軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06-03 ラインハルトとビーナとエルザと

侍女に連れられてやって来た赤毛の少女は緊張しながらラインハルト達にお辞儀をして、

「は、はじま、じゃない、初めまして、ビーナと申します」

そんなガチガチのビーナを見たクズマ伯爵は、

「おいおい、そんなに緊張しなくてもいいぞ。こいつはラインハルトと言って私の友人だ。そちらはエルザ嬢でラインハルトの従妹殿だ」

「ラインハルト・ランドルです」

「エルザ・ランドル」

ラインハルト達も名乗る。

「よ、よろしくおねがいいたします」

まだ硬さが取れないビーナである。そんなビーナをクズマ伯爵は同じテーブルに座らせると、

「彼女、ビーナは最近見つけた 魔法工作士(マギクラフトマン) でね、なかなか優秀だし、私好みの思想を持っているんだ」

「そ、そんな、伯爵、あたしなんて、それほどの者じゃありません」

顔を赤らめて否定するビーナにラインハルトは、表面上は愛想良く、

「いやいや、そんなことはない。『冷蔵庫』、だったかな? どういう仕組みかは知らないが、発想が素晴らしい。保存するのと食感を良くするのと両方に使えるなんてね」

するとビーナは俯き、恥ずかしそうに、

「……いえ、あの『冷蔵庫』は、あたしの作品というわけじゃないんです」

「ん? どういうことかな?」

ビーナが次に何を言うか、待ち構えるラインハルト。

「あれは……短い間だけでしたけどあたしの手伝いをしてくれた 魔法工作士(マギクラフトマン) がほとんど開発したんです。あたしはただ組み立てるのを手伝っただけで」

それを聞いたラインハルトは、この目の前にいるビーナという少女の評価を少し上げた。

「その手伝いをした 魔法工作士(マギクラフトマン) は……ジンというのかい?」

ラインハルトがそう言うと、ビーナは目を見開き、次いで身体を乗り出して、

「ジン! ジンを知っているんですか!?」

その勢いを少し微笑ましく思いながらラインハルトは、

「ああ、知っているよ。彼は、ポトロックで先日行われたゴーレム艇競技に優勝したチームの 魔法工作士(マギクラフトマン) だからな」

その言葉を聞き、伯爵とビーナはそれぞれに、

「ほう、やはりそうか。ジンと言う名を聞いたからもしやとは思ったんだがな」

「え、え、え? ジンが、そんな競技に!?」

クズマ伯爵は競技の情報を知っていたようだ。一方のビーナは知らなかったらしい。

「伯爵様、どうして教えてくれなかったのですか?」

ビーナにそう詰め寄られた伯爵は、

「すまんすまん。てっきり教えたつもりになっていたんだ。まあ、許せ」

伯爵にそう言われてはビーナもそれ以上は言えず、口を閉じる。伯爵はラインハルトと話を再開した。

「ジンの技術はすごかったか?」

「ああ、彼のおかげで僕のチームは2位で終わってしまったよ。なあ、エルザ」

いきなり話を振られたエルザは一瞬だけぴくっとしたが、

「ん。ジン君のゴーレム、そして推進装置は斬新だった」

エルザの口からもジンの名前が出、しかも『君』付けだったことにビーナは、

「ジン君? って言いました?」

とエルザに尋ねないではいられなかった。

「言った。彼は友達。この指輪も彼がくれた」

エルザはどこか誇らしげにそう言って、右手中指の指輪を見せて微笑んだ。

指輪を見せられ、そんな言葉を返されて、ビーナの気が萎む。

「そ、そうですか、ここを立ち去ってから、ジンはそんなとこにいたんですか……」

乗り出した身体を椅子に戻し、今度は背もたれに寄りかかって天井を見つめるビーナ。

(……心配したのに。……満足にお礼も言ってないのに。……指輪をあげちゃう仲なのかなあ……)

「ん? 何か言った?」

「い、いえ、何も」

「そうか、やはり彼は優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) だったんだな」

一方でクズマ伯爵とラインハルトは話を続けている。

「彼にはこの国に定住してもらえたらなあと思わないでもなかったが、いかんせん、もう1人の伯爵とちょっと揉め事を起こしてね」

「ん? どういうことだい?」

それでクズマ伯爵は、ガラナ伯爵とのことをかいつまんで話した。

当事者のビーナは少し居心地悪そうだ。

エルザもその話を聞いて、

(ジン君、は女の子には誰にでもやさしいの?)

等と思っていたのだが口には出さない。

「なるほど、ガラナ伯爵、なあ」

ラインハルトは納得して頷く。

前回ブルーランドに来た際、領主ブルウ公爵による歓迎会の時に会ったのだ。

「あの人、嫌い」

エルザもはっきりと嫌悪を口にした。なぜなら、挨拶するなり、エルザに向かって『妾にならんか?』と聞いてきたのである。

その時のねっとりした視線を思い出すだけで背筋に悪寒が走る。

「まあ、今は私の屋敷内に工房を移させたから、おいそれと手出しは出来ないだろう。それにそろそろ別の女性に目を付けているかもしれん」

それはそれでその相手が気の毒ではある。

「だがなあ、このあたりの鉱山はほとんどがガラナ伯の預かる領地だ。ブルーランドでの彼の影響力は馬鹿にならない」

「ああ、質のいい 魔結晶(マギクリスタル) 鉱山があったっけな」

ブルーランド西の山地がガラナ伯爵領で鉱山がある。クズマ伯爵領は東の田園地帯だ。

そしてブルーランド周囲の平野部はブルウ公爵の直轄地となっていた。

「まあ今回はもう公務はないから、会わずに済みそうだ」

それは間違いなのだが、今のラインハルトにわかるはずもなかった。

「のんびり祖国へ戻るだけと言ったが、ここには何日くらい滞在できるんだ?」

ペルシカの実を口に運びながらクズマ伯爵が尋ねた。

「さあ、どうかな。馬車が一台壊れたから調達しなくてはならないし、それに少し馬車の改良もしてみたいしな」

そうラインハルトが答えると、

「君は相変わらずだな、そういうことなら資材は私が調達しよう。工房は必要なら……」

「あ、あのっ、よろしかったらあたしの所を使って下さいっ!」

ビーナが勢い込んでそう言った。

もう少しジンの話を聞いてみたかったし、また、異国の 魔法工作士(マギクラフトマン) の仕事ぶりを見てみたいという気持ちもあった。

「ああ、その時は頼むかも知れないな」

ラインハルトは軽く返事をしておく。そして、翌日の予定をここで口にした。

「まあ、明日はちょっと外出する予定だ」

「ほう、どこか当てがあるのか?」

「ああ、実はな、エルザ共々ジンの家に招待されているんだ」

「えええっ!」

それを聞いたビーナが素っ頓狂な声を上げた。そして更に、

「あ、あの、ジンが来ているんですか!?」

再び身を乗り出してラインハルトに尋ねてくる。流石のラインハルトも若干引き気味に、

「あ、ああ。彼とはエリアス王国の首都ボルジアからずっと一緒に旅してきたんだ」

「私はジン君とはポトロックからいっしょの馬車だった」

エルザが横から口を出した。

「ええー……そうなんですか……」

ちょっとだけビーナの顔に悔しさというか悲しさというか、複雑な感情の色が浮かんだがすぐに消え、

「お願いします! あたしもご一緒させていただけませんか!?」

立ち上がって腰を90度折る礼をしながらビーナはそう言った。

ラインハルトは考える。このビーナという女の子が仁の知り合いだと言うことは間違いなさそうだ。

ならば仁に会わせるところまではまったく問題ないだろう。その後、家へ呼ぶかどうかは仁の判断に任せよう。

そう結論を出し、

「そうだな、明日、ジンと待ち合わせをしているんだ。そこまで一緒に行くのは問題ないだろう。その先はジンに直接頼むといい」

そう告げた。ビーナはぱあっと顔を輝かせて、

「ありがとうございます!」

と、再度90度のお辞儀をしたのである。

そんなビーナの様子を、何とも言えない顔で見ていたエルザ。ラインハルトはそれには気が付かなかった。