作品タイトル不明
30-17 アマルガム
「あのゴーレムを調べられればなあ……」
今は『 ゴーレム競技(ゴンペテイション) 』の真っ最中、各ゴーレムは不正を行われないよう、大会実行委員の方で厳重に管理されている。
もちろん、蓬莱島の力をもってすれば、そんな警備はザルに等しいのだが、万が一ということもある。
さらに言えば、大会役員・審査員が個人的に参加者に接触するのも厳禁とされていた。もちろんこちらは採点などの不正を防ぐためである。
「せめて接触できれば……」
そこに、礼子が助け船を出した。
「お父さま、今夜中は無理ですが、明日は模擬戦があります。その際、対戦相手とは接触することになるはずです」
「ああ、なるほど。その時にデータは集められるか……どうやろうかな」
一番は、40番、ドナルド・カローのゴーレムにそういった分析装置をくっつけることだ。
「でも見つかったら面倒」
「だよなあ」
「何か不正をしているんじゃないかと勘ぐられてはまずいし、相手のデータを分析するものですと正直にいうのはもっとまずい」
「……わたくしなら、数秒対戦すれば大方のことはわかるのですが」
「礼子、お前と他のゴーレムを同列に考えては駄目だ」
なかなか悩ましい状況である。
「明日、模擬戦にジン兄も参加したら?」
そこへ、エルザからのアイデアが飛び出した。
「なるほど……模範演技、とか何とかいってちょっとだけ参加するのか」
「うん。それなら可能性は高いと思う」
「だな」
だが、ここで一つ問題が。
「ゴーレムをどうしよう」
である。
「今から準備すれば?」
エルザが言った。まるでタンスから着替えを出せばいい、というような気軽さで。
「それしかないかな」
そして仁もそれに頷く。
「お父さまならすぐ完成できます!」
最後に、仁の愛娘が背中を押した。
「よし、ちゃっちゃと作ってくる」
仁は、非常用に持って来ている『転送装置』を取り出した。
今回持って来たのは、500メートルの範囲で指定先へ転移できる魔導具だ。マーカーは『コンロン3』の船内にセットしてある。
仁は『コンロン3』、『しんかい』、そして蓬莱島へと転移した。礼子はエルザの護衛のために残してきた。
『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 』
老君の声が出迎える。
仁は工房へと向かいながら考える。
「そうか、スチュワードがいたな」
『スチュワード』は、仁が作った万能ゴーレムである。執事、御者、雑用その他、なんでも一通りこなす。
「ええと、今は……」
『コンロン3』の操縦は元蓬莱島 隠密機動部隊(SP) の何名かが担当している。今回はパンセとビオラだ。
今は、馬車と共に出番がなくなって、ショウロ皇国ロイザートの屋敷にいるはずであった。
「よし、スチュワードを呼び寄せて改造しよう」
仁としても、今回の目的『だけ』にゴーレムを作るのはどうにも気が引けたというか、気になっていたのである。
『スチュワード』は 転移門(ワープゲート) を使い、すぐにやって来た。
「オヨビデスカ、ゴシュジンサマ」
普段はやや愚鈍を装わせるため、こういう口調にセッティングされているのだ。
「ああ。明日、お前に頼むことがあるかもしれないんでな。少し改造したいと思う」
「ワカリマシタ」
そして仁は作業に取りかかった。
作業台に『スチュワード』を横たえ、一旦分解。
「……骨格は、重さは変えないようにして、と……」
18ー12ステンレスからマギ・アダマンタイトに変更。もちろん、中空にし、内部はハニカム構造として強度を保つ。
結果的に、最小で2倍、最大(魔力付加時)で10倍の強度が得られる。
「筋肉組織はどうするか……」
ここで仁は悩んだ。今までどおり生体ベースの素材にするか、先日来考えていた素材を使うか。
そして、まず実験をしてみることにする。
助手は、礼子がいないので 職人(スミス) 1と2だ。
「ベースは水銀を使う」
取り扱いには要注意、である。
「これにミスリル銀を溶かし込んで、アマルガムを作る」
アマルガムとは、水銀と他金属の合金である。
現代日本でも昭和頃……1970年代くらいまでは、歯の充填剤として『銀錫アマルガム』が使われていたこともある。
また、金アマルガムを銅像に塗り、加熱(摂氏350度程度)することで水銀を蒸発させ、金のみを残すことで金メッキを行ってもいたようだ。
合金化すると液体でなくなる組合わせと、液体のままである組合わせがあり、歯科医用のアマルガムは前者、金アマルガムは後者である。
また、水銀と他金属の比率によっても変わる。
仁はまず、液体状で、なおかつ魔力に反応しやすい合金を作ろうとしていたのである。
「うーん……やっぱりミスリル銀が多いと硬い合金になってしまうな……待てよ?」
突然に閃いた。
原子番号47の銀、その原子核を構成する中性子の幾つか、もしくは全てが魔力子に置き換わったもの、と仁は考えている。
ならば、水銀の原子核中の中性子を魔力子に置き換えることができれば……!
そこまで考えた仁は、珍しく諦めた。
「……今すぐは無理だ」
さすがに、原子核に影響を及ぼすような工学魔法はないし、魔導具を作るにしても、今夜中にはとても無理である。
そして、そういう『時間に追われた』状況での研究が、ろくな実を結ばないことも過去の経験で知っていた。
「近い将来への課題とするか」
仁は、今回は素直に生体系素材での筋肉にすることに決めたのであった。
水銀を片付け、中断していた作業を再開する。
「それじゃあ、礼子よりは劣るが、 海竜(シードラゴン) 素材を使うか」
その昔礼子に使った際、一番良い部分を使ってしまったが、上級と呼んで差し支えない素材はまだまだ沢山ストックしてある。
それらを使い、 魔法筋肉(マジカルマッスル) に仕立てていく。
「魔導神経は予備回路も入れて2系統配線しよう」
「……ああ、まだ 魔素変換器(エーテルコンバーター) を使っていたか。これも 魔力反応炉(マギリアクター) に交換しよう」
「 力場発生器(フォースジェネレーター) も装備させて、と」
「肝心なのは 制御核(コントロールコア) だな。マルチコアにして、解析・分析能力を強化しよう」
今回の改造、その一番の目的がこれである。
処理能力が足りなければ、解析や分析などおぼつかないのである。
「あと、強化しておくのは 封鎖筐体(シールドケース) だな。万が一ということもあるから」
『隷属書き換え魔法』による乗っ取りは最も警戒すべきことである。
「よし、これで外装は元の18ー12ステンレスにして、と。これにも『 強靱化(タフン) 』と『 硬化(ハードニング) 』を念入りに掛けておこう」
『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』である仁が使う『 強靱化(タフン) 』や『 硬化(ハードニング) 』は、一般の 魔法工作士(マギクラフトマン) が使うそれとは雲泥の差がある。
最大で4倍の差があるといっていい。
こうして、仁による『スチュワード』の強化改造は終了した。