軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話:アヴァロンの住民たち

宣戦布告を受けてから一〇日経っていた。

戦争に備えて、戦いの準備を進めている。

だが、それと並行してやらないといけないことが二つある。

一つ目は、アヴァロンに住んでいる住民や、冒険者たちに対する説明だ。

こういうことをしっかりしておかないと今後に響く。

戦争の被害を受けるのは住民なのだ。住民たちは俺とアヴァロンを信用しているからこそ住んでくれているし、知り合いに声をかけ人口を増やしてくれている。

彼らをないがしろにすれば、アヴァロンのこれ以上の発展はない。

商人や、冒険者組合のトップにはすでに状況を話していた。

それとは別に街の代表として俺自身が市民に説明する義務があるのだ。

二つ目は、戦争のルール決めだ。

その返事は隣街からすでにもらっていた。

「意外だな。隣街は俺の意見に耳を貸したのか」

宣戦布告を受けたあと、俺は一通の手紙を隣町へ送っていた。

その内容は一般市民への無差別攻撃を行うことを互いに禁止すること。

今回の戦争については、お互いの軍隊をきれいに並べて、アヴァロンの近くにある広い平地にて日時を決めてクリーンな決戦をしようと提案した。

これはお互いにメリットが大きい。

もしなんでもありになったら、お互いに殲滅しあうしかなくなるし、軍以外の被害が非常に大きい。

「あまり好き好んで虐殺もしたくないし助かった」

アヴァロンリッターを見せたことが大きかったのかもしれない。敵はあいつが街の中で暴れるような事態を恐れた。あれが全力で暴れれば、倒せたとしてもとんでもない被害になるだろう。

もっとも、なんでもありなら俺は空爆でいっきにケリをつけるつもりだった。

暗黒竜グラフロスたちに、隣街の城壁はまったく意味をなさない。高度数百メートルを音速で飛行するグラフロスに、たかが高さ数十メートルの城壁がなんだというのだ。

軽く飛び越えて、無数のナパーム弾をばらまき、一瞬で街を火の海にしてみせよう。

それをしない理由は二つ。

一つ、DPがもったいない。敵の兵には俺のダンジョン内で死んでもらいたい。DPを無駄にしたくない。

二つ、アヴァロン住民の被害を少しでも減らすため。アヴァロン内にはゴーレムたちが常駐してるとはいえ、被害をゼロにすることは不可能だ。

だからこそ、新たに作った【平地】を戦場に指定し、真っ向勝負をしようと提案した。

俺の提案に敵が乗ったことが、策略ではないことはオーシャン・シンガーの諜報により裏がとれている。

とある手法をとることにより、敵が張った防御結界を張った施設内すらも、調べることができている。

この世界の住民は魔術に対する警戒心があっても、科学に対する警戒心がまるでない。【創造】を使える俺にとって、その油断を突くことは容易い。

そしてその諜報活動により、何かが隣街の裏にいるところまでは突きとめた。その何かのコネで英雄クラスの冒険者を三〇人用意できたのが隣街の自信の源らしい。

たかが、Aランクの魔物程度三〇人でアヴァロンを落とせるとは舐められたものだ。そんなもの、俺たちにとってただの餌。殺してワイトの力でアンデッド化するのが楽しみだ。生前よりも強くなるし、ワイトの指揮下に入ればアンデッド強化の恩恵を受けてくれる。Aランクアンデッドが三〇体も手に入れる機会はそうそうない。

今後も継続してオーシャン・シンガーを敵が防御結界を張っている施設に張り付ける。戦争までに、裏に潜んだ何かがわかればいいのだが……:

「懸念が一つ減ったな。あとは、住民たちの説得だ」

今日、大事な話があるとすでにお触れを回しており、この街で一番大きな広場に人を集めるようにしている。

そこで戦争の件を包み隠さずに話すつもりだ。

約束の時間になったので広場に移動する。

もう、かなりの人間が集まっている。

俺は壇上にあがる。

護衛として、クイナがそばにおり、アウラが魔術で透明化し空から見張っている。

さらに、別次元にルルイエ・ディーヴァが潜み、次元系統の魔物を警戒しているという万全の状態だ。

「アヴァロンの諸君、私はこの街の長であるプロケルだ。今日は、君たちに大事な話をしなければならない」

全員の注目があつまる。

それと同時に、どこからか歌が漏れ聞こえてきた。ルルイエ・ディーヴァの歌だ。

彼女は水を媒介にした次元の窓をあけて、音だけを漏らしている。

ルルイエ・ディーヴァは別次元に敵が潜んでいないか監視をしながら、精神干渉の歌をつむぎ続けた。

もちろん、洗脳をするわけじゃない。その効果は、軽い陶酔状態及び高揚状態を作り出すもの。

「耳が早いものはすでに聞いているかもしれないが、アヴァロンは先日、隣街から支配下に入れと勧告を受けた! 私も最初はそれで構わないと思っていた。だが、示された条件はあまりにもひどいものだった。この街に、そして、この街に住んでいるものに隣街の奴隷になれと言っているも同然だった!」

陶酔状態のため、住民たちに俺の声がすんなりと入っていく。全員、私語の一つもない。

「対等ではない。あくまで従属だ。そして、彼らが派遣した使節団の横柄な態度を見て確信した。友好を結びに来た使節団ですら、あの振る舞いだ。あの街に従属すれば、この街の誰もが不幸になる!!」

街の住民たちは、その言葉にうなずく。

俺が使節団に対して下手に出ていたのは、このための布石だ。

あえて好き勝手やらせた使節団たち。

それは、この街の住民に隣街への悪感情を持たせるために必要だったのだ。

この街の住人はほぼ例外なく悪感情を持っている。

「だから、私は戦うことにした。この街の住人の幸せのために!!」

力強く言い切る。

とはいえ、住民たちから拍手喝采というわけにはいかない。

「俺たちに戦えっていうのか? 隣街の軍隊と」

一人の男がそう言うと、そうだそうだと、次々に同意するものが現れた。

住民たちが一番心配しているのはそれだ。彼らは殺し合いなんてまっぴらだろう。

「そのつもりはない。この街を立ち上げたときについてきてくれた最初の住人たちをのぞいて戦争に協力してもらうつもりはない。さらに戦場はこの街の外にある平地にすると協定を結んである。みんなには、この城壁に守られた街にいてほしい」

俺の言葉と同時に、最初の住人である妖狐やドワーフ・スミス、ハイ・エルフたちが壇上にあがる。

彼女たちは、この街の住人には魔物ではなく、亜人だと説明している。

街の住人たちが苦い顔をする。

この子たちはみんな優れた容姿をした少女たちだ。

彼女たちの技能は素晴らしく、住民たちは彼女たちに助けられ続けてきた。

そして、長い生活のうちに何度も言葉を交わして、情も湧いてきている。

そんな少女たちだけに戦わせる。

それは、街の住人たちにとって、苦痛だった。

別の男が声をかける。

「彼女たちだけに戦わせたくはない。降伏はできないのか」

「従属をすれば、先日の兵士みたいな連中がわが物顔で毎日暴れ始める。そして、税金も今の五倍以上になるだろう。この街が独占している技術もすべて奪われる。この街の住人には、もともと住んでいた場所が辛くて移住した者も多いだろうが、従属すれば、この前に来る前以下の生活になる。……第一彼らは、亜人に対する差別主義者だ。彼らはこの子たちは奴隷にすると言った。私はこの街の長として、絶対に受け入れられない」

情に訴える言葉が、ルルイエ・ディーヴァの生み出した陶酔状態によくしみわたる。

もうひと押しだ。

「とはいえ、戦争に巻き込まれたくないと考える者がいることも理解する。もし戦争が始まる前にこの街を出たいというものがいれば、あとで受付を設けるから申請してくれ、支度金を用意するし、ゴーレム馬車を手配している。隣街まで運ぼう。ただ、人数が多いことが予想される。荷物量は制限させてもらう」

住民たちからどよめきが聞こえた。まさか、街の長が住民を逃がす手伝いをするとは思っていなかったのだろう。

こういうアフターフォローは大事だ。

逃げるなら、ご自由にどうぞ。こういう逃げ道を用意しておかないと、あとで無理やりこの街に残らされたと文句を言われる。

そして、あくまで俺はこの街の住人を第一に考えているというスタンスを示すのだ。

一人の男が声をあげる。見知った顔。

この街の冒険者組合のトップにいる男だ。

「この街は、俺たち冒険者の重要な拠点だ。宿も税も安い。ダンジョンで稼いだ素材も高く買ってもらえる。ここを失うのは痛い。この戦争、俺たちは協力すると決めた。できるだけ、伝手をたどって戦力を集める。……彼らへの報酬を、プロケルさんに請求していいか?」

俺はにやりと笑う。

そうか、ここまで言ってくれるのか。そして、誰かが声をあげてくれたのはうれしい。

「ありがとう。戦争には参加しなくていい。ただ、戦争が終わるまでの間、この街の中を守ってくれないか? 協定では戦争は外の平地で行うが、破って略奪に来るものが来ないとは限らない。その際には、頼りにさせてもらいたい。報酬は言い値で払おう」

「本当にそれだけでいいのか? 戦争時に敵の軍隊と戦ってもいい。俺たち冒険者は兵士より強いぞ」

冒険者組合の代表は、すこしぶすっとした顔をする。

もしかしたら、彼らの力を信じていないととられたのかもしれない。

「冒険者たちは魔物と戦うのは本業だ。人間を殺すのは専門外だろう。とはいえ、略奪に来るのは人ではなく獣、容赦なく狩っていい」

冒険者組合の男が頷く。

次は、商人の男が口を開けた。レリック商会の代表レリック。この街一番の商人だ。

「われわれ、商人協会はこの戦争において、資金面の援助をさせていただきたく思います。なに、気兼ねはいりませんよ。我々だって、こんな金の生る木のような街、失うわけにはいきませんからね。それに、ここの税金は異様に安い。資金援助はそれまで、払わなかった税金とでも思っていただきたい」

「商人がそんなことを言っていいのか。ここは、資金の提供を盾にして、今後のために、利権を要求するところだろう」

「ふふ、それは相手が私どもに損を押し付けようとするやからの場合ですよ。あなたは違う。ともに幸せになろうと常にしてくれた。富を得ようとする仲間だ。我々だって、全力で支援したい」

嬉しいことを言ってくれる。

なら、それに俺も応えよう。

「ありがとう。戦争が長期化し、空輸が難しくなる可能性もわずかながらある。今から食料を備蓄し、いざ戦いが始まれば街に立てこもった住人たちに無料で振る舞ってほしい。そして、戦争が終わった暁には、祝勝会を開きたい、その資金の負担を頼む」

「そんなことでいいのですか!?」

「ああ、それで十分だ。たしかにこの街は税率が安いが、みんながたくさん稼いでくれているからね。少しの税率でもたくさんの金が集まっている」

それは本当だ。なにせ、稼ぎの桁が他の街とは違う。

自然と低い税率でも金が集まる。

とはいえ、冒険者組合も、商人組合も納得していない。

そう、冒険者も使わず、住人たちから徴兵もせず、資金をつかって傭兵を使用することもない。

ならば、どうやって戦力を集めるのか。

疑問に思って当然だ。

「さて、みんなの力を借りずにどうやって戦うのかを説明していなかったので紹介させてもらおう。これがアヴァロンの戦力だ」

この街の住人たちなら慣れ親しんだゴーレムたちが、次々に現れてくる。

その数は三百体を超える。あまりの迫力に住人たちが言葉を失う。

「みんなが見慣れたゴーレムだけど、実は街に出していたのはごく一部だったんだ。そして上を見てくれ」

俺が空を指さす。

空には体長が四メートルを超える漆黒の翼竜。暗黒竜グラフロスたちが旋回していた。

かなり上空を飛んでもらっている。

なにせ、近づくと暗黒竜の特殊能力【畏怖】で、精神崩壊をさせかねない。

住民たちが、おとぎばなしでしか見たことがない巨大な黒龍を見て、度肝を抜かれていた。

「ヒポグリフの空輸はご存知だとは思う。だが、アヴァロンが調教に成功したのはヒポグリフだけじゃない。竜の調教にも成功した。ゴーレムと竜。それに、この子たち。それだけで勝てる。そして、まだまだこの街には戦力がある。……それは、隣街に漏らすわけにはいかないので秘密だがね」

俺は力強く言い切る。

三百体を超えるゴーレム、恐るべき暗黒竜。

それらを見て、住民たちは安堵する。

……同時に、そんな恐ろしい存在が街にいたことに恐怖するものもいる。彼らはきっとこの街を出ていくだろう。

仕方ない。

どっちみち、戦争時には隠しておけるものではない。

「この通り、戦争には勝てる。それに負けたとしても住民たちに死傷者は出さない。……負けて支配されれば苦しい生活をさせることになる。そうならないように俺も、この子たちも頑張るから安心してくれ。話は以上だ。繰り返しになるが、街を出たいものは言ってくれ。支度金と馬車の手配の準備はある」

それで話は終わり、クイナたちとともに壇上を降りる。

さて、何割の住民がこの街を去ってしまうだろう。

七割残ってくれれば上々、俺はそう考えていた。

移民希望者の募集は三日ほど行っていた。

その三日がたち、どれだけの住民が去っていくかの結果が出た。

結果は全体の一割未満。

俺は予想よりずっといい結果に顔をほころばせる。

思ったより、この街に魅力を感じてくれいたらしい。

そのことが街の代表者として嬉しい。

「絶対勝たないとな」

残ってくれたみんなを守るために。

そして、去っていった人たちがいつか戻ってきてくれる場所を守るために。

なにより、みんなの信頼にこたえるために。

さあ、俺たちが積み重ねてきたもの。それを見せつけるときだ。