作品タイトル不明
30-24 準決勝2戦目
〈さあ、準決勝第2試合が始まります!〉
〈これも注目の試合ですね。明らかな速度型の2番『ザーベラー』と、これまで総合力の高さを見せつけてきた41番『ファントム』の2体。どんな試合になるか見当も付きません〉
〈2番はショートソード、41番はグレートソードですね〉
〈2本の剣を使うかと思ったのですが、違いましたね〉
〈演武と実戦では違うということでしょうね〉
人間用の片手剣がショートソード、両手剣の巨大なものがグレートソードといっていい。
その大きさは、柄を含めてショートソードがおおよそ70センチ、グレートソードが150センチである。
倍以上、大きさに違いがあるが、それだけでどちらが強いとか有利だとかは断定できない。
武器というものは使う者と使う場面によって効果が変わってくるものだからだ。
速さを武器にした『ザーベラー』ならば、ショートソードの特性を十二分に使いこなせるだろうし、『ファントム』の力ならグレートソードをショートソード並に扱えるだろうと思われた。
『始め!』
試合開始の掛け声と共に、『ザーベラー』は飛び出した。
そして横薙ぎ。上段から振り下ろす『唐竹』よりも攻撃範囲が広い斬撃である。
が、『ファントム』は余裕を持って右へ飛び退き、それをかわした。
『ザーベラー』はそれを追撃しつつ『袈裟』・『逆袈裟』、つまり斜めの切り下ろし二連撃を加えた。
対する『ファントム』は、一撃目の『袈裟』はかわし、二撃目の『逆袈裟』は手にしたグレートソードでいなした。
* * *
「うーん、まずい攻撃だな」
蓬莱島にいる仁は思わず呟いた。
「ジン兄、どういうこと? ジン兄は戦闘技術に関してはそれほど詳しくない、はず」
いつの間にか隣に来ていたエルザが尋ねる。
「え? ああ、俺は武術に関しちゃ素人だが、この攻撃パターンがまずいというのは純粋に技術的な話だからさ」
と前置いて、仁はその理由を説明する。
「あの『ファントム』は、見た動作を解析するのが得意だ。ということは……」
「そのうち対応されてしまう、ということ?」
「そのとおり。だからあの場合、『ザーベラー』は向こうに攻撃させ、それをかわして、できた隙を攻撃すればよかったんだよ……と、俺ならそう指示する」
『 御主人様(マイロード) 、それで正解だと思います。現に、『ファントム』の動きは徐々によくなっていますから』
老君の言葉を聞き、仁とエルザは改めて 魔導投影窓(マジックスクリーン) に注意を戻した。
そこには、『ザーベラー』以上の身のこなしで試合場を縦横無尽に文字どおり跳び回る『ファントム』の姿があった。
* * *
〈圧巻の試合ですね、トルフさん〉
〈ええ、はじめは2番がその素早さで一気に畳み掛けるかと思われましたが、41番はさすがの粘りで猛攻に耐えましたね。そして持ち前の対応性で、既に2番に負けない素早さを発揮しています〉
解説の言葉どおり、41番『ファントム』は、試合開始直後とは比べものにならない身のこなしを身に着けていた。
〈ですが、2番『ザーベラー』、その『魔術師』という名を持つからには、まだ何か隠し球があるのではないかとも想像しますね〉
〈なるほど。トルフさんの想像としては、決勝にとっておくはずの『隠し球』、この準決勝で出さざるを得なくなるということですね?〉
その言葉どおり、2番『ザーベラー』の製作者、エゲレア王国のヤルイダーレは、試合場の脇から大声で指示を飛ばした。
「『ザーベラー』! 行け!」
その短い言葉だけで十分だった。
『ザーベラー』は、その身の回りに『風』を纏ったのである。
風そのものは見えないのだが、巻き上げられた砂や埃のため辛うじて見えている。
〈おおっ!? こ、これは?〉
〈風魔法ですね。ゴーレムが使えるということは驚きです〉
攻撃手段として、火属性魔法の『 火の玉(ファイアボール) 』や『 火の弾丸(ファイアバレット) 』を『発射』することのできるゴーレムは確かにある。
だが、自分の『意志』で魔法を扱い、高度な制御ができるゴーレムはごくわずかだ。
(この『わずか』の中には、仁のゴーレム以外に、旧 統一党(ユニファイラー) の万能ゴーレムなども含まれる)
〈採掘場で運用されるゴーレムなどに土属性魔法『 掘削(ディグ) 』を使えるように設定されたものもありますが、それは設定どおりにしか発動できません。このように、自分の動きに合わせて発動できるというのは確かに 魔術師(ザーベラー) ですね〉
〈なるほど。大会規約では、ゴーレムが魔法を使ってはいけないとは書かれていませんからね〉
〈そういうことです〉
* * *
「なるほど、あの風によって相手の剣を逸らす訳か」
画面を見ていた仁が独りごちた。
グレートソードといっても、材質は木であるから、大きさのわりに軽い。むしろ風を受ける面積が大きい分、不利かもしれない。
「あの『ズィンゲル』を作った技術者だけあって変わったことをするなあ」
『歌うゴーレム』を作ったヤルイダーレ、今度は風魔法を操るゴーレムを作ったようだ。
「それはともかく、大会規約には『魔法を使ってはいけない』と書かれていないんだから、いい手ではあるよな」
そもそも魔法を行使できるゴーレムが稀少であること、また、魔法を使えるというのもそのゴーレムの特性であることを考えれば、違反になることはないだろう。
ただし、魔法での勝利は防具に痕が残らないから得点は付かないだろう。
……と、一応審査員長である仁は自分の意見を述べた。
そしてその間にも、試合の状況は変化していた。
* * *
〈これはすごい! お見事! 2番『ザーベラー』、風を纏って相手の剣を逸らしております!〉
〈そして自分は、風の向きに合わせた攻撃を繰り出していますね〉
これにより、形勢は逆転。今は『ザーベラー』が有利である。
風によって攻撃を逸らし、自分の攻撃は風を利用して速度を上げる。
移動にも『追い風』を利用しているらしく、その速度は先程までよりさらに速い。
そして当然、相手の『ファントム』には向かい風になるため、踏み込み速度を鈍らせる効果も生まれている。
誰もが、勝負は決まった、と思った。
その矢先。
〈おおっ!〉
司会のエムシィが思わず叫び声を上げ、
「すげえ!」
「凄い!」
観客も驚きの声を上げた。
『ザーベラー』の頭部に『ファントム』の一撃が入ったのである。
〈ついに決着が付きました! 勝ったのは41番、『ファントム』!!〉
割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
* * *
「風は所詮風、か」
蓬莱島で観戦していた仁が呟いた。
「発想はいいんだがな、運用が今一つだったしな」
試合場では、吹き付ける風をものともせずに、強引な力業で『ザーベラー』の頭部に一撃を入れた『ファントム』の姿があったのだ。
「ジン兄、運用って?」
仁の呟きを聞きつけたエルザが、またもや質問してきた。
「ああ、『風』っていうのは空気の流れだから、『質量』が小さい。だから重いもの、つまり質量の大きいものに対する効果が低いだろう?」
「ん」
「ならどうするか、という話だよ」
仁はそこで言葉を切り、エルザの顔を見た。仁としては今のエルザの知識なら、正解に辿り着けると思っている。
「……」
エルザは少し考えたあと、思いついたことを口にする。
「もしかして、風速?」
「当たりだ」
仁は満足そうに頷いた。
「確か、空気抵抗っていうのは速度の二乗に比例したはずなんだ。だから、風速を倍にすれば、効果は4倍になるはずなんだよ」
画面から推測した、『ザーベラー』が纏った風は時速100キロくらい。風速で言うと秒速28メートルくらいとなる。
台風の風速で考えると、まだ十分ではないということがわかる。
重さを考えると、自動車が横転する以上の風速ということで、風速80メートル、つまり時速290キロくらいの風を吹かせられれば、『ファントム』といえど吹き飛ぶか転倒するだろうと仁は説明したのであった。
いよいよ、間もなく決勝戦である。