作品タイトル不明
28-35 遺跡の真実
「ジン兄、どうしたの?」
司令室で『 分身人形(ドッペル) 』を操縦していた仁が、突然大きな声を上げたので訝しむエルザ。
「……いや、気が付いたことがあってさ」
そう言いながら、仁は 分身人形(ドッペル) の操縦を一時老君に任せ、エルザとミロウィーナに向き直った。
「ねえミロウィーナさん、あの遺跡って、王族のお墓ってことはありませんか?」
「え?」
「え?」
エルザとミロウィーナが同時に声を上げた。
「俺のいた世界では、ああいう『塔』って、聖人の遺骨を納めていたはずなんです。少なくとも初期は」
元々は『仏舎利』、すなわち釈迦の遺骨を納めたものが『ストゥーパ』であり、『パゴダ』と同じ物を指すようだ。
閑話休題。
「……それは盲点だったわね」
ミロウィーナが少しはにかみながら答え、謝る。
「確かに、そういう記述があった気もするわ。言われるまですっかり忘れてた。ごめんなさいね」
「遺跡といえば、 古代遺物(アーティファクト) が残っていると思い込んでた」
エルザも少し俯いている。
「だろう?」
そこへ老君から報告が入った。
『 御主人様(マイロード) 、先程の記録装置からコピーした情報ですが、 御主人様(マイロード) の説を裏付けるものでした』
忍(しのび) 部隊が『パゴダ』の外へ持ち出し、『コンロン3』の 転移門(ワープゲート) を使って持ち帰ってきたものを老君が大急ぎで解析したものらしい。
「というと?」
『はい、およそ800年前から500年前にかけての、歴代国王の名前と業績などが記録されておりました』
「なるほどなあ……」
これはもう『墓所』で間違いないだろう。
何かあってもそれは『副葬品』だろうから、漁ってしまったら『墓荒らし』になってしまう。
仁は全員に引き上げを命じることにした。
「そうね、それがいいわね」
ミロウィーナも賛成のようである。
すぐに忍部隊は撤収。礼子と 分身人形(ドッペル) も転移装置で離脱。
ランド隊はそのままラプター隊と共に帰島することになる。
分身人形(ドッペル) と忍部隊は『コンロン3』でゆっくりと戻ってくることになるが、礼子だけは 転移門(ワープゲート) で一足先に戻って来た。
「お父さま、ただ今戻りました」
「ご苦労さん」
いろいろ準備していったわりに得たものは少なかったが、こういうこともあるだろうと、仁は頭を切り換えた。
『それでも 御主人様(マイロード) 、得たものは幾つかあります』
「何だ?」
「はい、1階にあったゴーレムの構造と、金系の魔法合金です」
「お、それは朗報だな」
『それに、『 賢者(マグス) 』のその後の足取りがわかりました』
「それは更に朗報だ!」
『それによりますと、『 賢者(マグス) 』はレナード王国内を北へと旅していたということです』
「北か……」
その情報を得た仁は、もしかしたら、と思うことがあったが、あまりにも漠然としているので口には出さず、1人胸の裡に納めた。
そして、技術的な話に頭を切り換えたのである。
* * *
技術的な話になるので、ミロウィーナは温泉に入りに行った。付き添いはカイ。
仁とエルザはそのまま司令室に残った。
『これがゴーレムの構造です』
画面に、老君が描いた簡略図が映し出された。
「おお、面白いな。交換式、か……」
明らかにアドリアナ系ではないとわかる型式である。
腕や脚が簡単に交換できるようになっているのだ。
「内骨格じゃあないからできるんだな」
「……ジン兄、関節の構造が面白い」
仁とエルザはその画面に興味を持った。
関節部分は球だ。
球体関節人形という人形があるが、あれに近い。ただ、ゴムやバネは使わないので溝も穴も開いていないが。
「ジン兄、くっつけているのは魔力?」
「……うーん、この図からじゃちょっとわからないな」
『 御主人様(マイロード) 、『 強靱化(タフン) 』と同質で、もっと弱い魔法のようです』
現場にいた忍部隊からの情報ということだ。
「うーん……『 強靱化(タフン) 』と同質、か……そうすると」
仁はしばらく考え、結論を出した。
「魔力による『引力』なんだろうな。力としては『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』で使っているものと同質だろう」
「……興味深い」
エルザも、仁の推測を聞き、興味を持ったようだ。
「だな。研究する価値はありそうだ」
そしてもう一つ、『金系の魔法合金』である。
『マギ・インバーやマギ・ジュラルミンと同系列ですね』
「そうか! 22金を作る時の銀をミスリル銀に置き換えたのか!」
さすが仁、こちらは聞いただけですぐに見当を付けたようである。
『仰るとおりです。91.7パーセントが金で、そこに銅と銀、それにミスリル銀を添加しています』
「やっぱりな」
『ですが、遺跡にあった合金が最適な比率であるとは限りません』
「確かにそうだな。……よし、金系の魔法合金も研究してみよう」
『それがいいですね』
金系の魔法合金=マギゴールドにも使い途はあるだろうと、仁は開発指示を出した。
* * *
一通りの指示が終わり、仁とエルザはようやくのんびりできる時間となった。今はお茶を飲み寛いでいる。
礼子は気を使い、少し離れたところに立っていた。
「……これで一段落かな」
「ん、そう思う」
「あとは世界会議か」
「大変だけど、意義があること。……ところで、ジン兄」
エルザが、仁の顔を覗き込むようにして尋ねてきた。
「旧レナード王国のことやミロウィーナさんのことは、まだ発表しないの?」
「ああ、そのことか」
仁は少し考えをまとめるように目を閉じた。
「……先代のことが少しわかってきたけどさ」
そして唐突に口を開く。
「? ……うん」
「まだわからないことがある。先代が、どうして蓬莱島へ引き籠もったのか」
「……あっ」
仁は目を開いてエルザを見つめた。
「『 賢者(マグス) 』と一緒だった頃の先代と、引き籠もった先代と。その間に何があったかわからないんだ」
「……確かに」
そこで仁は説明を飛ばして結論を口にした。
「だから俺は、まだ、さっきエルザが言ったことを発表するのを 躊躇(ためら) ってしまうんだ」
「……わかる」
説明を飛ばされたにも関わらず、エルザは理解したようだ。
「過去の歴史を説明するなら、旧レナード王国とミロウィーナさんのことだけでは済まず、『 賢者(マグス) 』の説明もすることになる。そうしたら先代のことも話さざるをえない。でも、どうして先代が迫害されたのかわからない以上、ジン兄は公表を躊躇ってしまう。……で、合ってる?」
仁は大きく頷いた。いたずらに会議を混乱させたくはない。
「ああ、そういうことだ。ちょっと臆病すぎるかもしれないが、まずは第1回目の世界会議を成功させたいんだ」
過去のことを知らせるのはその後でもいい、と仁は言った。エルザはそれに同意した。
「うん、成功させたい」
そう言ってからエルザは仁を見つめ、微笑んだ。
「ジン兄は、どんな問題が起きても乗り越えていけると、私は思う、けど」
仁もエルザに微笑み返す。
「うん。俺にはエルザをはじめ、ファミリーのみんながいてくれて……そして、蓬莱島がある」
「うん、精一杯お手伝い、する」
「ありがとう、エルザ。……それに、礼子、こっちへおいで」
「はい、お父さま」
とことこと歩み寄る礼子。
「お前がいてくれるから、俺は何一つ心配しないでやりたいことができるんだ。これからも頼むな」
仁に声を掛けられた礼子はぱっと顔を綻ばせた。
「はい、お任せ下さい!」
「そして老君」
『はい、 御主人様(マイロード) 』
老君が答えた。
「太白、小老君、庚申、ジャック、ソレイユ、ルーナ……」
仁は次々と、自分を支えてくれる者たちの名前を挙げていった。
「これからもよろしく頼む」
『お任せ下さい』
世界会議まであと8日。
無敵の蓬莱島に吹く風はすっかり夏のものとなっていた。