軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3分聖女のお見合い②

「セバス先生! ノイシャがお見合いするってどういうことですか⁉」

「なんだと……?」

俺が職員室に殴り込みに行くと、鋭い目をしたセバス先生が席を立つ。

その片手にはナイフを持っていた。シャーッと刃が伸ばされる。

「その不届き者はどこのどいつですか?」

「いや、そのナイフは何だ?」

「ナイフは切るための道具に決まっているだろう」

「何を切るんだ⁉」

その質問に、セバス先生は答えない。

ただニンマリと笑っては「して、誰が?」と聞いてくるから……俺は小首を傾げてみせた。

「先生がセッティングしたんじゃないのですか?」

だって昔は理事長の養女だったノイシャだが、今の彼女の身元引受人はセバス先生だと聞いている。それなのにセバス先生は一蹴してきた。

「私を倒せる男なら一考してもいいですが、そんな男がこの世にいると?」

「あ、はい、いないですね」

だってこのセバス先生は『 鮮血の教師(ブラッド・ティーチャー) 』なんて異名のみならず、サバゲ―界では『 鮮血の死神騎士(ブラッド・ネクロマンサー) 』なんてニックネームで活動しているようなのだ。最近ではセバスが参戦するとわかれば相手が泣いて土下座して不戦敗を乞うてくるらしく、全力で仮装して毎週末に遊びに行っているらしい。席に置かれているサバゲ―写真では、デカいうさぎ頭を被った迷彩服の着ぐるみが写っている。

そんな趣味を持つ先生が殺気を隠さず聞いてくる。

「して、相手は?」

「俺の従兄のアスランです……」

「あの元生徒会長か」

――逃げ出さない俺、えらくね?

だけど、心のどこかで甘えていた。

この先生に頼めば、お見合いなんて破談にしてくれるのではないかと。

「ひとまず、私も行こう」

カッター片手に職員室を出るセバス先生の背中を、俺は追う。

――殺生事件だけは起こさないようにしないと!

相談する相手を間違った。そう後悔しても後の祭り。

生徒会室に戻ると、ノイシャとアスラン殿下はソファで眠りこけていた。

二人で肩を寄せて、首を相手のほうに倒すように。

「K・I・L・L!!!!」

そんな光景に、セバス先生はカッターの刃をシャーッと伸ばして切りかかる。

だけどその刃先がアスラン先輩の動脈を切り裂く直前に、先輩の目がぱっちり開いた。

「おや、先生。お久しぶりです。息災のようで何よりです」

「あ、アスラン君……」

――絶対に寝たふりしてたな。

こんなタイミングよくにっこり笑えるなど、そうとしか思えない。

実際、気が削がれたセバス先生もにっこり笑みでカッターを内ポケットにしまっていた。だけどいきなり本題に入るようだ。

「ところで、ノイシャさんとのお見合いのために帰国したという話は本当ですか?」

「はい! 理事長からそんな話を受けまして。理事長がとても愛らしくて賢い子だからとあまりに褒めるものだから、俺も期待していたんですよ」

そして、アスラン殿下は言う。

「期待以上に可愛らしいお嬢さんで、とても気に入りました」

その発言に、俺は自然と生唾を呑み込んでいた。

――別に、いい縁談だよな……。

アスラン先輩は、こう見えて首相の息子だ。だから理事長は養女であったノイシャを使って縁を繋ぎ、さらなるコネを手に入れようとしていたのだろう。高校生の自分にもわかる腹黒さだ。

――でも、ノイシャにとっても悪くない話なのか?

まぁ、国外にいたからアスラン先輩は知らないのだろうが、この縁談は理事長が捕まった時点でご破算になっていたことだろう。その辺の情報共有が上手く行かず、アスラン先輩は帰国したと推察できる。

だけど、実際この通りノイシャも頭を預けるほど懐いている。

ならば、このままうやむやにアスラン先輩と結婚したら、ノイシャは玉の輿に乗って毎日ぐーたらする生活を過ごすことができるわけで。

――なのに、どうして俺の胸がこんなに苦しいんだ?

俺はただ、彼女の指導係でしかないはずなのに。

スヤスヤと眠るノイシャの愛らしい寝顔が、ひどく憎い。