軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話:予期せぬ来客

ストラスと魔物交換を行いに行く際に、【竜】の魔王の形見分けについて話をきき、【竜】の魔王が消えるまえに、一度ゆっくり食事と酒を楽しもうと思っていた。

……それはそうなのだが。

「こんな、早くにその機会が訪れるとはな」

「……プロケル、ごめんなさい。昨日、いきなり押しかけてきて、プロケルのアヴァロンにいくぞって言いだして。迷惑だから止めたのだけど聞かなくて」

同盟者にして、友人でもある【風】の魔王ストラスが申し訳なさそうな顔をしていた。

ここはアヴァロンのカジノがある【平地】だ。

ストラスとは対照的に【竜】の魔王アスタロトは、いつもの厳しそうな顔ではなく、どこかはしゃいでいた。

「これが、プロケルのカジノか、こうゾクゾク来るのう」

「アスト、はしゃぐなみっともない」

初老の老人、【竜】の魔王アスタロトをたしなめたのは、切れ者の青年、【刻】の魔王ダンタリアンだ。

「ダン、こういう場でかっこをつけて大人ぶるほうが恥ずかしいぞ。だいたい、なんだその恰好は、一番はしゃいでいるのはダンではないか」

【刻】の魔王は妙に洒落たスーツを完璧に着こなしていた。美形かつ大人びた彼にはよく似合う。

そして、このメンツがいるということは。

「もう、この子は。どうして、こんな面白いものを作ったのに私を呼ばないのかな。来て、びっくりしたじゃない」

「……いつも言っているだろう。子供扱いするなって」

褐色の肌に、白い狼耳と尻尾。【獣】の魔王マルコシアス。

カジノの前に【竜】【刻】【獣】、最強の三柱が揃ってしまっている。

「プロケル、まあなんだ。わしらがどうして来たかは後にして、まずはカジノとやらを楽しませてもらえないか?」

「僕はアストの付き添いで仕方なく来たが、場をしらけさせるのものもあれだ。楽しませてもらおう……噂ではカルレットとバニャッタがあるらしいな。まずはそこに案内してもらおうか」

ダンタリアンはノリノリだ。

カルレットというのはカードゲーム。配られたカードで手役をつくるゲーム。ポーカーのようにコールを重ねていく心理戦が重要となる。

バニャッタのほうは、ダイスを使ったギャンブルでディーラーではなく、プレイヤー同士で戦い換金率が高い。

どちらも、人気があるギャンブルだ。

「ダンは、ギャンブルに詳しいんだな」

「少々たしなむぐらいだ」

「……そうか」

俺は【竜】の魔王と【刻】の魔王には敬語を使わないし、それぞれ、アストとダンと呼ぶ。

マルコの救出戦で協力を頼むのではなく、対等な取引をした。

それ以来、二人に敬語を使うなと言われてしまった。

「プロケル、私はやっぱり飛竜レースがみたいかな。それが一番人気らしいしね」

「ほう、そんなものがあるのか。【竜】の魔王として見逃すわけにはいかんな」

「アスト、マルコ、竜のレースは次は二時間後だ。それまで、好きに遊んでくれ。ダンはカードやダイスのほうが気に入ってるし、付き合ってやるといい」

アスタロトとマルコがにやりと笑う。ダンタリアンはすでにカジノのほうに向かって歩き出していた。

大事なお客様だ。

がんばってもてなそう。

「がはは、ダン、カジノというものは楽しいな」

「ビギナーズラックで少し勝ち越しているだけだ。調子に乗るなよ!」

「ふむ、そういうダンはギャンブラーとしても一流と言っておったくせに、全部すってしまったではないか」

「まだまだ、これからだ!」

アストの前にはチップが山のように積まれていた。

カードとダイスゲームを堪能し、今はルーレットを楽しんでいた。

アスタロトは戦略も何もなく、勘だけで賭けてぼろ勝ちしていた。

逆に、ダンタリアンのほうはかなり負けが込んでいる。大量に購入したチップが一枚も残っていない。

場を見ていろいろと計算しているみたいだが裏目に出ている。

この人は純粋に運がない。

「こいつをすべてチップに変えてくれ。ここから逆転する!」

ダンタリアンは、懐からぎっしりと金貨が入った巾着を取り出し、女性スタッフに渡す。

凄まじい金の使い方だ。

カジノ・ファフニールのチップにはいろいろと種類があり、ダンタリアンが購入にしているのは、最高金額のプラチナチップ。

一枚が金貨十枚。超VIP専用だ。

金貨十枚というのは比較的、給料が高いアヴァロンの労働者が一か月かかってようやく稼ぐ金額だ。

そのプラチナチップを山積みにする。

うわあ、プラチナチップを三十枚、一点賭けにしやがった。

ざっと計算して、労働者の約三年分の給料を賭けたことになる。ディーラーやスタッフの顔が引きつっている。

ディーラがルーレットを回した。からからとボールが回る。

……超一流のディーラともなれば、自由自在に目を出せる。その超一流のディーラの顔が引きつっていた。

無茶な賭け方と、ダンの放つ謎の威圧感に手元が狂った。

本来、こんなもの絶対当てさせない。……だが、手が狂った以上、万が一があり得る。

「ダンはどうやって金を稼いでいるんだ?」

微妙に気になった。

魔王の金策は、基本的にダンジョンにやってきた冒険者の遺品だ。

それらを、宝箱にいれて冒険者を呼ぶための餌にしたり、換金したりする。

いくら、【刻】の魔王のダンジョン規模が大きいとはいえ、こんな大金を湯水のように使って懐が痛まないとは考えにくい。

「いろいろだ。ベテラン魔王になると【宝物庫】や【鉱山】で金はいくらでも手に入るさ」

ダンはルーレットを見つめている。ころころとボールがホイールの回る。

【宝物庫】か、そういえばそんなものもあったな。

【魔王の書】を読み込み、ダンジョンに配置できる部屋の種類はすべてチェックしている。

だが、実際に検証できているわけではない。

【宝物庫】は確か、五〇万DPという超高額の部屋。

効果は、魔王のレベルに比例した宝を一週間に一つ生み出すというもの。

五〇万もあれば、Bランクの魔物を生み出す【渦】を四つ買ってお釣りがくる。

たかだか財宝のために、それだけのDPを支払うのはバカらしいと思っていた。

……しかし、冷静に考えてみるとAランク冒険者が命を懸けてでも挑むレベルの財宝が一週間ごとに生み出される【宝物庫】は有用かもしれない。

少し興味がわいてきた。

ルーレットが止まる。

ディーラーの顔が真っ青になった。ダンタリアンが勝った。一点賭けなら配当は27倍。こんな無茶な金額で負けたのだから、数日分の儲けがぶっ飛んだはずだ。……少し同情する。

カジノ全体で考えれば、たいしたことはないが、あとでディーラーはコナンナにこってり絞られてしまうだろう。

「よし、これで逆転だ! これが最後の勝負だったな。これから飛竜レースが始まるまで飲みにいく約束だ。僕の勝ちだ」

「……くっ、たった一度のまぐれで逆転しおって。だが、まだ目玉の飛竜レースがある。そこで逆転してやる。【竜】を見る目でわしに勝てると思うなよ」

「【竜】なら、僕も所持している。アストの専売特許じゃない」

……本当にこの二人は仲がいいな。

百年以上、絶縁していたのが嘘のようだ。

どっちのほうが儲けられるかで二人で勝負をして盛り上がっている。

そういえば、マルコたちはどこに行ったのだろう?

少し、探してみよう。

「プロケル」

アスタロトが声をかけてくる。

カジノに興奮してはしゃいでいる老人の声ではなく、威厳のある歴戦の魔王の声音で。

「ここに来たのは、ただ遊びにきたわけではない……大事な話がある。わしはプロケルを買っているのだ。だからこそ、ストラスと我が竜を託したい。そうだな、飛竜レースが終われば、話させてもらう。プロケルよ。おまえはどんな魔王になりたい? その答えを後で聞かせてくれ……ということで、わしはダンと飲んでくる! アヴァロンの酒と飯はうまいからのう。楽しみだ!」

飛竜レースが始まるまで英気を養うと言って、二階のテナントに向かった二人と別れる。

どんな、魔王になりたい……か。

ちゃんと答えを出さないといけないだろう。ストラスと竜を託すその意味も気になる。

アスタロトの問いについて考えながら、俺はマルコとストラスを探し始めた。