軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30-26 決勝戦

『始め!』

試合開始の掛け声が発せられるや否や、2体は互いに飛び退いた。

互いに奇襲されるのを避けたのだろう。

が、飛び退いたその地点から、今度は逆方向へと飛び出す。つまり、互いの衝突コースだ。

がん、という木剣特有の衝突音が響く。

双方ほぼ同じ軌道で剣を振るった結果、顔の正面あたりで剣が交差。そのまま鍔迫り合いになる。

〈おおっ! 開始直後から白熱した展開です!〉

〈見たところ、力は互角のようですね〉

実際、『ファントム』と『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の力には、さほどの差はない。

せいぜい2割程度『ファントム』が上だという程度であろう。

だが、逆に『体重差』があった。

仁が推測したように、『ファントム』の重さは、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』よりも幾分軽かったのである。

重さの差は、押し合い時に意味を持つ。

軽い方が押し負けるのだ。

もちろん、軽くても押し負けないようにする技術は存在する。

が、今の『ファントム』は、『まだ』そういった技術を習得していなかった。

* * *

「うーん、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』、うまいな。というかドナルドの指示が適切なのか」

「ジン兄、解説して?」

独り言に反応したエルザのお願いに、仁は説明を開始する。

「えーとな、押し合う場合、足の裏と地面との摩擦力も大事なんだよ」

「ん、わかる気がする」

押し合うより引き合うことで考えるとわかりやすい。

同じ力で引き合うなら、摩擦力の高い方が勝つ。

「摩擦力は、摩擦係数と重さの積だ。地面は同じだから、仮にゴーレムの足の裏の摩擦係数が同じなら、重い方が摩擦力は大きい」

「確かに、そうなる」

「……で、引き合うときには難しかったが、押し合うとき、やや下から上に向けて押すことで、相手の押す力を利用して自身の体重が増えたのと同じ効果を出すことができるんだよ」

「ああ、なるほど」

「だけど、そういう技術を習得する機会がなかったからだと思うが、『ファントム』は使っていない。そして、やはり間違いなく、『ファントム』は軽い」

* * *

〈互角の押し合い! 手に汗握る展開です!〉

素早い攻防も目を楽しませてくれるが、こうした互角の鍔迫り合いもまた、見応えがある。

観客は皆、拳を固く握り締め、瞬きすら惜しんで2体を見つめていた。

『ファントム』は、このままでは不利と悟ったのか、突然に後ろへと飛び下がった。

人間なら、相手が不意に力を抜いたことで前につんのめるなど、バランスを崩すかもしれないが、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の反応は速かった。

わずかながらも崩れた体勢を狙われてはまずいと、身体を捻り、やや無理な体勢で横に跳んだのである。

そしてそれは正解だった。

一旦下がった『ファントム』は、再度前方へ突進し、剣を振り下ろしていた。

だがそこに『 古き戦士(アルトクリーガー) 』はおらず、斬撃は空を切る。

そして空振りはまた隙となる。

『 古き戦士(アルトクリーガー) 』は素早く横にステップし、剣を横に薙いだ。

『ファントム』は持ち前の反応速度でそれを防ぐ。

またしても膠着状態。

違うのは、前回が上段対上段だったのに対し、今回は『 古き戦士(アルトクリーガー) 』が横薙ぎ、『ファントム』が下段であることか。

〈先程の試合も素晴らしかったですが、やはり決勝戦ですね。言葉がありません〉

解説のトルフェデストが熱っぽい声で述べると、司会のエムサストンも同意する。

〈ですね。正に実力伯仲、決勝戦に相応しい一戦です〉

膠着状態は長くは続かず、双方同時に飛び退き、睨み合いに移行した。

* * *

「ははあ、2体とも……いや、『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の方はやっぱり出力をブーストしているんだな」

「ジン兄、もう一度解説お願い」

1人納得したような呟きを聞いたエルザは、またしても仁に質問した。

「うん、わかった。……『 古き戦士(アルトクリーガー) 』のパワーソースはおそらく『 魔素貯蔵庫(エーテルタンク) 』と『 自由魔力炉(エーテルドライバー) 』だ」

かつてのエレナにも使われていた動力源である。

「……『 古き戦士(アルトクリーガー) 』の動力源としては少し弱い?」

エルザが自分の見解を述べ、仁はそれを肯定した。

「正解。だから、連続して最高の動きをし続けるには出力が足りない。だからおそらく『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』を併用している」

通常状態における『 魔力素(マナ) 』の余剰分をそこに溜め込んでおき、必要なときに併用することで、『 自由魔力炉(エーテルドライバー) 』の出力以上のパワーを得ているのだろうと仁は説明した。

「鍔迫り合いの時がフルパワーで、睨み合いの時に溜め込んでいると考えていい?」

エルザの発言に、仁は満足そうに頷いた。

「それでいいと思う。違っていてもわずかだと思うし」

その時、 魔導投影窓(マジックスクリーン) の向こうで動きが変わった。

『ファントム』の動きが、一段と速くなったのである。

「おっ? 『ファントム』も何らかの方法で出力をブーストしているのか?」

魔導投影窓(マジックスクリーン) に向かって身を乗り出す仁。

「いや、違う。あれは……風を纏っているんだ!」

『ザーベラー』が使った、風魔法による防御と動作の補助。それを『ファントム』も使ったのである。

「やはり学習していたのか……」

仁は唸った。侮れない処理能力を持ったゴーレムだとの認識を新たにする。

しかし。

「おっ!」

『 古き戦士(アルトクリーガー) 』もさらにその速度を上げたのがわかる。

「こっちもまだ奥の手を隠していたか。さすがドナルド。元『アルファ』の意地だな」

仁が見たところ、外見や動作からは何が変わったかわからない。

「これはおそらく、予備の動力源として『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』をもう一つ余分に備えていたんだろうな」

「ジン兄、それって、あまり普及してないんじゃない?」

仁の解説内容に、エルザが質問をしてくる。

要は、予備の 魔力貯蔵庫(マナタンク) を積む、ということ自体は特別な技法ではなさそうなのに、実装しているゴーレムを見かけたことがない、というわけだ。

エルザ自身は 魔力貯蔵庫(マナタンク) 型のゴーレムや 自動人形(オートマタ) を作ったことがないので、そのあたりのことが今一つよくわからないのである。

「ああ、それには理由がある。一番の理由は『切り替え』だ」

「切り替え?」

「そう。単純化していうと、AとBという2つの 魔力貯蔵庫(マナタンク) を持っていたとして、どちらを使うかの選択をするには、 魔力素(マナ) の伝達経路を遮断したり開放したりする必要があるだろう?」

「ん」

「電気と違って、 魔力素(マナ) の場合、そう簡単にはそういった切り替えができないんだよ」

「……ああ……わかった。ありがとう」

『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』からの 魔力素(マナ) の供給は電線やスイッチのようなものを経由しているのではない。

ゴーレムでいえば、『同調』した 魔法筋肉(マジカルマッスル) や 制御核(コントロールコア) が半自動的に 魔力素(マナ) を受け取っているのだ。

ゆえに、過去、『ギガース』は礼子の 魔力素(マナ) を吸収することができたのである。

「例えば……」

必要な『 魔法制御の流れ(マギシークエンス) 』をエルザは考え考え口にする。

「同等な 魔力貯蔵庫(マナタンク) AとB、両方からの 魔力素(マナ) を使えるようになっていることを前提にして、普段はAからの 魔力素(マナ) 、その半分をBに充填するようにしておけば、結果としてAの 魔力素(マナ) だけが減って、Bの 魔力素(マナ) は減らない。で、いざという時は両方使う。……これって、どう?」

仁は嬉しそうに頷いた。

「凄いな、エルザ。それは簡単ではあるが、効果的な処理方法だよ」

誰にも教えられず、自分の知識と経験だけでその方法を考えついたエルザを仁は褒めた。

『 御主人様(マイロード) 、画面をごらん下さい』

老君の声に、仁とエルザは話すのを止めて 魔導投影窓(マジックスクリーン) に目をやった。

そこでは、ついに決着が付いていたのである。