作品タイトル不明
3分聖女のお見合い③(完)
「あれ……寝てました……か?」
「あぁ、ぐっすりとな」
気が付くと、目の前にリュナン様がいた。
どうやら隣のアスランさんの肩を借りていたらしい。しかもセバス先生までいる。
これは……私がお昼寝していたから怒られるやつなのでは?
なので、私はいそいそと制服のジャケットを脱ぐ。そしてシャツのボタンを外そうとしていると、御三方が一斉に「待った」をかけてきた。
隣のアスランさんがはだけたシャツを戻しながら言ってくる。
「どうして服を脱ごうとしたの? 暑かった?」
「いえ、これから怒られるかと思って」
「ノイシャさんは何か悪いことでもした?」
「夜でもないのに、寝てしまいました……」
しゅんと「ごめんなさい」と頭を下げる。
すると、アスランさんはすっごく真面目な顔でセバス先生に向き合う。
「彼女、カウンセラーとかにかかったほうがいいんじゃないかな」
「やはり手配したほうがよろしいですかね」
カウンセラー……それは精神的に具合が悪い人がかかるお医者さんだと記憶しているけど……私は元気なんだけどな? それを訴えようとした時、私はリュナン様に肩を叩かれる。
「なぁ、ノイシャ」
「はい、ノイシャです」
「きみは結婚したいのか?」
――けっこん?
もちろんその単語の意味はわかる。
独身の男性と女性が世帯を統一させる制度のことだ。
だけどそれは、制度面はともかく、今の現代では自立した成人が結ぶ契約だったと思うが……。
「……考えたこともありませんでした」
私が素直な考えを述べると、隣のアスランさんが顔を近づけてくる。
「ノイシャさん、俺が君と結婚したいって言ったらどうする?」
「私の意思で決めていい案件なんですか?」
すると、まわりの皆さんが一斉に目を丸くした。
そんな……変なことを聞いたかな? 今まで「いや」なんて言おうものなら、鞭打ちのみならず三日間食べ物を貰えなかったのにな。
だけど、理事長とちがってアスランさんがとても優しく笑ってくれた。
「もちろん、嫌なら断ってくれて構わないよ」
「それならば……そのお話は聞かなかったことにさせていただきたく」
……さすがに、即答はまずかったのだろうか。
一瞬アスランさんが固まってしまう。対して、リュナン様が手で押さえているものの噴きだしていた。やっぱり、断っちゃいけなかったのかな?
私がオロオロしていると、アスランさんが「大丈夫だよ」とまた優しい笑みを浮かべてくれた。
「その理由くらいは聞いても?」
「花嫁さんの前に、なりたいものがあるんです」
「何になりたいの?」
これは……誰にも話したことがない夢。
最近できた、私の夢。私なんかが――て言われてしまうかもしれないけれど。
でも、私は心の中でえいえいおーっと勇気を振り絞る。
「ひ、ヒーローになりたいんです!」
あ、れ……。
また御三方が固まってしまわれた。セバスさんも口元を隠し始めてしまう。目をすごくキラキラさせているから、怒らせてしまったわけではなさそうだけど……。
とりあえず、私は理由を説明してみる。
「あの、こないだアニメというものを初めて視聴しまして」
「うん」
「その中の女の子が、とても可愛くて、とてもカッコよくて」
「うん」
「私も……いつかあんな風に、カッコよく誰かの役に立ちたくて」
それは、バルサさんに教えてもらった戦う女の子たちのアニメだ。
みんなかわいくて、みんな一生懸命で。
仲間のために、お友達のためにと、一生懸命で。
――私には、まだともだちだっていないけど。
それでも、私には好きなひとたちがいる。
私の世話をしてくれるリュナン様も好きだし、セバス先生も好きだし、ヤマグチさんも好きだし、バルサさんやラーナさんも好き。みんな好き。
だから、皆さんが私を今までやっほいな気持ちにさせてくれた分、私がいつか皆さんをやっほいさせてあげられたらなって。そう、思うから。
でも、それを全部言うのは恥ずかしくて。
特に……リュナン様に言うのが恥ずかしくて。
だから、他の理由をあげてみるのだ。
「私が調べてみた限り、あのヒーローたちはみんな十代の独身女性の方が多くてですね。だから既婚者になってしまうと、その――」
「あははっ、そうだね! 既婚女性がヒーローやっているっていう話はなかなか聞かないなぁ」
そうでしょう、そうでしょう。
我ながら上手く誤魔化せたと思います。もうお外は夕焼けです。このままお暇してもおかしくない時間……と思っていると、私の手がアスランさんに掴まれた。
「それじゃあ、今日から君の友達にしてもらえる?」
「とも、だち……?」
やっほい!
ともだちって言った? 私のともだちに……なってくれるですと⁉
結婚はできないけれど、ヒーローはともだちがいてはダメなんてことはないはず。むしろ、ともだちがいたほうが強くなるのがヒーローだ!
「わ、私なんかでいいんですか⁉」
「もちろん。もっとノイシャさんのことを知りたいんだ」
「私も、アスランさんのこともっと知りたいです!」
やっほい!
やっほいやっほいやほほほほいっ!
ソファから立ち上がってやっほいの舞を踊っていると、セバス先生とリュナン様が唖然としている中、アスランさんが改めて手を差し出してくれた。
「それじゃ、これからよろしくね」
これは……伝説の友好の証である握手というものでは……?
私は全力で握り返す。
「嬉しい……私の、初めてのともだち……」
『えっ?』
歓喜する私に対して、目を見開くのはセバス先生とリュナン様。
「あの……どうかしましたか?」
「あ、いや……何でも……」
私の質問に、リュナン様が目を逸らしてしまった。
すぐさま私に質問を返してくるのはアスランさんだ。
「ちなみに、セバス先生はまぁ先生だからともかくとして……リュナンはノイシャさんのともだちじゃないの?」
「はい、リュナン様は私の指導係ですから」
「へぇ?」
すると、握手を終えたアスランさんがリュナン様の肩を組む。
そして耳元でこう言っていた。
「がんばれ♡」
「ど、ど阿呆! どうせ、すぐに帰国するくせに!」
おぉ、これはこれで仲良しそう!
私もアスランさんのともだちになれて嬉しいな。リュナン様と一緒だなんて光栄だな。そうやっほいしていると、アスランさんはリュナン様に対してニヤリと口角を上げる。
「それはどうかな?」
「――というわけで、今日から教育実習としてお世話になることになりましたアスランといいます。みんなよろしくね」
女生徒たちからの黄色い声援が飛んでいる。
どうやらアスランさん、海外で教員資格を習得中とのことで母校に教育実習も兼ねて帰国していたらしい。セバス先生に就いて、私たちの担任を請け負うことになったようだ。
アスランさんからアスラン先生に進化したということである。
とてもめでたい! やっほい!
そんな賑やかな教室の中で、リュナン様だけが頭を抱えて机に突っ伏していた。
具合……悪いのかな。
これはヤマグチさんに相談して、滋養強壮にいい差し入れをしてあげなければ。
がんばるぞ、やっほい!
具合が悪いリュナン様には申し訳ないが、ちょっとだけ楽しみである。
【3分聖女のお見合い 完】