軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話:強気の交渉

目の前の兵士が激昂している。

彼のことは覚えている。隣街から派遣された使節団、そのリーダー格だ。

もともとアヴァロンは隣街から支配下に入れと脅されていた。最初に使節団が来たときは従順になるように見せかけ、時間がほしいと懇願し帰ってもらい。

その後もあいまいな返事をして時間稼ぎを続けた。

しかし、時間稼ぎにも限界が来て、先日最後通告を受けた。もう一度使節団を派遣する。もし、そこで回答がないと実力行使にでるという脅しだ。

そのために彼らはここに来ている。

「貴様、なんだ、その口の利き方は!」

兵士が怒鳴り、剣に手をかける。

前回、下手に出たことで勘違いさせてしまったようだ。

自分が上位者であると。

その認識を正さないといけない。

「逆に聞こう、たかが一兵士がなんのつもりだ。口の利き方に気を付けろ」

「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」

ついに剣を引き抜いた。

そのまま、振りかぶりこちらに向かってくる。

俺は薄く微笑む。

あの兵士は一流の冒険者程度。魔物で言えばCランクに行くかいかないか。

三体のSランクの魔物を【誓約の魔物】にした俺は、圧倒的な力を持っている。

このまま受けても傷一つつかないだろう。

だが、ここは演出のため別の手段をとろう。

俺と兵士の間に風のような速さで何かが割り込んでくる。

兵士は剣を止めようとするが間に合わない。

剣はその影に吸い込まれ、硬質な音を立てる。

兵士は剣を取り落とし、手首を押さえる。攻撃を加えた兵士が一方的にダメージを受けている。

衝撃をすべて手首に受けてしまったのだ。

もし、これがロロノが作った剣でなければ折れていただろう。それは彼にとって不幸だった。もし、剣がおれていれば衝撃が流れていただろうに。

「なっ、なんだ、貴様は」

兵士が顔を見上げる。そこにいたのは、二メートル強のオリハルコンの体をもつ巨人。

他のゴーレムに比べて、細見かつ曲線的なフォルムをもった存在。

その名は、アヴァロンリッター。

今回は、ゴーレムたちに兵士への攻撃制限はかけていない。アヴァロンの住民が暴力にさらされれば自動度的に防衛のための行動をとる。

アヴァロンリッターは、その拳で兵士に殴りかかる。

ただの拳だが、オリハルコンの塊、それもアヴァロンリッターはAランク上位の力がある。当たればCランクの力しか持たない人間など四散する。

最優先護衛対象である俺に害意を向けたのだ。排除されるのは当然だろう。

だが……。

「止めろ」

俺はタイミングを見計らって命令をする。

アヴァロンリッターの拳が止まる。それは兵士の顔の前10cm程度のところ。

兵士の顔があまりの恐怖に見開かれ、次の瞬間吹き飛んだ。

拳はきっちりと止められたが、拳圧だけで木の葉のように男を吹き飛ばした。

彼の後ろにいた他の兵士たちが震えはじめる。

彼らは仮にも使節団に選ばれるほどの兵士たちだ。

アヴァロンリッターがどれほどの化け物かは理解できてしまうだけの力量はある。

圧倒的な速度、攻撃力、オリハルコンの防御力。

そして……、彼らの恐怖はそれで終わらない。圧倒的な力をもつアヴァロンリッターが次々に現れた。

最初の一体と合わせて合計十体。

たった一体で、自分たちを容易に殺しうる化け物が、十体も。彼らは奥歯をがたがたと震わせる。

「アヴァロンリッター。力をしめせ」

俺の一言でアヴァロンリッターたちは、ツインドライブを全開にした魔力を解放し、威嚇するように吠えた。

何人かの兵士が失禁する。

彼らは自分たちの命など風前の灯だと思い知らされてしまった。

さて、これでようやく交渉の準備ができた。こうでもしないと、こちらを見下すのを止めさせられない。

「交渉をしたいのだが、前回はその男が相手だった。見ての通り使い物にならない。誰か変わりはいないのか?」

俺は使節団の面々に告げる。

少し待つがなかなか反応がない。

しびれを切らし始めたとき、後方の馬車から一人の男が現れる。痩せての眼鏡をかけた長身の男だ。

「本日は本職の私が交渉の担当となります。私はテルロマ・ロクティーヌ。アヴァロンの長、プロケル殿、何卒よろしくお願いします」

声が震えている。線が細い。

それでも、この状況で交渉を続けようとする勇気、そしてアヴァロンの名を口にした。なかなか面白そうな男だ。

「テルロマ様。あなたが、今日の交渉者ですか。なるほど、今回はまともな外交ができそうですね」

「……どうぞよろしくお願いします」

俺たちは握手をし、俺の屋敷に移動した。

もう、何一つ遠慮はしない。

きっちりと俺たちの要望を告げさせてもらおう。

「お茶です」

「ありがとう。助かるよ」

交渉をするために、屋敷の応接間に来た。そこに妖狐がお茶を運んでくる。

テルロマは妖狐の美貌に目を奪われ、次の瞬間、キツネ耳、キツネ尻尾に目を丸くする。

「噂には聞いていましたが、アヴァロンには本当に亜人が多い」

「ええ、ここは迫害された亜人のために作った街ですからね」

「……彼女たちを追い出す気は毛頭ないですよね」

「ええ、もちろん」

全開使節団が提示した条件、その中に絶対に俺が飲めないものがいくつかあった。その一つが、帝国の都市になる以上、亜人を人間と同等に扱うことは許されない。

人間の奴隷としての階級を与えるか追放するかを義務付けるとあった。

俺の可愛い魔物たちを奴隷扱いなんて許せるわけがない。

「プロケル様、もし、ある程度、亜人の扱いをましにできるとすれば、条件を呑んでいただけますか?」

少し驚いた。

てっきり、すべての条件を無理やり飲ませると思っていた。

アヴァロンリッターで脅したことを考えてもこの弱気には驚く。

「私どもアヴァロン側は絶対に亜人への差別は許容できません。この街は、彼らのためにあるのです。実際に、この街の目玉であるリンゴという果実、性能のいい剣や防具、そして防衛を担うゴーレムたち。もう一部で噂になっておりますが、空輸を担う魔物の調教、これらすべて亜人の技術です。彼女たちなしにこの街は立ち行きません」

という、表向きの話をする。

アヴァロンにエルフやドワーフがいることはもはや周知の事実だ。

ただ、それらは魔物ではなく亜人と言い切っている。

「そうですか、そこならあるいはなんとかできるかもしれません」

「なるほど、ちゃんと交渉に応じてくれるわけですね。少し驚きました。では、これを」

俺は一応用意しておいた書類を出す。

それは前回提示された隣街から出された条件一覧に対する回答だ。

それらに対し、許容できるラインを設定した。

これらをすべて隣街が許容するなら、帝国の一都市となってもいい。

「前回使節団の民様からいただいた条件各種を、私どもで精査し、現実的なラインを定めました。これがアヴァロンが譲歩できる限界です」

「では、拝見します。……こっ、こんなの無理だ! ここまで妥協できるわけがない!」

テルロマは声を荒くする。

おそらく、彼の権限ではどうしようもないラインだったのだろう。

「それは私どもも同じです。私はここまでは妥協しました。これ以上は無理ですね」

文官であるテルロマは震える。

「まず、支払う税金、これはいいでしょう。まだ許容できる範囲です」

俺がそこに書いたのは、隣街と同程度の人頭税及び、この街全体の小麦の収穫量の三割を相場に応じた金貨で支払う。

もともとは五割で現物だったが、そこを三割に減らしなおかつ現金とした。

アヴァロンの小麦は現金以上の価値がある。それに、いくらでも【鉱山】から手に入る金のほうが便利だ。

ゴーレムや武器の素材にするのは、オリハルコン・ミスリル・銀がメインだ。金はごく少量しか使わないので、もっぱら金貨にしている。

今、金貨が山のように倉庫に眠っている。

「では、テルロマさん。何が許せないと」

「まず、技術提供のための人員派遣は一切しないというのは認められません」

隣街はこの街の先進的な土壌開発、水路、武器や防具の作成技術を提供しろと言ってきた。開発した技術者を派遣して手取り足取り教えろと。

それも半永久的にだ。俺としてはふざけるなとしか言えない。

「なぜですか? アヴァロンの技術を取り入れたければ、技師たちをこの街に連れてきて見学をさせればいい。それを拒むつもりは一切ありません。武器や防具なら買って調べればいいじゃないですか。子供じゃあるまいし」

「だけど、それは」

「いいですか、技術は自分で盗むものです。私は好きに盗めと言っている。これ以上の譲歩はありえません」

俺は強く言い切った。

テルロマはかなり葛藤している。おそらく、これが彼らにとってもっとも重要なものだったのだろう。

アヴァロンの魅力である品物をすべて自分たちのものにすること。

当然、俺が言ったようなことはすべてやっていているだろう。だが、技術を盗み切れないから人を寄越せと言ってきている。

「……プロケル様、そして次です。アヴァロンで適用される法を、帝国や我が街の法に準ずるものにしていただきたいと考えております。なぜ、受け入れていただけないのでしょうか? 帝国は長年、こちらの法で繁栄してきた。あなたがたの未熟な法よりもよほど頼りになる」

「お断りです。我が街は我が街のルールで動きます。とはいえ、そちらの書類にあるように、領事館の設置は認めますし、その領地内であれば、そちらのルールでかまいませんよ。そこから一歩でも出れば、アヴァロンの法に従ってもらいます」

これは絶対に必要だ。

もし、こんなものを許容すれば隣街からやってきた連中に好き勝手されてしまう。

極論を言えば、そいつらが強盗しようが、強姦しようが、隣街の法でしかさばけないなんて事態もありえる

「プロケル様は、妥協するつもりはないんですか!」

「妥協はしています。だから、領事館内ではあなたがたの法を許すと言っているのです」

これほど、妥協してやっているのに。ひどい言いがかりだ。

「最後にですが、この街への関税及び通行税の導入及び、その三割の上納というのは、完全に却下なんですね」

「ええ、自由都市がこのアヴァロンの特徴ですからね。そこを曲げることはこの街の死を意味します」

これも、俺の街に対する圧力だろう。

この街の魅力は安い税金にある。隣街からどんどん圧力をかけられて負担を増やせば、アヴァロンも高い税を取らないと立ち行かなくなる。

そうすれば、必然的に住民にその負担がいき、アヴァロンの魅力が半減する。とでも考えていたのだろう。

「お話にならない、プロケル様、あなたは自分の街の状況を理解されていますか!? もし、我が街があなたがたに対して経済制裁を加えれば戦争前に干上がりますよ。あなたがたは我が街に依存しているはずだ」

「ご自由にどうぞ。我々の取引先は今やあなたがただけではない」

たしかについ先日まではそうだった。

生活必需品を、隣街から購入しないとまともな生活ができなかった。だが、それは過去の話にすぎない。

今はヒポグリフによる空輸が順調だ。世界各地からどんどん品物が集まってくる。

親交のある街に圧力をかけて、そこにも俺たちに品物を売らないようにすればいいのだろうが、ヒポグリフは一日に荷物を載せた状態で六〇〇キロはとぶ、その範囲内すべてに手を回すことは不可能だ。

それどころか、今はアヴァロンに集まる商品を目当てに、隣街から商人たちが、制裁のための税金を払ってでもやってきている。

アヴァロンとの取引がなくなって困るのは向うだ。

「うっ、でっ、では、街にお触れをだしてアヴァロンへ行くことを禁じても」

「それもご自由に。むしろ、今の状況でそれをすればそちらの街を捨て、アヴァロンに定住するものも少なくないでしょうね」

今では、アヴァロンに物も娯楽も溢れている。

税金が安く安全。もはや、隣街よりよほど住みやすい。

連日連夜、家を増築しているが間にあわなくなるぐらいに人が増えている

その流れが一気に加速するだろう。俺たちにとってはありがたい。

「せっ、戦争になりますよ。こんな小さな街なんて一瞬でなくなって。そもそも、街の住人だって戦争が起これば、街に逃げ帰って」

「確かにその懸念はありますね」

この街は移民が中心。それもほとんどが隣街に住んでいたものたちだ。

もし、危険だとわかれば隣街に戻るかもしれない。

「そうでしょう」

「まあ、それでもほとんどは残ると思いますよ。たとえ戦争になっても勝つのは我々ですし」

「そんな、まさか」

「見たでしょう。あのゴーレムを」

テルロマが言葉に詰まる。

俺の言葉が絵空事ではないと、彼は知ってしまっている。

「我々アヴァロンは戦うことを恐れない。……とはいえ、多少人口が減ってしまうのは避けようがないでしょうがね」

俺の弱気な言葉に文官が顔をほころばせる。

「でしょう! だから、もっと妥協を」

「ふざけるな!」

俺はわざと激昂したように見せて、机を叩き付ける。

めきりと音を立てて、机が砕ける。

「ひっ」

「これだけ、譲歩をしてやった。もともと払う必要がない金をくれてやる、無駄な手間も惜しまない。そう言ってやっている。これ以上は絶対に認めない。……いいものを見せてあげましょうか」

怒ったあと、突如にこやかに笑いかける。

「はっ、はひ」

文官は立ち上がり、そしていそいそと俺のあとをつけてくる。

目的地は【平地】だ。

そろそろアヴァロンが手狭になってきたので増設した新たなフロア。

将来的にはここにも街を作るが、戦争が起きたときにフロア入れ替えでアヴァロンとここを入れ替えて戦場にする。

自らのダンジョン内、もしくは同一パーティが敵を倒した場合しかDPは手に入らない。戦争という大規模な戦いでDPを無駄にするわけにはいかない。

このフロアで戦えば、ここも俺のダンジョンなので、しっかりとDPが吸収できる。

そこにサプライズを用意してある。

アヴァロンの街の最奥にある【平地】にたどりつく。

その光景を見て、文官をはじめとした兵士たちが凍り付く。

「こっ、これは、これは」

そこにはアヴァロンで街の警備にあたっている以外のすべてのゴーレムがそろえられていた。

その数、総勢三三二体。

異様な光景だ。

そいつら一斉に俺の命令で魔力を放つ。

その瞬間、隣街の使節団は確信する。

戦争をすれば負けるかもしれないと。

「この街のドワーフたちが作り上げたゴーレムたちです。この一体一体が、一流の冒険者たちと同じ力をもっております。戦争をするのはご自由ですが、もし仕掛けた場合、たとえ勝てたとしてもそちらも甚大な被害をこうむりますよ」

「あっ、ありえない、これほどの強力なゴーレム、国の賢者だって、作るのに莫大な年月が」

それも当然だ。鍛冶に対して圧倒的な能力と、補正をもつドワーフ・スミスたちですらCランクのゴーレムが限界。

もし、人間が同じことをしようとすれば、最低でもAランク上位の力がある。

「ご理解いただけましたか? アヴァロンと戦争をするならその覚悟をもって挑んでください。では、これで交渉は終了ですね。馬車まで案内しますよ」

凍り付いた使節団を街の入り口まで案内する。

これらを見せたのは威嚇。そして、ゴーレムの対策に注意を向けさせること。

アヴァロンにとって、露払いにすぎないゴーレムたちのために必死に対策をとってくれれば、他の手が使いやすい。

今回はアウラ率いるスナイパー部隊。ゴーレムと暗黒竜、そしてルルイエ・ディーヴァたちをメインに作戦を立案している。

残りは予備兵力としてとっておく。

そこがあくまで、亜人の街と言い張れる限界だろう。

真っ青になった使節団たちが帰っていく。

さて、ここまで脅して戦争になるか。人間側の対応が楽しみだ。

数日後、手紙が届いた。

隣街からの宣戦布告だ。戦争の開始は三週間後。

一応降伏勧告もあった、もともとより多少ましな条件を飲んで降伏すれば許してくれるらしい。

その降伏勧告を俺はびりびりに捨てる。

「馬鹿じゃないのか」

いちいち、宣戦布告をすること、三週間もの時間を与えてくれること。

まあ、こうなってはしょうがない。

身の程というものを教えてやろう。

それとは別にアヴァロン内の調整も必要だろう。

少しでも街から逃げる人間を減らさないといけない。