軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

過去篇 肆 アドリアナの冒険  002 雨の日

ゴーレムFー002と共に浜辺へ戻ったアドリアナは、早速改造に取りかかろうとした。

その時、彼女のお腹が可愛らしい音を立てた。

「……その前に軽くお昼を食べないとね」

積んである保存食である乾燥させたパンを、魔法で作ったお湯に浸して食べる。時間のない時に彼女がよくやる食べ方だ。

「ふう、味はともかく、お腹は膨れたわね」

食休みもせず、アドリアナは今度こそ改造に取りかかった。

「まずは補強ね。鉄だから、外側には使えないわね。内側に使わないと」

独り言を呟きながら、アドリアナは鉄を『変形』させていく。

それをゴーレムたちに運ばせ、船内部の要所要所に取り付けていった。

「ふう、こんなものかしらね。……『 強靱化(タフン) 』」

最後の仕上げとして、強化魔法を掛けて終了。

「錆が怖いけど、数日なら保つでしょう。そのうちに金メッキか何かしたいわね」

気が付くと、かなり日が傾いていた。

「今夜はここで泊まりね」

少し早いが夕食の仕度を始めるアドリアナ。

工学魔法で 竈(かまど) を作り、魚を焼く。もちろん、シュウキに釣りを習っていた彼女が航海中に釣った魚だ。

『 冷凍(フリーズ) 』を使い、瞬間的に凍らせているので鮮度は保たれている。

『 冷凍(フリーズ) 』は水属性魔法中級の上。対象物をおおよそマイナス70℃まで下げることができるのだ。

まずはお湯を沸かす。大麦のお粥を作るつもりだ。

湯が沸き、大麦を鍋に投入した頃、魚を焼き始める。

夏の夕日に照らされながらアドリアナは夕食の仕度をしていくのだった。

夕食を食べてしまえば、あとはもうすることとてない。

アドリアナは、ゴーレムMー002を見張りに立て、船内の寝台に横になった。

これは、ハンモック式、といえばいいか。

幅1メートル、長さ2メートル、高さ1メートルほどの寝台が、部屋の天井から吊り下げられ、揺れの影響が少なくなるように工夫されているのだ。

アドリアナは毛布を掛け、目を閉じた。

が、すぐに眠れるはずもなく。

今日あった、いろいろなことを頭の中で反芻していく。

ゴーレムを見ても余り驚かなかった村人。でも一番印象的だったのは鍛冶屋である。

魔法工学を知らなかった鍛冶屋の親方。

工学魔法を見て驚いていた親方。

屑鉄をくれた親方。

(まだまだ、『魔法工学』の知名度は低いのよね……)

だが、アドリアナは、シュウキの後を継ぎ、自分が魔法工学を教える立場になろうという気はさらさらなかった。

(あたし、教えるの下手だものね)

そう、彼女は、人に教えるのが苦手、いや、下手だったのだ。

天才にありがちな、感覚的な説明、そして説明下手。

それゆえ、彼女はシュウキ亡き後のことを、彼の高弟たちに丸投げして飛び出してきたのである。

(あたしはあたしで、お父さまの目指した高みを目指すわ)

それでも、今日出会ったあの親方は、アドリアナが作った包丁に驚いていた。

「魔導具だけじゃなくて、ああした生活道具を作るのもアリなのかしら」

声に出して呟いてみる。

「ああした物を作るのって、あくまでも練習としてしか見ていなかったけど……」

全部を作るのでは仕事を奪ってしまうことになるが、例えば材料を揃える、という作業は、工学魔法を使えばより早く、より品質のよい物を揃えられる。これは新たな認識であった。

(そうすると……)

そんなことを考えているうちに睡魔に襲われ、アドリアナはいつの間にか眠ってしまっていた。

* * *

翌日は朝から雨がしとしと降っていた。この季節には珍しい雨である。

「少し寒いわね。霧も出てるし、今日は海に出ない方がよさそうね」

かなり北上していたので、夏とはいえ冷たい海霧が発生することもある。

現代日本でいう『やませ』に相当するものだ。

「暖房付けてなかったわね……ちょっと寒いかな」

とりあえず、空気取り入れ口を開閉式にすべく、改造しようとしたその時。

見張りを任せていたMー002の声がした。

「ご主人様、お客様です」

「あら? 誰かしら」

手を止めて、アドリアナは船の外に出てみた。

そこには、昨日、村の入口で出会った中年男性が傘を差して立っていた。

因みに、使われている傘は、円盤の中心に棒を立てたようなもので、開いたり 窄(つぼ) めたりはできない。見かけは軸の細いキノコだ。

「これはまた、すごい船ですなあ」

開口一番、彼はそういった。

「今日は霧が出ているので、どうしているかと思い、様子を見に来たのだが……これはまた、なんとも」

全長10メートルの船は巨大船である。

だが、意外と驚きが少ないような気がする、とアドリアナは感じていた。

初めてこれだけの船を見たなら、もう少し驚いてもいいような気がするのだ。

(そういえば、ゴーレムを見てもそれほど驚いてはいなかったわ。意外と、こうした魔法技術に通じているのかしら?)

少し警戒するアドリアナ。

「もしよかったら、うちへ来ないかね? これでもシーコ村の村長をやっておる。私はメウトという」

「あ、アドといいます。ありがとうございます」

少し考えた末、アドリアナはその申し出を受けることにした。

寒かったし、久しぶりにゆっくりしたかったのだ。

やはり船の中というのは長期間生活するところではない。特に年頃の娘にとっては。

着替えなどの手荷物を用意し、昨日と同じくFー002に伴を命じ、アドリアナは雨の中、シーコ村へと向かった。

傘を持たないアドリアナは液体を防ぐ『 障壁(バリア) 』を張って。

「ほう、魔導士という方々が羨ましいですなあ」

その様子を見た村長メウトは、今度こそ感心したようである。

村長の家は村の中心部にあった。

家族は、奥さんと娘2人、の4人家族だ。

奥さんはバイセといい、小柄で少し恰幅のいい、いかにもおかみさん、という雰囲気の人だった。

だが、言葉や物腰はおっとりとして、お嬢様然としている。ギャップがすごい、とアドリアナは内心で苦笑した。

「わあ、お客さん?」

「きれいー! きんぱつー!」

娘は、上がマルルでアドリアナと同じ18歳、下がクルルで11歳ということだった。

2人とも髪の毛は茶色で母親のバイセに似、目の色は灰色で父親のメウトに似ていた。

「よろしく。アドって呼んでね」

「うん、アド、よろしくね」

「アド!」

3人はすぐに仲良くなった。姉のマルルはおっとりしており、妹のクルルはお転婆なようだ。

「あれ、クルル、膝を怪我してるの?」

アドリアナはクルルが右の膝に布を巻いているのに気が付いた。クルルはちょっと恥ずかしそうに頷く。

「うん、昨日転んでぶつけちゃった」

よく見ると右手の平にも擦りむいた跡がある。

「ちょっと見せて」

布が巻かれていない部分が少し腫れているような気がしたアドリアナはそう言ってクルルの膝に巻かれた布を 解(ほど) いたのである。