軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31-12 8月10日 午後

蓬莱島時間で正午、ミロウィーナが月面基地からやって来た。

「ミロウィーナさん、ようこそ」

仁とエルザをはじめ、蓬莱島にいる『仁ファミリー』全員が出迎えた。

「お久しぶりね、ジン君」

ミロウィーナは前回会ったときよりも更に健康そうに見えた。

「いよいよ明日ね、結婚式。……でも、私なんかでいいの?」

「ええ、ミロウィーナさんにやって欲しいんですよ」

仁がミロウィーナにやって欲しいことというのは仁の『後見人』役である。

エルザにはミーネがいるが、仁は孤児である上に異邦人。ゆえにミロウィーナに後見人を頼みたかったのである。

ラインハルトの結婚式を参考にし、独自色……現代日本での『神前』結婚式にも少し似せる。

これについてはエルザも賛成してくれていた。

『ファミリー』の皆にも説明したところ、好意的な反応だったので、仁は独自の様式で結婚式を執り行うことにしたのである。

日本式の『神前』結婚式の概要が、こちらの『先祖への報告』式と大差ないこともあったであろうが、それ以上に、独りこの世界にやって来た仁の意思を汲んでくれたということもあるのだろう。

先代のアドリアナ・バルボラ・ツェツィ、『 賢者(マグス) 』シュウキ、そしてシュウキの妻アドリアナ。

彼等と、遠く離れた、どこかにある地球の日本、その八百万の神々に対して結婚報告をするつもりの仁であった。

「いやあ、仁独自の結婚式か。興味深いね」

グースが言う。式次第は既に説明済みだが、やはりリアルタイムで見たいのだろう。

そしてそれはヴィヴィアンも同じようだ。

「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の結婚式……これは絶対に語り草になるわ!」

「……」

そのテンションに少し引いている仁とエルザであった。

そして蓬莱島時間午後2時。

ラインハルト夫妻がショウロ皇国から到着した。

ベルチェは随分と大きくなったお腹を抱えている。

「ようこそラインハルト、ベルチェ。……大丈夫かい?」

「ええ、ジン様。産婆さんにも見てもらいましたけどまだ大丈夫ですのよ」

アルス世界では医者という職業がなく、怪我や病気を治すのは『治癒師』である。

そして出産に関することは『産婆』という役割分担になっているのだ。

「気づかいありがとう、ジン。……ここならエルザもいるし、カイナ村へだって飛べるから、ある意味世界一安心できる場所だよ」

「確かにそうとも言えるけど……」

初産はいろいろ大変だと聞いているだけにちょっと心配な仁であった。

午後3時にリシアが到着した。

「遅くなりまして」

「ようこそ、リシア」

「わざわざありがとう」

仁とエルザが出迎え、皆が揃っている大食堂へと案内した。

そこで、今回初めてのミロウィーナに紹介する。

「前に話だけはしたと思うけど、レナード王国の王族のミロウィーナさん」

「はじめまして、ミロウィーナよ。一応最後の1人になるのかしらね」

「あ、あの、リシア、です」

「ジン君の知り合いは可愛いお嬢さんが多いわね」

言われたリシアは赤くなり、仁は横で頭を掻き、エルザはそんな仁をちょっとだけ睨んだ。

午後4時、クズマ伯爵夫妻到着。

「ようこそルイス、ビーナ」

「ジン、いよいよね!」

ビーナが少し紅潮した顔で声を掛けてくる。

「ああ、ビーナに先を越されたけど、いよいよだ」

「うふふ、そうね。……エルザ、楽しみでしょう?」

「……ん」

出迎えたエルザにも声を掛けるビーナ。そんな彼女に向けるエルザの目が鋭くなった。

「……ビーナ、懐妊?」

「え?」

「え?」

「……え?」

仁だけでなくクズマ伯爵も、いや、当のビーナも硬直した。

「……違うの?」

「えええええ……!!」

どうやら本人もわからなかったらしい。

「そ、そういえば今月は遅いな、と思っていたんだけど……やっぱり、そうなの?」

「ん、間違いない。おめでとう」

ビーナのお腹に手を当てて診察したエルザが微笑みながら言った。

「ビーナ、ありがとう!」

「あなた……」

そんなビーナの手を取って喜ぶクズマ伯爵。

「こりゃあ、ますますおめでたいな!」

伯爵の親友、ラインハルトも手放しで喜んだ。

そして集まった『仁ファミリー』全員が祝福したのである。

その夜は前夜祭の様相を呈し、和やかに過ぎていく。

「ジン、おめでとう」

ラインハルトはワインを手に、仁を祝った。

「ありがとう」

「ジンと初めて出会ったときは、こんな日が来るとは思っていなかったよ」

「俺もだよ」

「……なんだかジンが一人の人を選んだっていうのがちょっと不思議な気もするわね」

これはビーナ。

「くふ、確かにね。ジンって誰にでも優しいからね。……女には」

「おい」

サキの軽口に、怒ったふりで突っ込みを入れる仁。

「……あれ? そういえばエルザは?」

「うん? いないね。……リシアもいないな」

「さっき温泉に行くって言ってたよ」

* * *

エルザは1人温泉に浸かっていた。

「……いよいよ、明日」

これまでのことを思い返してみる。

ポトロックでの出会い。ゴーレム艇競技。フラットヘッド村で仁が人形性愛者ではないかと思った誤解。モフト村での凧揚げ。

ふ、と笑みがこぼれた。回想はまだ続く。

ハンバルフ峠下で山賊に襲われたこと。ノンをもらったこと。バレンティノに逆恨みされたこと。ビーナと共に崑崙島に招待されたこと……。

「ゴーレム 園遊会(パーティー) の時……」

仁からもらった 保護指輪(プロテクトリング) のおかげで助かったことを思い出す。

そしてヤダ村の鉱山、ケウワン遺跡でのギガース騒動……。

そこまで思い返した時、誰かが入ってきたことに気付く。

「あ、エルザさんでしたか」

「リシアさん……」

やって来たのはリシアだった。

「失礼しますね」

掛け湯をしたあと、リシアはゆっくりと湯船に身体を沈めた。

「はあ、いいお湯ですね」

「ん」

浴室の大きな窓からは外が見える。今見えているのは星空だ。

「エルザさん、おめでとうございます」

「……ありがとう」

「ちょっとだけ、うらやましいです」

「……」

ほろ酔いなのか、リシアの目はとろんとしている。

「ジンさんを、支えて上げて下さいね」

「リシアさん、あなた……」

何か言いかけたエルザを、リシアは遮る。

「ふふ、私がとやかく言うことじゃないですね。エルザさんは、ジンさんになくてはならない人ですもの」

そして目を閉じるリシア。

「リシアさん……ありがとう」

エルザも目を閉じてお湯の中で四肢を伸ばした。

それから2人はいろいろと話を交わしたのである。

* * *

あまりに遅いので心配したサキたちが見に行くと、のぼせかけたエルザとリシアがいたそうな。