作品タイトル不明
31-15 朝
「……ん……」
ふと、エルザは目覚めた。時刻は午前4時半くらいか。
障子越しに夜明け前の薄明かりが感じられる。
隣を見れば、安らかな顔で仁がまどろんでいた。
「……私の、だんなさま」
小さな声で呟き、エルザは仁に身を寄せ、もう一度目を瞑った。
朝の日射しが顔にあたり、仁が目を覚ませば、時刻は午前5時半。
夏の日はもう昇っており、外は明るくなっている。今日もいい天気のようだ。
仁はゆっくりと身を起こした。
隣を見れば、幸せそうな顔でエルザが眠っている。
「これからよろしく、俺の奥さん」
誰にも聞こえないような声で呟いた仁は、エルザの額に掛かる髪を指先で避けてやる。
プラチナブロンドの髪に障子の隙間から漏れる日が当たり、美しく輝いた。
「……んぅ?」
目に光が入ったか、エルザも目を覚ます。
「あ……ジン、兄?」
隣にいたはずの仁が見あたらず、顔を動かせば、起き上がった仁と目があった。
「おはよう、エルザ」
「……お、おはよう、ございます」
昨夜のことを思い出してか、エルザの顔に朱が差した。
つられて仁も少し顔を赤らめる。
「……起きようか」
「……ん」
ゆっくりと起き上がる仁。
エルザは毛布を身体に巻き付けている。
その気持ちを察し、仁は一足先に服を着た。
「一風呂浴びてくるよ。エルザもどうだ?」
「……うん……ちょっとあとから、行く」
恥ずかしそうに俯いたエルザを後に、仁は部屋の外へ。
それを見たエルザは起き上がり、ゆっくりと服を身に着けた。
着替え一式を持ち、蓬莱島温泉へと向かう仁とエルザ。
『家』の風呂場は手狭なので、外の温泉へ向かう。
大きな温泉は研究所の横手にあるのだ。
「おはようございます、お父さま、エルザ様」
玄関にいた礼子が2人に声を掛けた。
「おはよう、礼子」
「おはよう、レーコちゃん」
「お風呂ですか?」
「ああ。朝風呂に入ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
とはいえ、玄関から20メートルも歩けば温泉だ。
仁が脱衣所に向かうと、エルザの足が止まった。
「どうした?」
「……あ、い、一緒に、入る、の?」
顔が真っ赤である。
「……駄目か?」
「あ、明るいと、あの、その」
真っ赤な顔で慌てるエルザも可愛いと思う仁であるが、あまり弄るのも可哀想と、
「わかったわかった。今日は別々に入ろう」
と声を掛ける。
「……ごめん、なさい」
「気にするな。ゆっくり行こう」
「……ん」
というわけで、男湯と女湯に別れて入る仁とエルザであった。
「あー、いい湯だ」
温泉好きな仁は朝湯に入るのが大好きである。
ひとしきりお湯に浸かった仁は、露天風呂の方に入ることにした。
ここは室内と露天、双方を楽しめるようになっているのだ。
『仁ファミリー』のメンバーもいない、礼子も入ってこない、こんな日は滅多にない。
「やっぱり朝風呂はいいなあ」
朝の光を浴びながらお湯に浸かるのは格別だ、と仁は手足を伸ばした。
と、板仕切りに隔てられた女湯で水音がした。
「……エルザ?」
今、湯に浸かっているのは仁の他にはエルザしかいない。
「……うん」
板仕切りの向こうから返事があった。
「いいお湯だな」
「……うん」
「空が青いな。今日もいい天気だ」
「……うん」
板仕切り越しでも恥ずかしいのか、いつも以上に歯切れの悪い返事だ。
そんなエルザが愛おしい、と思う仁である。
「あまり長湯しているとのぼせるぞ。俺はそろそろ上がるよ」
「……うん」
仁はそう告げて浴槽を後にした。
脱衣所で身体を拭き、備え付けの『 風(ブリーズ) 』を発生させる魔導具……『送風機』で涼む。
残念ながらコーヒー牛乳、フルーツ牛乳の類は常備されていない。飲めるのは水だけである。
「冷たい水も美味いなあ」
いい具合に汗が引っ込んだところで服を着て外に出れば、礼子が待っていた。
「お父さま、そろそろ7時になります。皆様、おいでになるまであと30分くらいです」
「ああ、そうだな」
朝食は一緒に食べることになっているのである。
そんな話をしているとエルザも出てきた。
風呂上がりの、桜色に上気した顔が可愛い。
「お、ちょうどいい。もうじきみんな来るから、研究所で待っていよう」
「ん」
2人は寄り添って研究所へ、その後を付いて行く礼子であった。
* * *
「やあ、ジン!」
「おはよう、エルザ!」
予定の時刻になり、他のメンバーが崑崙島からやって来た。
「今日もいい天気だな」
という者があれば、
「エルザ、寝不足してないかい?」
などとからかう者もいる。
共通しているのは、2人への友情だ。
人里離れ、世間と隔絶した蓬莱島であるが、仲間同士の絆は温かだった。