軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-20 リベンジャー

その男は元貴族だった。

侯爵家の3男に生まれ、何不自由なく育った。家は兄が継ぐ故、比較的自由に育てられた。

魔法の才能には乏しかったが、勉強は良くできた方であった。

だが、いつの頃からか歪みが生じる。

最初は、与えられた玩具を遊んでいる最中に壊した時だった。

叱られると思ったがそんなことはなく、すぐに新しい玩具が与えられた。

しばらくしてその玩具に飽きた子供は、わざと玩具を壊してしまう。

そうしたらやはり叱られることはなく、新しい玩具が与えられたのだった。

勉強は家庭教師が付ききりで教えた。

頭は悪くなかったため家庭教師達はベタ褒めし、彼は教師の言を信じた。

立場故、彼に挑もうとする者はおらず、それは彼の根拠のない自信を育てる。

甘やかされた心は増長し、おべっかを聞き続けた耳は諫言が聞こえなくなる。失敗を知らない自我は己を過信する。

金の浪費を憶え、女を弄ぶことを知り、弱者をいたぶる事に愉悦を感じる。

そしていつの頃か、侯爵家が欲しいと思うようになった。

彼はそのために何をすべきか考えを巡らす。

男はそんな歪んだ内面を巧みに隠し、他人にはちょっと気障な男を演じて見せることを覚えた。

そして弱冠20歳にして領主補佐の地位を手に入れる。

それと時を同じくして、男に謎の協力者が現れ、新たな『力』をくれた。

金、女、権力。その次に男が得たもの、それはすなわち暴力であった。

代償は、簡単なこと。

男の権力と財力を使い、とある宝石を、とある組織から、とある別の組織へ流すだけ。

何も問題はない、筈であった。

だが、1年前、初めて失敗の味を知った。

宝石は国の専売であった。故に疑問を持たれ、当局の追及に遭う。

取引に使われた証書は、たまたま目に付いた、変わった形の船に隠した。すぐに回収し、証拠隠滅するはずだった。

しかし、そこに 齟齬(そご) が生じる。

その船は消えてしまっていた。

再度見つけた時は、地元の有名な競技に出場すべく、公の目に触れる場所にその船は浮かんでいたのだ。

船を手に入れるか、最悪船ごと証拠を消すか。

そのいずれも失敗した。思った以上に相手は強敵だったのだ。

失敗の味は苦い。

男はその苦渋を味合わせた者へ復讐を誓う。逆恨みであるとは微塵も思っていない。

その相手の行動はすぐに知ることが出来た。帰国する貴族に同行してその国へ行くという。

謎の協力者は、男に更なる『力』を与えてくれた。

これで憎い相手に復讐できる。

その相手の名は『ジン』と言った。

* * *

国境の砦を通り抜けた馬車は、なだらかな道を下っていった。

「その先にある谷を過ぎれば、半島から大陸へ抜ける」

エルザがそう言って教えてくれた。

街道は、切り立った岩と岩の間に続いており、その間隔が最も狭まる場所がこの先にあるという。

これは魔導大戦の折、魔族の侵攻を防ぐためにこのような道の付け方をしたらしい。

それが最後の難所で、あとは平坦な土地に付けられた街道をのんびり進むだけだ、とエルザは説明した。

「ブルーランドはどんな町なんだ? 俺は中に入ったことないから教えてほしい」

そう仁が言うと、エルザはちょっと考えてから、

「ブルーランドは城塞都市。エゲレア王国の経済の中心」

と説明を始めた。

ブルーランドからは四方へ街道が延びており、周囲の都市や町、村との交易が盛ん。

更にはエリアス王国との貿易窓口でもあり、領主であるブルウ公爵はエゲレア王の従兄である。

周辺の土地は農場・牧場、そして鉱山に分かれており、それぞれ2人の伯爵が治めている。

そう言って言葉を切り、

「私は説明が下手。でも何か聞きたいことがあったら何でも聞いて」

と締めくくった。

何となく気になった仁は、

「その、……伯爵の名前ってわかるか?」

と聞いた。エルザはすぐに、

「農場と牧場のある土地を治めているのがクズマ伯爵。鉱山は確か……ガラナ伯爵だったと思う」

内心仁はやっぱり、と思った。まあ、ガラナ伯爵には顔を知られてはいないし、何とかなるだろう、とも思う。

その時、馬車が急停止した。考え事をしていた仁はあやうく席から転げる所だったが、礼子が即座に仁を支えてくれたので落ちずに済む。

「どうしたの?」

エルザが御者に尋ねると、

「お嬢様、落石らしいです。道を塞いでしまっているようで」

「え?」

窓を開け、前方を見ると、確かに大きな岩が前方を塞いでいる。

仁もそれを見、礼子と共に馬車から降りた。

1つ前の馬車のラインハルトも降りてきてその岩を見る。

高さ3メートル、幅も3メートル。街道の幅もちょうどそのくらい、両側の切り立った岩の高さは20メートルくらい。

どかすにしても、どかす先が見あたらない。

「これはまいったな」

ラインハルトがぼやく。仁もこれは普通にどかすことは出来ないだろうと思い、礼子に何か言おうとした時。

「ジン、僕のゴーレムも見せてあげよう!」

ラインハルトがそう言い、後方の荷物を積んだ馬車へと近づき、

「 起動せよ(ウエイクアップ) !」

魔鍵語(キーワード) を口にした。

荷馬車の覆いが外れ、人型が身体を起こす。

身長2メートル、漆黒のゴーレム。

「立て、『 黒騎士(シュバルツリッター) 』」

ゆっくりとゴーレムが荷馬車から降り、立ち上がった。

「ジン、これが僕の『 黒騎士(シュバルツリッター) 』だ。 古代遺物(アーティファクト) であるレーコ嬢には及ばないかも知れないが……」

ラインハルトがそう言いかけた時、後方から地響きが聞こえた。

「何だ!?」

振り向くと、立ち上る砂埃の中、2体のゴーレムが見えた。崖の上から飛び降りてきたらしい。

20メートルはある崖から飛び降りて何ともないということは、かなり高度なゴーレムである。

そのゴーレムはいきなり、最後尾の食料を積んだ馬車を殴りつけた。一撃で馬車は破壊され、積んであった食料、水などが飛散する。

「何をする!」

ラインハルトはすかさず 黒騎士(シュバルツリッター) を向かわせる。

「 黒騎士(シュバルツリッター) ! 奴らを止めろ!」

「 はい(ヤー) 」

短い返事を残し、 黒騎士(シュバルツリッター) は2体のゴーレムへと向かって行った。

相手のゴーレムは身長は 黒騎士(シュバルツリッター) と同じくらい、色は鈍い銀色。だがその外見は、仁が良く知るものであった。

「あれは……」

仁がカイナ村にいた時、納税の際に襲ってきたゴーレムと同類。だが、その動き、力は当時のものとは段違いである。

だが、ラインハルトの 黒騎士(シュバルツリッター) も、ただのゴーレムではない。

自律型のみに出来る動きの柔軟さで、2体のゴーレムを1体ずつ相手取る事に成功する。

まず1体の後ろに回り、強烈な蹴りを叩き込んだ。そのゴーレムは馬車から離れる方向へと吹き飛ぶ。

残った1体へ 黒騎士(シュバルツリッター) は迫る。相手は両手を伸ばし、掴み掛かってきた。

黒騎士(シュバルツリッター) はその腕を躱し、背後に回りゴーレムを捕まえ、そのまま頭の上に高々と持ち上げた。

「よし、そのまま投げ飛ばせ!」

ラインハルトの指示を待つまでもなく、 黒騎士(シュバルツリッター) は迫り来るもう1体のゴーレム目掛け、持ち上げていたゴーレムを投げ付けたのである。

それを見た仁は、まずは自分とエルザの安全を優先することにし、礼子にも、危険になるまで攻撃はせず守りに徹するよう指示を出したのだった。