軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  016 吸収/間奏2

得た、というか掴み取った機会を見逃すようなアドリアナではない。

一通り、素材の特性を掴んだアドリアナは、次の段階として魔導具の研究に取りかかった。

段階を踏む、というのは、かつて父シュウキから学んだことである。

そして、保管庫内の展示物はきちんと整理整頓されており、アドリアナの要望に応えるかのように、難度別に並んでいたのであった。

(というより、初級が手前で高度なものほど奥になるよう配置されているだけよね)

冷静に判断し、手前のものから順に調査を行っていく。

サイトス邸の蔵にあったものよりも、全体的に見て大型の魔導具が多いようだ。

個人持ちのものと氏族全体のものとの差であろうか。

「これって……こっちの魔導具と魔力的な繋がりがあるわね」

大きくて平べったい四角い箱と、直径10センチ、長さ30センチほどの筒を交互に見比べながら、アドリアナは呟いた。

「それは何に使うものかわからないのです。説明書きも紛失してしまって」

バシャーコが補足説明を行う。

それ聞いたアドリアナは、さらに解析を進めていく。

「……ここの 魔導式(マギフォーミュラ) は『 転移門(ワープゲート) 』のにちょっと似ているわね。もしかして……この筒と箱は『繋がって』いる?」

アドリアナの鋭い視線は 魔導式(マギフォーミュラ) の流れを追っていき、そして……。

数分の後。

四角い箱が光を放った。

「なっ……」

見ていたバシャーコは仰天した。

「……やっぱり。ほら、バシャーコさん」

筒を手にしたアドリアナは、それをバシャーコに向ける。

「ええっ!?」

さらに驚くバシャーコ。

四角い箱には、驚愕を貼り付けた己の顔が映っていたのだから。

箱は鏡ではない。鏡なら左右が逆になっているはずだし、正対しなければ自分の顔が映るはずもない。

だが、箱は僅かに斜めを向いていたし、映っているバシャーコの服の胸ポケットは左右反転してはいなかったからだ。

「これは、この筒を向けた先の風景を映し出す箱ですよ」

アドリアナは、かつてシュウキに『テレビジョン』というものの存在を聞かされたことがあった。

だから魔法で同じようなことができると知って喜んでいる。

だが、バシャーコは 古代遺物(アーティファクト) の一つが、こうしてその使い途がわかったことに驚き、さらにはそれを成したのが外からやって来た年若い技術者であることに、驚きを重ねていた。

* * *

「『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』と『 魔導監視眼(マジックアイ) 』とでも呼びましょうか」

今、保管庫の前には大勢の『森羅』氏族が集まっていた。

皆、 古代遺物(アーティファクト) が動いたということで、一目見ようと集まってきたのである。

「……あ、あの、どうしたんですか、この方たち」

「ああ、気にせんでくれ。単に 古代遺物(アーティファクト) の使い方がわかったと聞いて集まってきただけだ」

「そ、そうですか」

アドリアナも、理由が分かれば必要以上に臆することはない。元々『 賢者(マグス) 』と共に人前で講義をしていたこともあったのだから。

「ええと、こっちの『 魔導監視眼(マジックアイ) 』を向けると、その先の景色がこっちの『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』に映ります。距離は今のところ関係ないようです」

おおー、というような歓声が上がる。

「では、別の映像を」

『 魔導監視眼(マジックアイ) 』を受け取った保管庫の担当者、ヘルムトスは走って遠ざかっていく。

手にした『 魔導監視眼(マジックアイ) 』はできるだけ揺れないように保持しているが、やはり映像は小刻みに上下していた。

じっと見続けていたら酔ってしまいそうだが、1分ほどで揺れは収まった。ヘルムトスが立ち止まったのだろう。

それまで『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』に映っていた映像は右へ曲がり左へ曲がり、ヘルムトスが辿っている道を克明に映しだしていた。

「ほほう、これは便利だ」

「面白いですね」

「監視にも使えるな」

人々は皆、新たに使い方のわかったこの 古代遺物(アーティファクト) を歓迎していた。

「お客人、感謝する!」

「アドリアナ殿、ありがとう!」

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、万歳!」

ここに、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』、アドリアナ・バルボラ・ツェツィは、『森羅』氏族の信頼を勝ち得たのである。

* * *

アドリアナは、この『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』と『 魔導監視眼(マジックアイ) 』の再現にも成功する。

原理的には『 転移門(ワープゲート) 』に通じるものがあったため、理解と応用は比較的楽であった。

純度の高い闇属性の 魔結晶(マギクリスタル) を、円柱状に加工後、できるだけ同じ大きさに 二分(にぶん) する。

これにより、2つの 魔結晶(マギクリスタル) 間には『魔力的な繋がり』ができる。

これを利用して、別に用意した光属性の 魔結晶(マギクリスタル) で映像を取り込み、送り出し、離れた場所で映像を再生するのだ。

「面白いやり方ね……」

アドリアナとしては、映像の取り込み、送り出しよりも、再生方法の方が興味深かった。

入力側の『 魔導監視眼(マジックアイ) 』は外装の直径が10センチ。その先端に取り付けられた光属性の 魔結晶(マギクリスタル) は直径2センチ弱だ。

対して出力側、『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』は横幅70センチ、縦50センチくらいある。

「ああそうか、人間の目よりも遙かに緻密なんだ」

『 魔導監視眼(マジックアイ) 』側の解像度が十分あるため、このくらい拡大してもまったく問題ない、ということにアドリアナは気が付いた。

「ということは、ゴーレムや 自動人形(オートマタ) の目で見たものを映し出そうと思えば可能なのよね……」

などと、応用方法も考えていくアドリアナであった。

この『 魔導投影窓(マジックスクリーン) 』と『 魔導監視眼(マジックアイ) 』を皮切りに、アドリアナは次々に保管庫内の 古代遺物(アーティファクト) 級の魔導具を解析・再現していった。

アドリアナ自身もその技術をものにでき、己の向上に繋げたし、『森羅』氏族としても保管しているだけの魔導具が役に立つようになるのだから、まさにWINーWINであった。

この時アドリアナが修理した 古代遺物(アーティファクト) 、魔導具は実に38点に上った。

そしてその分の技術的知識が彼女のものとなったのである。

* * *

「……だ、そうだ」

2冊目の日記を閉じながら仁が静かな声で言った。

「先代が飛び抜けた技術を持つに至ったのは、今でいう『魔族』のところで 古代遺物(アーティファクト) を解析したからなんだなあ」

仁は、かつて魔族領に行った時、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』という称号が広く知られていたことに驚いたものだが、こうやって先代の 足跡(そくせき) を知れば、それも納得である。

『森羅』のシオンやイスタリスが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) を知っていたのも当然。

このような形で先代が関わっていたと知り、驚くやら感心するやら。

「先代の頃には偏見というか、確執もなかったんだね、ジン」

サキも、仁同様に静かな声で言った。

「ああ、そうだな。なぜ、どうして、『魔族』なんて名称で呼ぶようになったのか」

そこまでは先代の記録も教えてはくれそうもない。

「さて、今日はここまでにしよう」

気が付けば、午後2時近い。

昼食を摂ることも忘れ、先代の記録を読むことに没頭していたのだった。

仁たちは書斎を出た。そして、サキが仁に告げる。

「ジン、今日はありがとう。先代 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) のことを知ることができて嬉しいよ。でも、この先の記録を読むのなら、仁1人……いや、レーコちゃんと2人だけにしておいた方がいいんじゃないかな」

「え?」

「私も、そう思う。先代の 足跡(そくせき) は、あとで教えてもらえれば十分」

エルザもサキに同調した。

「あたしもそう思うよ、おにーちゃん。先代さんの記録は、おにーちゃんだけが読む資格があるんだから」

「くふ、昨日からの流れで、ボクたちも同席させて貰ったけどね、ここはやっぱり、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だけの聖域だよ」

「同感」

「みんな……」

仁は、3人の心遣いが嬉しく、自然に頭を下げていた。

「ありがとう、3人とも。この先の記録は、俺が読んで、その内容をまとめ直してから知らせるよ」

「ん、それがいい、と思う」

「ボクもそれでいいよ。そして教えるならラインハルトやヴィヴィアンさんたちにも、だね」

「おにーちゃん、待ってるから」

こうして、この先の記録は仁が読んだあと、まとめ直してから仲間たちに伝えることになったのである。