつくと連鎖するように次々にアイデアが浮かんでくる。

「でも、それを使うなら小型船?」

エルザからも助言が飛び出す。

確かに、大型船を動かすのは効率が悪すぎるともいえる。

「じゃあ、救命艇用にするか」

『成層圏以上の超高空や宇宙空間では 自由魔力素(エーテル) 分布に問題はないので、そちらからの救援は可能ですね』

老君も参考意見を述べてくれる。

「そうすると救命艇は4人乗り、圧搾空気推進とオールを積んで、位置特定用のマーカーと、非常用食糧に水を積めばいいか」

「……いいと、思う」

「使わないに越したことはないけどな」

そもそも、高空からの支援が可能という時点で遭難の可能性はほぼないと言っていいのだが。

「残るは『エネルギー転送』だな」

「エネルギー転送?」

SFやアニメなどではたまに見るやり方である。遠く離れた場所から、対象にエネルギーを送るのだ。

「……そんな発想が……」

感心を通り越して驚愕するエルザ。

「これができれば 自由魔力素(エーテル) 不足の心配はないからな」

構想は立っている。

離れた場所を繋ぐための『 転移門(ワープゲート) 』や、物質を転送する『転送機』があるのだから。

「単純にいえば、マーカーを設置した『タンク』に 魔結晶(マギクリスタル) を転送すればいいだけだよな」

「……確かに」

「でもそれじゃスマートじゃないから、もう少し考えて見たいと思うんだ」

「……ジン兄らしい」

とか言いながらも、そういう『仁らしさ』を好ましく思っているエルザなのであった。

そしてそろそろ貴族からの挨拶も済んだ頃だろうと、せっかく開いてくれている披露宴、無理のない範囲で出席したい仁とエルザは『 分身人形(ドッペル) 』と入れ替ったのであった。