軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-36 閑話58 七夕

7月7日。

「というわけで、今夜は七夕だ」

カイナ村の『工房』で、仁が言いだした。

「たなばた、って、なあに?」

さすがに知らなかったのか、ハンナが質問の声を上げた。

昨年は、直前に 巨大百足(ギガントピーダー) 騒動があって、結界爆弾や超冷却魔法『 超冷却(アブソリュートゼロ) 』を開発するなどしていたらいつの間にか7日が過ぎていたという経緯がある。

「ええと、七夕っていうのは言うなれば『星祭り』だな。笹に願いを書いた短冊を下げてお祈りするんだ」

ごく簡単に仁が説明した。

「ふうん、お星さまにおねがいするの?」

「そうだよ」

ところで、カイナ村付近には『笹』がない。

が、蓬莱島の東側は笹藪があるのだ。

「老君、笹を送ってくれ」

『かしこまりました』

老君が返事をしてから3分後、『工房』の1階に笹が現れた。

『ルビー2が大急ぎで取りに行ってきたものです』

「そうか、ご苦労さん、と伝えておいてくれ」

「おにーちゃん、あれって『竹』だっけ?」

「ああ、そうともいうな」

仁自身は竹と笹の区別がよくわかっていなかったりする。

一応、筍だったときの皮が成長後もくっついているのが笹で、落ちてしまうのが竹、となっている。

但し、タケという呼称なのに笹だったり(ヤダケなど)、ササと名が付いているのに竹だったり(オカメザサなど)する。

閑話休題。

「これに、こう飾り付けをしてだな……」

「わあ、面白い!」

『木紙』=和紙を染料で染めた色紙を使い、鎖や提灯や網、星などを作る仁。

ハンナも見よう見まねで作っているが、中々上手い。

「ハンナは手先も器用だな」

「そう?」

小首を傾げるハンナ。でも仁に褒められて嬉しそうだ。

「ジン兄……なに、それ?」

そこへエルザもやって来た。

「七夕飾りだよ。今夜は七夕だからな」

と、ハンナにしたのと同じ説明をする仁。

「そうか、浴衣も用意した方がいいな」

昨年の夏祭りで作った浴衣があるので、それを用意させようと仁は思った。

「お父さま、新しい浴衣を作って差し上げては?」

今まで黙っていた礼子が提案してきた。

「わかったよ。確かにそうだな」

ハンナは成長期だし、エルザとは婚約した。

2人とも去年とは違う、ならば、浴衣も去年とは違うものを着せてあげよう。

こうして、急遽浴衣を作ることになった。

生地はミツホから手に入れた木綿である。ほんのわずか、 地底蜘蛛(グランドスパイダー) 糸を混紡することにより、シワになりにくくなっている。

「うーむ、柄はどうするか……」

色は、エルザは水色、ハンナは桃色に決めたのだが、柄が決まらない。

「ごしゅじんさま、花なら花、模様なら模様と、まずお決めになるといいですよ」

蓬莱島の工房で悩んでいるとアンがやって来てアドバイスをくれた。

アンはその昔、ディナール王国で製造された後、いろいろな主人の手を渡ってきただけあって、広い視野を持っている。

それが時々、仁の助けになってくれているのだ。

「そうだな。じゃあエルザは花……ナデシコ、ハンナは……金魚にしよう」

意外とあっさり決まった。

早速製作に取りかかる。

絵柄が決まれば、後は図面と同じ要領なので、仁の土俵になる。

そもそも、浴衣などの絵柄に奇抜なものは必要無いというのが仁の持論である。

「伝統を大事にしたい」

というのがその理由だ。

1時間ほどで、絵付けも含めて浴衣が完成した。

まだ蓬莱島が午後4時なので、カイナ村は午後1時40分。真っ昼間である。

「わあ、おにーちゃん、ありがとう!」

「ジン兄、ありがとう」

2人とも新しい浴衣をもらってニコニコである。

着替えは仁の『工房』2階で行った。

もうハンナも仁の目の前で着替えなくなっている。そんなところにハンナの成長を感じる仁であった。

「おにーちゃん、おまたせー」

「……ジン兄、どう?」

着替えて下りてきた2人を見て、仁は顔を綻ばせた。

「うん、似合ってる。よかった」

去年も着ているので、合わせの向きが逆になることもなく、裾がはだけそうになることもなく。

きちんと着付けができている2人であった。

「それじゃあ短冊を書こうか」

「うん」

『おばあちゃんが長生きしてくれますように』

『みんなが健康でいてくれますように』

『村が安全でありますように』

『世界会議が成功しますように』

『世界が平和でありますように』

などと書かれた短冊を吊していく。

「ジン兄、腕が上がらない」

「ああ、そういう時はな……」

和服は、基本的に『万歳』のように腕を真上に上げにくい構造をしている。

そういう場合は袖をまくり上げないとならないのだ。

ゆえに『たすき掛け』という小物があるくらいだ。

今回は浴衣の袖をまくり上げることで腕を上に上げられるようにする。

「これなら」

エルザは笹の上の方へと短冊の糸を結んでいく。

まくり上げられた腕の白さに少しどきっとする仁がいた。

* * *

「おお、やっぱり、改めて眺めると綺麗な星空だなあ」

カイナ村で眺める星空は、仁が知っていた現代日本、東京都下の空よりも格段に綺麗だった。

「天の川が見える、ということはこの星も銀河の中にあるんだよな」

もうすぐ世界会議も開かれるので、手が回らなかったということもあり、今回の七夕は仁たちだけで行っている。

明日から忙しくなる。だから今夜だけは、との想いで、仁もエルザもこのひとときを心から楽しんでいた。

空には明るい星……近付きつつある長周期惑星が一際明るく輝いていた。