軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-27 2世誕生

釜の蓋がごとごと言いだした。

火加減は礼子に任せているので仁は安心している。

そして礼子は火を落とした。後は蒸らすだけだ。

10分ほど蒸らし蓋を取ってみる。

「うん、まあまあか」

木のしゃもじでかき混ぜ、今回はそのままおにぎりを作る。

ご飯が冷めると握れなくなるので熱いうちが勝負だ。

具を用意することができなかったので、シンプルに塩で握る。

「礼子、頼む」

「はい、お任せ下さい」

礼子なら、例え溶けた鉄でも大丈夫だ。

熱々のご飯に塩を適量まぶし、三角に握っていく。仁は俵型よりも三角の方が好きなのだ。

礼子の手に合わせた一口サイズのおにぎりが30個ほど出来上がった。

「あとはお茶か。ラインハルト、ほうじ茶は置いてあるかい?」

「ああ、あったと思う」

そこで仁は茶葉を探してみると、ビンに入ったほうじ茶の茶葉が見つかった。

「これならいいな」

お湯を沸かし、熱湯でほうじ茶を淹れる。

それをポットに入れれば差し入れは完了。

あとは数個の湯飲みと手ふきを用意して、おにぎりは礼子、手ふきと湯飲みは仁、ほうじ茶のポットはラインハルトが持って、ベルチェのいる『産室』へと向かった。

ドアの前には侍女が1人立っているので、取り次いでもらう。

まだ生まれるにはもう少しかかるようなので、部屋に入ることを許可してもらった。

「あ……ジン様」

額に脂汗を浮かべたベルチェがベッドに横たわっていた。

「ああ、起きなくていいよ」

仁は手でベルチェを制した。

「それから、もしよかったら皆さんでどうぞ。エルザ、ごくろうさん」

「ありがとう、ジン兄」

部屋の中には年取った産婆さんとエルザ、それに中年の侍女が1人。

その侍女が普段は台所に立っているとのことで、そろそろ何か作ってこようと思っていたところだそうだ。

「おにぎり、ですか。簡単ですけどおいしいですよね」

「塩だけでも美味しい。ありがとう、ジン兄、レーコちゃん」

ベルチェはペルシカジュースだけにしておくそうだ。

「ベル、僕には何もしてやれないが、頑張ってくれ」

「はい、あなた」

部屋を見回してみると、産湯を使わせるタライには水が張ってある。エルザがいれば『 加熱(ヒート) 』ですぐお湯にできるだろう。

そうしていると、急にベルチェが苦しみ始めた。

「ううっ」

「いよいよ本格的に陣痛が始まったわ。……男性は出ていって下さい!」

産婆に言われ、仁たちはそそくさと部屋をあとにした。礼子だけは中に残る。

入れ替わりに、ドア前にいた侍女も手伝いのため部屋に入った。

「……ベル、頑張れよ」

ドアが閉まる前、ラインハルトが小さな声で呟いた。

それからが長かった。

ドアの向こうではベルチェの呻き声がひっきりなしに聞こえてくる。

そしてそれを励ます産婆の声。対してエルザの声は聞こえない。

「……ああご先祖様、どうかベルチェをお守り下さい……!」

ぶつぶつ呟きながら廊下を行ったり来たりするラインハルト。さすがに仁も声を掛けるのはやめておいた。

こういうとき、父親は何もできないのだから。

* * *

待つこと30分か、それとも1時間か。あるいは2時間も経ったのだろうか。

おぎゃあ、という声がドアの向こう側から聞こえた。

「生まれた!!」

文字どおり飛び上がって喜ぶラインハルト。

程なくしてドアが開き、産婆さんが顔を出し、安心させるように一言告げる。

「元気な女の子ですよ。お母さんも大丈夫です」

「そうですか! ありがとう、ありがとう……!」

ラインハルトは涙声だ。

そしてまた扉が閉まり、今度は30分ほどしてからもう一度扉が開いた。

「さあ、顔を見てお上げなさい」

産婆さんに促され、そろそろと部屋に足を踏み入れるラインハルト。

「……あなた」

「ベルチェ、ありがとう」

ラインハルトは、ベルチェの額に掛かった髪をそっと指でのけてやる。

そのベルチェの隣には生まれたばかりの赤ん坊がすやすやと眠っていた。

「本当に赤い顔しているんだな。だから赤ん坊か」

まだ生まれたばかりなので顔もしわだらけである。

「……女の子ですって」

「うん、聞いた。ジンの言うところによると『いちひめにたろう』といって、最初は女の子で、次が男の子、という順番が育てやすくていいんだとさ」

「まあ、そうなのですか」

そこへ仁も許可されて入ってきた。

「ベルチェ、お疲れ様」

「ありがとうございます、ジン様。エルザさんにはお世話になりました」

「ええ。若奥様は素晴らしい治癒魔法をお使いになるのですね」

おかげで出血も最小限に抑えられ、母体の危険も回避できたそうだ。

「エルザ、ごくろうさん」

「ん」

エルザは『 殺菌(ステリリゼイション) 』で室内を殺菌し、感染症を防ぐなど、さまざまなサポートも行っていたのである。

「ラインハルト、おめでとう」

「ありがとう、ジン」

「出産祝いはまた後日、日を改めて贈るよ」

「ああ、気にしないでくれ。今日は本当に助けられた」

「蓬莱島にいるときでよかったよ」

「ん? ……あ、ああっ! ジ、ジン! それにエルザ! 有り難かったけど明日は君たちはまた披露宴じゃないか!」

ようやくラインハルトも頭が回り始めたらしい。

「大丈夫だよ。これからロイザートに行ってゆっくり休むから」

「そ、そうかい?」

明日からの3日間はセルロア王国での披露パーティーであるので、ロイザートの『屋敷』から移動すれば時差が小さくてすむ。

「その点は助かったな」

「ん」

「だから安心してくれ。それより、名前はどうするんだい?」

「いろいろ考えてあるんだがな。このあと、お互いの両親も交えてじっくりと決めるさ」

「そうか。それじゃあ、我々はこれでお 暇(いとま) するよ」

「ああ、本当にありがとう、ジン、エルザ」

仁とエルザ、そして礼子は、ラインハルトとベルチェに挨拶をし、ロイザートの『屋敷』へと移動したのである。『コンロン3』はエドガーにこちらへ回してもらうことになる。

* * *

転移門(ワープゲート) を使えばすぐにロイザートである。

「ご主人様、おいでなさいませ」

バトラーDが仁たちを出迎えた。

「もうお風呂の仕度はできております」

老君から指示があり、そろそろ仁たちが来る頃と、準備を整えていたのだ。

時刻はもう午後4時である。

「あとはのんびりしよう……」

「少し、疲れた」

また明日から『疲労』宴が始まる。